2019年02月08日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(4)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-

中村 亮一

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3―LTG措置等の保険会社の投資への影響

1|調査概要
MA、VA、TRFR、TTPの保険及び再保険会社への投資に対する影響を評価するため、EIOPAはソルベンシーIIの下でNSAsに報告された会社の投資配分を調査分析した。

報告書のこの一般的なセクションにおいては、以下の3つの観点から会社の投資を検討している。

・投資配分
・国債と社債を別々に対象とした債券ポートフォリオの信用度
・国債と社債を別々に対象とした債券ポートフォリオのデュレーション

これらの検討については、EEA(欧州経済地域)市場全体について、MA、VA、TTP、TRFRを用いた会社又はいずれの措置も非適用の会社について別々に検討され、また会社の種類も区別した。

また、2018年報告書では、2017年報告書までの全体の数値に加えて、インデックスリンク(IL)やユニットリンク(UL)契約に対する投資を除外した図表も掲載しているが、以下では基本的には後者のILやULを除いたベースの図表に基づいた分析を報告する。

国毎の投資配分の多様性を観察することができる。LTG措置及び株式リスク措置を適用する会社の投資を分析する場合、特にある措置の適用が全ての国で等しく一般的ではない場合は、これらの国の特性を考慮する必要がある。 
2|具体的な調査結果
(1)全体的な状況
次の図表は、2017年末の保険及び再保険会社の投資配分を示している。
図表 国別の平均投資ポートフォリオ(ILやULを除いたベース)
会社の異なるグループ間の平均資産配分又は債券ポートフォリオの特性の違いは、ある程度、EEAに参加している国々の保険会社による資産投資の高度な多様性、そしてこの措置の使用が異なる市場に均等に広がっていないという事実に起因している。これは特に2つの国でのみ使用されているMAに関連している。国レベルでの詳細な分析からわかるように、これらの管轄区域における投資は、MAを適用する会社でも全く異なる可能性がある。従って、MAを適用する会社に関する全体的な観察結果は、MAの適用の有無ではなく、これらの国のいずれか又は両方における保険事業の特異性を単に反映しているのかもしれない。
(2) MA、VA、TRFR又はTTP措置を用いた会社の投資ポートフォリオ
以下の図表は、MA、VA、TRFR又はTTPを適用する、又はこれらの措置の1つも適用しない(no measure)会社の2017年末の投資配分を、全てのEEA会社の投資配分と比較して示している。これらの図表では、ユニットリンク/インデックスリンク契約に対する投資は除外されている。

最初の図表は、全ての会社の措置当たりの投資を示している。次の図表は、様々な種類の会社に対する措置当たりの投資を示している。

これらの図表は、投資配分にいくつかの違いがあることを示している。
図表 MA、VA、TRFR又はTTPを適用又はこれらの措置の1つも適用しない会社(no measure)の2017年末の投資配分(ILやULを除いたベース)
生命保険会社の図表では、特定の措置を使用した場合の会社間の投資配分の違いはかなり限られている。最も顕著な違いは、MAを使用した会社による投資であるが、MAは2カ国の会社でのみ使用されている。

また、生命保険会社では、VAが最も広く使われている措置となる。生命保険会社の図表は、VAを使用している会社による投資配分が、VAを使用していない会社の投資配分とかなり類似していることを示している。

これらの図表から会社の投資に対するLTG措置の因果的影響についての結論を引き出すことは困難であるため、資産配分又は債券ポートフォリオの特性と措置の適用との間の相関関係を分析することを望む場合、投資に関するこれらの図表については細心の注意を払う必要がある。
(3) MA、VA、TRFR又はTTP措置を用いた会社の債券ポートフォリオ
(3-1)債券の信用度
以下の図表は、MA、VA、TRFR又はTTPを2017年末に適用した会社の債券ポートフォリオの信用度を示している。信用度は、0から6まで変化する信用度ステップ(CQS)で測定される。0は最も高い信用度を示し、6は最も低い信用度を示す。「投資適格」とみなされる社債は、通常、0と3の間のCQSを有する。

・実質的に債券への全ての投資は投資適格(CQS0 ~CQS3)である。

・平均して、MA、VA、TRFR又はTTPの措置を適用する会社は、これらの措置のいずれも適用しない会社よりも信用度の低い債券を保有している。

・平均して、MAを適用する会社は他の会社よりも信用度の低い債券を保有している。
図表 国債と社債の信用度(措置適用有無別)(ILやULを除いたベース)
(3-2)債券のデュレーション
以下のページの図表は、国毎に、債券ポートフォリオの平均デュレーションを国債と社債で分けて示している。少なくとも1つの措置を適用した会社と、何も適用していない会社を区別している。

これらの図表を検討する際には、今回の報告書の様々な補外シナリオに対する会社の財務状況の感応度に関するセクションも参照することが興味深い。会社が補外シナリオに対して平均的に最も敏感である国々は、自国の国債ポートフォリオの期間が長いことを示している。大まかに言って、国債のデュレーションは、少なくとも1つの措置を使用した会社の方が、いずれの措置も使用していない会社の場合よりも長くなる。社債の期間は国債の期間より短くなる傾向がある。デュレーションに関する図表には、ユニットリンク/インデックスリンク契約に対する投資は含まれていない。
図表 国債ポートフォリオの平均デュレーション(ILやULを除いたベース)
図表 国債ポートフォリオの平均デュレーション(ILやULを除いたベース)
(4)投資行動に関する監督上の観察
LTG措置及び株式リスクに対する措置が会社の投資行動に与える影響についての情報を収集するために、EIOPAはNSAsに対して、長期投資家としての会社の行動の傾向に関する観察、それらの動向に関連する要因及び措置と観察された傾向との間の関連についての彼らの見解について尋ねた。

21のNSAsは、長期投資家としての会社の行動に関して彼らの国内市場においていかなる傾向も観察しなかったと報告した。これは、2016年及び2017年の報告書(NSAsの約半数が投資行動に傾向がないと報告している)で行われた観察よりも少し多い。

残りの11のNSAsのうち、2つは国債から社債への再配分を観察し、3つはローンや住宅ローンのような非流動資産への投資の増加を観察し、そして2つは現金と現金同等物への配分を犠牲にして社債の増加を記録した。また、あるNSAは集団投資会社への間接投資の増加を報告した。別のNSAは、ベイルイン適格資産(銀行へのエクスポージャー)の減少を報告した。4つのNSAsが資産のデュレーションの変化を報告した。

NSAsはまた、株式保有に関して何らかの傾向があるのか​​どうかを尋ねられた。NSAsの大多数はそのような傾向を観察しなかったと報告した。あるNSAは、直接投資によるのではなく、むしろ投資ファンドによる株式へのエクスポージャーの増加を報告した。

債券ポートフォリオのデュレーションに関連して、4つのNSAsが国内市場の傾向を観察したと報告した。2つのNSAsは、2つの異なる理由で投資のデュレーションの減少を報告した。1つの管轄区域は、予想金利の増加から利益を得たことによるが、別の管轄区域ではこの減少は彼らの投資の金利感応度と彼らの負債のソルベンシーII金利感応度との整合性を高めるために負債のキャッシュフローマッチングの金額が減少したことによるものだった。逆に、2つのNSAsが債券ポートフォリオのデュレーションが増加する傾向を報告した。1つの管轄地域では2つの新しい長期国債の発行によるものであり、もう1つの管轄地域では資産負債管理及び低利回り環境下での利回りの追求によるものであった。

NSAsが取り組む傾向と変化の主な原動力は、低利回り環境とそれに関連する利回りの追求及び資産負債のマッチングだった。さらに、いくつかのNSAsは、変化に影響を与える要因として、多様化、資産のリスク回避、リスク上昇(低利回り環境には関係ない)及びESGを示した。

過去数年の報告と一致して、MA、VA、SA又はDBERの使用と長期投資家としての会社の投資行動に関する経験的傾向/変化との間の重要な関連性についての事実に基づいた証拠をNSAsは提供しなかった。あるNSAは、現在のソルベンシーIIの基本リスクフリーレートの期間構造の補外は、会社がキャッシュフローマッチングの金額を減らすことにインセンティブを与えており、実際にそうしていることを観察した、と指摘した。
(5)資産収益
QRT(定量報告書テンプレート)には、資産カテゴリー別の資産収益(利益と損失)に関する情報も含まれている。QRTに含まれる情報は、以下の利益と損失の原因を区別している。

・利息(稼得利息金額、即ち、受取利息から期首の未収利息を差し引き、期末の未収利息を加えた金額)
・家賃
・配当金
・純損益(報告期間中に売却又は満期が到来した資産から生じる)
・未実現損益(報告期間中に売却されなかった又は満期になっていない資産の価値の変動から生じる)

それぞれのカテゴリーの資産の価値に関連してこれらの(絶対的な)資産収益を置くことによって、相対資産収益を導き出すことができる。

次の図表は、CICコード1(国債)、2(社債)、5(仕組債)、6(担保付証券)、及び8(モーゲージ及びローン)の資産区分について、欧州レベルでこの情報を要約したものである。
CICコードの資産区分
表示されている相対的な損益は、2017年の初めにそれぞれの資産区分の資産価値のうち、2017年に発生した損益の割合として決定される。ユニットリンク又はインデックスリンク契約に対する資産は除外されている。

これは、検討された5つの資産カテゴリー全てにわたって、また欧州レベルでも、会社の開始時の資産価値の2,7%に相当する利息の増加が報告されたことを示している。 2017年中のこれらの投資の価値の変動(それぞれの資産が売却されなかった、又は満期になっていない場合)は0.3%の未実現損失となったが、2017年に売却又は満期となった資産は0.2%の純損失となった。

これらの数値を評価するときは、次のことを考慮する必要がある。

・上記の値は欧州レベルで集計されている。個々の会社のレベルでの対応する値は、高い分散を示しており、従って一般的に欧州レベルの値とは異なる。

・上記の資産収益は、特定の時点における各投資の利回りと直接比較することはできない。例えば、ゼロクーポン債の場合、満期前の利子は発生しないが、債券の利回りは通常ゼロとは異なる。
 

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAの報告書の第2のセクションに記載されているLTG措置や株式リスク措置が直接的に会社の財務状況に与える影響以外の項目のうち、保険契約者保護、保険会社の投資に与える影響について報告した。

次回の5回目のレポートでは、LTG措置や株式リスク措置が直接的に会社の財務状況に与える影響以外の項目のうち、消費者及び商品、EU保険市場における競争と公平な競争の場、金融安定性に与える影響について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年02月08日「保険・年金フォーカス」)

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【EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(4)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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