2019年02月04日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(3)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-

中村 亮一

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1―はじめに

前回のレポートでは、EIOPA(欧州保険年金監督局)が2018年12月18日に公表した「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2018(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2018)」1に基づいて、EU(欧州連合)のソルベンシーIIにおける長期保証(Long-Term Guarantees:LTG)措置及び株式リスク措置のうち、UFR(Ultimate Forward Rate:終局フォワードレート)の使用、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)の適用状況について、その国別の適用会社数やSCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)比率への影響等について報告した。

今回のレポートは、EIOPAの報告書の第3のセクションから、TTP(技術的準備金に関する移行措置)とTRFR(リスクフリー金利に関する移行措置)という移行措置及びDBER(デュレーションベースの株式リスクサブモジュール)、ED(株式リスクチャージの対称調整メカニズム)の株式リスク措置及びERP(ソルベンシー資本要件に準拠しない場合の回復期間の延長)の適用状況について、その国別の適用会社数やSCR比率への影響等を報告する2,3
 
1 News
 https://eiopa.europa.eu/Pages/News/EIOPA-publishes-its-third-annual-analysis-on-the-use-and-impact-of-long-term-guarantees-measures-and-measures-on-equity-ris.aspx
 報告書
 https://eiopa.europa.eu/Publications/Reports/2018-12-18%20_LTG%20AnnualReport2018.pdf
2 前回のレポートで述べたように、以下の図表及び図表の数値は、特に断りが無い限り、EIOPAの「長期保証措置と株式リスクに対する措置に関する報告書2018」からの抜粋によるものであり、必要に応じて、筆者による分析数値を加えたり、表の項目の順番を変更する等の修正を行っている。
3 LTG措置や株式リスク措置の具体的説明については、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-」を参照していただきたい。
 

2―措置毎の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)

2―措置毎の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)-その2(TRFR、TTP)-

この章では、TRFR(リスクフリー金利に関する移行措置)とTTP(技術的準備金に関する移行措置)という移行措置の適用状況について、その国別の適用会社数やSCR 比率への影響等を報告する。
1|TRFR(リスクフリー金利に関する移行措置)
(1)適用会社
TRFRは5カ国(ドイツ、フランス、ギリシャ、アイルランド、英国)からの7社が適用している。前回の報告書に比べて英国からの1社が増加している。

全てが生命保険会社又は生損保兼営会社である。

なお、グループで見れば、ドイツとオランダと英国の3つのグループとなっている。
TRFRの国別適用状況(会社及びグループ数)
TRFRを用いた3つの会社の市場シェアの合計が国内市場の約20%であるギリシャを除いて、TRFRを用いた会社の技術的準備金における市場シェアは、EEA(欧州経済地域)と各国レベルの両方で無視できる。

また、TRFRとVA(ボラティリティ調整)を同じ負債に同時に適用することができるが、TRFRを適用する7社のうち、6社はVAも適用している。
(2)SCR比率への影響
TRFRの非適用により、適用会社全体の平均SCR比率は206%から156%に50%ポイント低下する。

適用会社のSCR比率の分母のSCRは平均8%増加し、分子の適格自己資本は平均19%減少する。
図表 TRFR 非適用のSCR 比率への影響(措置適用会社)
(3)技術的準備金への影響
TRFRの非適用により、適用会社の技術的準備金は5.3%増加する。
図表 TRFR非適用の技術的準備金への影響(措置適用会社)
(4)TRFRに関する追加情報
TRFRによるリスクフリー金利に対する平均調整は、2016年の約1.6%に対して、2017年は約1.2%であった。

保証レベル帯域別の最良推定値の分布やデュレーションの分布は、以下の通りとなっている。保証レベルが2%から3%の帯域での最良推定値の金額が顕著に高くなっている。また、最近の保証利率水準の引き下げ動向を反映して、一般的には保証レベルが低い帯域ほどデュレーションがより長くなっている傾向がある。
図表 保証レベル帯域別の最良推定値の分布/図表 保証レベル帯域別のデュレーションの分布
2|TTP(技術的準備金に関する移行措置)
(1)適用会社
TTPは11カ国からの162社が適用している。なお、前回の2017年の報告書では11カ国からの163社が適用していたので、EEA全体としては1社が減少しただけで大きな変化は見られなかった。ただし、国別ではフランスで4社増加し、ドイツで5社減少する等の動きが見られた。

国別では、ドイツが58社で最も多く、次が英国の27社、スペインの23社となっている。
TTPの国別適用状況(会社数)
EEA全体では、技術的準備金の24.8%に対して、TTPが適用されているが、国別では英国が14%、ドイツが5%を占めている。
図表 TTPを使用している会社の技術的準備金のEEA市場シェア
ノルウェーでは87%の技術的準備金に対してTTPが適用されており、英国、フィンランド、ポルトガルでは50%以上の技術的準備金に対してTTPが適用されている。

TTPとMA(マッチング調整)やVAとの併用会社の状況については、それぞれ前回のレポートのMA、VAの項目で報告したが、TTPとMAを併用している会社は25社で技術的準備金のシェアは13%、TTPとVAを併用している会社は124社で技術的準備金のシェアは17%となっている。

なお、TTPを使用しているEEAグループは77グループとなっている。
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中村 亮一

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