2019年02月19日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(6)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-

中村 亮一

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(3-3 ) NSAs がソルベンシーIIへの円滑な移行を確実にするために必要であるかどうかを移行の承認において考慮したかどうか
様々なアプローチが観察された。

・5つのNSAsは、承認プロセスの間に、移行が会社の適用に必要であるかどうかを明確に検討した。

・他のNSAsも、移行措置の適用が会社にどの程度必要であるかを評価した。

・あるNSA は、移行措置を適用する動機として、潜在的に不利な将来の状況に対する耐性力の強化を述べた。

・別のNSAは、この措置はソルベンシーIIへの移行を確実に成功させるために適切で必要な手段であると考えている。ソルベンシーIIの導入前は、承認プロセスの間、この管轄区域はソルベンシーII体制の下での会社のソルベンシーポジションに焦点を当てていなかった。このNSAはまた、移行措置なしではソルベンシー資本要件を満たさない多数の会社を観察した。

(3-4) 2016年1月1日以降の移行措置の適用の開始
・大多数のNSAsは2016年1月1日以降も措置の承認を認めている。

・5つのNSAsはそれを認めていない。

・残りのNSAsのうち2つは、いずれの会社もその国におけるTTPの遅延適用を要求していない。

・2017年中に、移行措置の使用は4か国からの7つの会社に承認された。2018年に承認を受けた別の申請もあった。

遅延適用の背後にある理由は主として、以下の通りだった。

・グループ内の全ての会社への拡張。措置の適用は当初、ごく少数の会社のみが要求しており、ソルベンシー比率を計算するためにグループ間で同種のアプローチに移行した。

・例えば、より高い金利のボラティリティに備えて、追加の資本準備金を保有する意図
いずれのNSAsも、会社のリスクプロファイルがTTP/TRFRの根底にある仮定から大きく外れるケースを報告していない。
(4)全体的な評価
不平等な競争環境は、上記のようにLTG措置と株式リスク措置の異なる適用から生じる可能性がある。措置自体が国内市場間で差別化されている場合にも、不平等な競争環境が生じる可能性がある。それは、ソルベンシーIのような最小調和システムからソルベンシーIIのような最大調和システムへの移行のための当然のケースである。

TTPとTRFRの移行調整は、ソルベンシーIの評価規則を参照して計算される。これらの規則は統一されていないため、加盟国によって異なり、国内市場全体で技術的準備金の金額及び割引率が異なる。従って、同じ負債とリスクを有するが異なる加盟国に所在する2つの会社は、両者がTTP又はTRFRを適用する場合、異なる技術的準備金を有する可能性がある。

いずれのNSAsも、ポートフォリオの移管、合併及び買収に対するLTG措置による影響を説明していない。あるNSAは、移転はLTG措置ではなくEUの撤退など他の要因によって推進されていると明確に述べた。
 

3―LTG措置等の金融安定性への影響

3―LTG措置等の金融安定性への影響

1|調査概要
ソルベンシーII指令第77条(3)(j)によれば、LTG措置と株式リスク措置のレビューは、金融安定性に対する措置の効果を分析しなければならない。その目的のために、EIOPAはNSAsに、金融の安定性に関連したLTG措置に関する彼らの経験について尋ねた。
2|調査結果
21の NSAsは、LTG措置の全てについて金融安定性への影響は見られないと回答した。

(1)VAMA
6つのNSAsは、信用スプレッドが比較的低い全体的な信用スプレッドで大幅に変化しなかった安定した市場環境のため、予想通り、MA及びVAが2017年の金融安定性に与える影響はないと述べた。そのため、MAとVAも2017年にそれほど変わらず、大きな影響はなかった。

(2)オーバーシュートVA
あるNSAは、VAを適用することは、比較的長期の負債と比較的少ないそして比較的よりリスクのない債券投資を行っている会社のための自己資本にオーバーシュートの影響を与えるとコメントした。スプレッドが拡大した場合、それらの会社によるVAの適用は、それらの投資における価値の減少よりも技術的準備金の評価の大幅な減少を意味する。そのため、信用スプレッドが拡大すると、これらの会社の自己資本が増加する。

(3)単一ユーロ圏内の国に影響を与えるスプレッド拡大の場合のユーロVAの動き
ユーロ圏のVAについて、他のNSAは、その地域の単一の国に影響が及ぶスプレッドの拡大の場合、技術的準備金、自己資本及びソルベンシー比率のボラティリティに関して、全てのユーロ圏の国々に影響するいくつかの望ましくない影響が観察される可能性があると述べた。

特に、スプレッド拡大の影響を受けている国では、国独自の増加が反映されないため、この措置は国の監督当局によって期待される安定化を提供しない。スプレッド値がトリガーポイントの周辺にある場合、月次VA計算の国別コンポーネントは、バイナリーのアクティブ化メカニズムのためにクリフ効果を示す。これにより、通貨と国のVAが切り替わるため、総VAは高い(ローカルの)ボラティリティを持つ非線形関数になる。そのVAの動きは1つの四半期内で起こったので、それは技術的準備金の計算を拘束するようになった一連の四半期毎のVAには反映されなかった。

他のユーロ圏諸国では、単一加盟国のスプレッドの拡大は、必ずしもユーロ圏全体の財務状況の悪化と相関しないユーロVAの拡大を意味する(オーバーシュート効果)。この場合、他のユーロ圏諸国では、必ずしも資産価値の低下や会社の資産収益率の増加によって相殺されるわけではないが、技術的準備金の低下が生じる。このような状況は予期せぬ過度の資本救済の事例につながる可能性がある。

(4)TTP
2つのNSAsは、TTPが金融の安定性に与える影響に関するアンケートに回答し、TTPを適用しなければ複数の会社がSCRを遵守しなかったことを指摘した。TTPを適用する会社が全てSCRを遵守していない他の管轄区域からのNSAは、金融の安定性への影響を示唆していない。

(5)株式リスクの対称調整
あるNSAは、株式リスクの対称調整の根底にある指標は、その会社がさらされている株式指標の動きと一致していないと述べた。

(6)補外
あるNSAは、ユーロ通貨の補外の現在のパラメータ化は技術的準備金の価値を安定させると答えた。別のNSAは、技術的準備金の評価は安定しているかもしれないが、現在のパラメータ化のために自己資本の量は不安定になるかもしれないとコメントした。自己資本の金額が安定しているかどうかは、金利ヘッジ及びキャッシュフローマッチングの程度によって異なる4
 
4 LLP(Last Liquid Point:最終流動性点)を超えた負債のキャッシュフローと大部分マッチしている会社は、LLPを超えた負債のキャッシュフローとあまりマッチしていない会社よりも、自己資本のボラティリティが高くなる。これは、現在のパラメータ化が技術準備金の評価の目的でのみ金利のボラティリティをLLPを超えて減少させる一方で、市場価値が利用可能な資産の価値はLLPを超えた市場金利のボラティリティに完全に敏感なままであるという事実によって説明できる。自己資本のボラティリティを最小限に抑えるキャッシュフローマッチングの量は、他の側面の中でも、LLPを超えたキャッシュフローの相対量、及びリスクフリー金利期間構造のレベルと形状によって異なる。大部分がマッチしている会社は、例えば、より遅いLLPのような異なるパラメータ化で自己資本のボラティリティが低くなる。比較的少ないマッチしかしていない会社は、より遅いLLPの場合、自己資本のボラティリティが高まることになる。
3|IMF(国際通貨基金)のFSAP(金融セクター評価プログラム)の勧告
国際通貨基金(IMF)は、ユーロの評価の一環として、金融セクター評価プログラムの下でLTG措置を分析5している。IMFは、LTG措置について、以下の2つの勧告を行っている。

(1) EIOPAは、措置がストレス時に保険会社の負債を軽減するだけでなく、適時に追加の準備金を積み上げるようにも設計できるということを達成するために、LTG措置をより対称的な措置に変換する方法を探求すべきである。

(2) EIOPAは、ソルベンシー及び財務状況報告書の要約の中で、会社がLTG措置や移行措置の使用についてどのように質的に議論すべきかについてのより詳細なガイドラインを提供することによって、LTG措置や移行措置の使用に関する公衆開示を改善すべきである。  

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAの報告書の第2のセクションに記載されているLTG措置や株式リスク措置が直接的に会社の財務状況に与える影響以外の項目のうち、EU保険市場における競争と公平な競争の場、金融安定性に与える影響について報告した。

今回が3回目の報告書ということで、LTG措置や株式リスク措置がこれらの項目に与える影響については、これまでの2回の報告書に比べて、より充実した分析を行っている。その結果、必ずしも十分な因果関係が得られているわけではないが、それぞれの項目に対して、一定程度の影響があることも示されている。

特に、EU保険市場における競争と公平な競争の場への影響については、EU各国の監督当局等でのLTG措置等の具体的な適用基準の差異や移行措置によるソルベンシーIの影響の存在等から、同一の財務状況下にある会社間で比較可能な形での整合的な取扱が行われておらず、不平等な競争環境が生じる可能性があると、指摘されている。

また、金融安定性への影響は、措置毎にその意味合いは異なってくることが報告されている。

今後さらなるデータ収集や報告を重ねる中で、より一層明確な分析が行われていくことが期待されることになる。

次回の7回目のレポートでは、報告書の第4のセクションに毎回のテーマ別の情報として記載されている項目である「リスク管理」について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年02月19日「保険・年金フォーカス」)

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【EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(6)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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