2019年02月12日

ベーシック 米国生保業界の概要(3)米国生保業界のプレーヤー2017-米国生命保険協会のファクトブック掲載データから-

松岡 博司

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はじめに

米国生保協会の『ファクトブック』を主な情報源として見ることができる「米国生保協会が消費者に伝えたいと描く自画像」を、さまざまな角度から見ていくシリーズの第3回。

今回はファクトブック第1章「OVERVIEW(概要)」を使って、「米国生保業界のプレーヤー」を見る。
 

1―― 米国生保市場における事業者数

1―― 米国生保市場における事業者数

1|非常に多い事業者数
2017年末現在、米国生保市場では781の事業者が生命保険、医療保険、年金の事業を行っている。わが国の生保会社数(2019年1月現在41社)に比べ格段に数が多い 。米国では50の州ごとに保険会社の監督が行われており、事業を行うには各州の免許が必要で、生保会社の活動も元来は州を基準にしていたという事情が、その背景にある。

なお米国に法定準備金を持つカナダの特定の生命保険会社の中には、カナダの本社等から米国の消費者に直接、保険を販売することを認められているものがあるが、カナダの生保会社の業績は、米国生保協会のファクトブックの統計数値には含まれていない。
2|事業者数は長期推移では減少トレンド
米国における生保事業者の数は、1988年をピークに、右下がりで減少してきた。2017年末の事業者数781は、ピークをつけた1988年末の2,343から見れば3分の1の水準にまで減少している。

事業者数の減少トレンドは2017年も持続している。2017年中には16事業者、減少した。
図表1 米国生保市場における事業者数の長期推移
こうした事業者数の減少は、主に合併、買収を通じた統合の進展により引き起こされている。米国生保市場ではグループの統合が進行しており、781事業者のほとんどは、いずれかのグループに所属している。こうした統合を通じた合理化の進行により、事業コストと諸経費が削減され、経営効率が大幅に向上したと、ファクトブックは評価している。
 

2――生保事業者の組織形態

2――生保事業者の組織形態

1|主な生保事業者の組織形態
米国の生保市場で活動している事業者の主な組織形態は、生保株式会社、生保相互会社、フラターナル組合である。
  • 生保株式会社は、株式会社形態で設立された生保会社である。
  • 生保相互会社は、株主がなく、保険契約者が保険契約と同時に会社の株主的な立場(社員)となる組織形態の会社である。

これらは、わが国における生保株式会社、生保相互会社と同様である。
 
フラターナル組合は、わが国でいえば、共済組合に相当する組織である。ただし、ロッジ(集会所・支部)システムと呼ばれる地方組織をベースとした組織構成を持ち、保険を提供することだけでなく、地域のロッジをベースに、組合員や地域コミュニティを対象とするフラターナル活動(友愛的活動、慈善・福祉活動、社会貢献活動)を行うことをも目的とするという点で、わが国の共済組合とは異なる、米国独自の組織となっている。ファクトブックもフラターナル組合の特徴を、「フラターナル組合は、メンバーに社会的給付と保険給付の両方を提供します。これらの組織はロッジシステムを通して運営することを法的に要求されており、ロッジのメンバーとその家族だけがフラターナル組合の保険を所有することができます。」と表現している。

2017年末現在、あわせて3,460億ドルの生命保険保有契約高と1,720億ドルの資産を有する76のフラターナル組合がある。
2|各組織形態ごとのシェア
組織形態ごとの機関数、保険料収入、総資産のシェアは図表2の通りである。

生命保険者事業者中、最大の勢力は株式会社である。全生保事業者781社中584社、75%と、4分の3の生保事業者は株式会社である。株式会社は、機関数だけでなく、保険料収入、総資産についても、4分の3程度のシェアを占めている。

生保相互会社は機関数では14%のシェアであるが、保険料収入、総資産のシェアでは2割を超えるシェアを有している。

フラターナル組合は機関数では10%弱のシェアを有するが、保険料収入、総資産のシェアでは2%前後で、販売している契約が小口であることがわかる。
図表2 米国生保業界の事業者の構成比
なお、このデータでは、生保相互会社またはフラターナル組合が株式会社形態の生保会社を買収または設立して、グループ内に株式会社形態の生保会社を抱えることになった場合の、それら生保株式会社の機関数、保険料収入、総資産を、生保相互会社またはフラターナル組合の数値としてカウントしている。純粋に法的な組織構造が相互会社やフラターナル組合である機関のみを相互会社またはフラターナル組合として抜き出した場合には、相互会社、フラターナル組合の数値、シェアは、もっと小さなものになる。

また、相互会社の中には、相互持株会社の仕組みをとるグループも含まれている。これは、グループとしての相互性を維持しつつ資本調達力を増すために、相互会社形態の持株会社(相互持株会社)を設立して、契約者と保険契約を締結する生保会社は相互持株会社傘下の株式会社形態の生保会社となり、その生保株式会社と保険契約を締結した保険契約者には相互持株会社の持分権者としての社員たる地位を与えるというものである。
 

3――外資系生保会社 

3――外資系生保会社 

米国生保市場は世界最大の生保市場であるため、米国外の生保会社が米国市場に参入している例は多い。図表3は会社数で見た米国生保市場における外資系生保会社の状況である。米国市場における外資系生保会社の数は、2017年末で107社、全生保会社数に占める外資系生保会社数の割合は13.7%となっている。
図表3 米国生保市場における外資系生保会社数と外資占率の推移
図表4は、2017年の外資系生保会社107社の親会社の本拠国の分布状況である。地続きの隣国カナダを親会社の本拠国とする生保会社が27社と圧倒的に多い。

また、日本を親会社の本拠国とする生保会社が15社で、第2グループにつけていることが印象的である。

2014年から2015年にかけての日本の大手生保会社による米国中堅生保グループの買収、具体的には、第一生命によるプロテクティブ社買収(2014年)、明治安田生命によるスタンコープ社買収(2015年)、住友生命によるシメトラ・フィナンシャル社買収(2015年)、が反映され、日系の外資生保会社の数が多くなったものと考えられる。なお、2013年末時点では日系の外資生保会社は5社であった。
図表4 外資系生保の本拠国の分布状況

4――連邦政府による軍人向け保険の提供、仲介

4――連邦政府による軍人向け保険の提供、仲介

米国生保協会は、ファクトブック第1章「概要」の中で、連邦政府の「退役軍人局(The Department of Veterans Affairs)」が提供する退役軍人およびその家族を対象とする生命保険等にも触れている。  

ファクトブックの情報に若干の補足情報を加えてまとめると、退役軍人局の生命保険関連プログラムは以下の通りである。

◯ 以下は、その時々の戦争や政治情勢によって政府が提供する退役軍人向けの保障プログラムとして、特定の期間、設けられたもの。現在は新規の保障提供を行っておらず、既存の被保険者に関する管理のみが行われている。
  • アメリカ合衆国政府生命保険(U.S. Government Life Insurance)(1919-1 951)
  • 全米軍人生命保険(NSLI=National Service Life Insurance)(1940-1951)
  • 退役軍人特別生命保険(Veterans’Special Life Insurance)(1951-1956)
  • 退役軍人再開保険(Veterans’Reopened Insurance)(1965-1966)
 
◯ 以下2つの保障プログラムは現在も新規の保障を提供している。
  • 軍務障害退役軍人保険(Service-Disabled Veterans Insurance)
    1951年4月以降の軍務に関連して障害を負い、その他の方法では保険に加入できない退役
  • 退役軍人住宅ローン生命保険(Veterans’Mortgage Life Insurance)
 
◯ また退役軍人局は、民間生保会社が提供する団体生命保険である以下3つの生命保険プログラムの監督も行っている。
  • 軍人団体生命保険(SGLI =Service members’Group Life Insurance)
    制服組現役軍人及び予備兵が対象
  • SGLI 家族保険(SGLI Family Coverage)
    SGLIの保障を家族にまで拡大
  • 退役軍人団体生命保険(Veterans’Group Life Insurance)
    退役軍人が対象

このうち最大の生命保険プランである軍人団体生命保険(SGLI)は、2017年末現在、8,080億ドルの保有契約高、220万件の保有契約件数を有している。
 

5――保険事業者の雇用

5――保険事業者の雇用

米国生保協会のファクトブックは、第1章「概要」の最後に、保険業界による雇用についても説明を加えている。

それによると、2017年現在、米国の保険会社は、ホームオフィス職員として151万9,900人(生命保険業界だけだと34万8,300人)、エージェント、ブローカー、サービス職員として113万5,700人を雇用しているとのことである。
 

さいごに

さいごに

以上、生保プレーヤーの面から米国生保市場の概況を見てきた。

米国生保協会の「ファクトブック」にはさらに様々な情報が盛り込まれている。今後も継続的に「ファクトブック」を材料とした米国生保事情の紹介を行って行くこととしたい。
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研究・専門分野

(2019年02月12日「保険・年金フォーカス」)

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