2019年02月01日

原油相場の注目点と見通し~カギを握るトランプ政権

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(1月):2019年度の物価見通しを大幅に下方修正

(日銀)現状維持
日銀は1月22日~23日に開催された金融政策決定会合において金融政策を維持した(長短金利操作の賛否・・・賛成7・反対2)。原田、片岡両審議委員は、従来同様、長短金利操作とフォワードガイダンスに対して反対を表明した。

会合終了後に公表された展望レポートでは、景気の総括判断を従来同様、「緩やかに拡大している」に据え置いたほか、個別項目にも特段の変更は無かった。先行きの景気見通しについては、「拡大基調が続く」と表現をやや変更(前回12月会合後の声明文では「緩やかな拡大を続ける」)している。需給ギャップのプラス圏維持や予想物価上昇率の高まりによって、物価上昇率が2%に向けて上昇していくとのシナリオに変更は無い。

リスクバランスについては、前回10月の展望レポート同様、経済見通しについては「海外経済の動向を中心に下振れリスクの方が大きい」、物価見通しについては「中長期的な予想物価上昇率の動向を中心に下振れリスクの方が大きい」とし、それぞれリスクは下方に傾いていると評価している。

2018~20年度の政策委員の大勢見通し(中央値)では、2018年度から20年度にかけての物価上昇率が前回展望レポートから下方修正された。とりわけ2019年度については、0.5ポイントの大幅な下方修正となった(前回1.4%→今回0.9%)。物価見通しは相変わらず下方修正が続いており、2020年度時点でも1.4%まで下がってきている。2%目標との乖離がますます拡大しており、物価目標達成の道筋は見通せなくなっている。
 
会合後の総裁会見において黒田総裁は、2019年度物価見通しの大幅な引き下げについて、「昨秋以降の原油価格の下落によるところが大きく、その直接的な影響は一時的なものにとどまる」と考えられ、「物価安定の目標に向けたモメンタムはしっかりと維持されている」と説明。「需給ギャップがプラスの状態ができるだけ長く続くよう、政策の持久力を意識し、ベネフィットとコストの両方を考慮しながら、適切な政策運営を行っていくことが大事」であり、「現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが最も適当である」との認識を示した。

また、年末年始の市場の不安定化については、「市場の動きは、先行きの不確実性に対してやや過敏であった」との見方を示した。不安定化の背景にある世界経済の下振れ懸念については、「現時点で米国にしても中国にしても、メインシナリオを変えるようなリスクが顕在化しているとか、顕在化しつつあるという状況ではない」としつつ、「リスク自体はやや高まっているということだと思うので、(中略)必要があればもちろん追加的な措置もとる」と説明した。その関連で、日銀の追加緩和余地が狭まっているという見方については、「(量的緩和などの)非伝統的な金融政策の余地が狭まっているということではないので、政策の余地が全体として狭まっているとは思わない」と完全に否定した。

今後見込まれる携帯電話料金の引き下げが物価に与える影響については、「携帯電話料金は一定のウエイトがあるため、足許で消費者物価の上昇率を引き下げる方向に働くことはありうる」ものの、「消費者の実質所得が増えることと同じことなので、中長期的にみると(中略)消費者物価の引き上げ要因にもなり得る」と説明。今後、料金プランが明らかになった段階で議論していくとの方針を示した。
 
その後、1月31日に公表された「金融政策決定会合における主な意見(1月開催分)」では、会合において、海外経済を巡る下振れリスクを警戒する意見が相次いでいたことが明らかになった。そうしたもとで、金融政策運営については、「現在の金融緩和政策を継続すべき」との意見が引き続き多数を占めていたが、「経済・物価の下方リスクが顕在化するならば、政策対応の準備をしておくべき」、「当面は政策変更がない、という予想が金融市場で過度に固定化されてしまうことを防ぐ工夫が必要」など、追加緩和の準備、追加緩和観測への働きかけを促す意見も散見された。
展望レポート( 1 9年1月)政策委員の大勢見通し(中央値)/展望レポート( 1 9年1月) 
政策委員の大勢見通し(中央値)
なお、物価目標達成に向けたハードルはますます高まっているが、日銀は副作用への警戒から容易に追加緩和に踏み切れない状況にある。従って、出きる限り現状維持を続けるだろう。やむを得ず追加緩和に踏み切る際も、即時の副作用が小さいETF買入れ増額やフォワードガイダンスの強化が最有力の選択肢になるとみられる2

中期的には、日銀は副作用緩和のために、さらなる金利変動幅の拡大(実質的な金利上昇許容幅の拡大)に向わざるを得ないと見ているが、世界経済が失速を回避するとの前提でも、消費税率引き上げの影響が一巡するまでは難しい。次回の金利変動幅拡大は2020年半ばと見込んでいる。
 
2 追加緩和の余地や選択肢の考察については、「日銀の追加緩和余地を考える~有効な手段は残っているのか?」(基礎研レター、2018年12月28日)をご参照ください。
 

3.金融市場(1月)の振り返りと当面の予想

3.金融市場(1月)の振り返りと当面の予想

(10年国債利回り)
1月の動き 月初-0.0%台前半でスタートし、月末も0.0%で終了。
月初、米中の弱い景況指数やアップルの売上下方修正を受けて世界経済の先行き不安が高まり、4日に-0.0%台半ばに接近したが、良好な米雇用統計結果やFRB議長による金融政策の柔軟化示唆を受けたリスクオフの緩和、米中交渉の進展期待などから上昇し、8日には0.0%台前半に回復。しばらく、わずかなプラス圏での推移が続いたが、強めの入札結果を受けて16日に0.0%に低下、IMFの世界経済見通し下方修正や日銀の短期国債買入れ増額を受けた22日には再び小幅なマイナスに低下。以降は0.0%を挟んで低迷、月末もハト派的なFOMC結果による米金利低下の波及によって金利が抑制され、0.0%で終了した。

当面の予想
今月に入り、米利上げ休止観測がさらに高まり、米長期金利のさらなる低下を受けて、足元は-0.0%台前半に低下している。今後も米国の利上げ一時休止が意識されやすく、日本の長期金利も抑制された状況が続きそうだ。米中貿易摩擦への警戒が残ること、英国のEU離脱問題が混迷していることも安全資産としての国債需要に繋がり、金利抑制要因となる。また、金融市場の不透明さが残るなか、日銀が国債買入れ額を大幅に減額するとも思えない。当面は0.0%前後での推移が続くことが予想される。
日米独長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(1月)
(ドル円レート)
1月の動き 月初107円台後半でスタートし、月末は108円台後半に。
月初、米中の弱い景況指数やアップルの売上下方修正を受けて急激なリスクオフの円買いが発生し、3日の海外市場で104円台に下落した後、良好な米雇用統計結果やFRB議長による金融政策の柔軟化示唆を受けたリスクオフの緩和、米中交渉の進展期待などから持ち直し、7日には108円台を回復。その後はしばらく主に108円台で膠着した推移となったが、メイ英首相の続投決定、米金融大手の予想を上回る決算を受けてリスク選好が強まったことで、17日には109円台を回復した。月後半は109円台での推移が続いたが、FOMCで金融引き締めに慎重な姿勢が示されたことでドルが売られ、月末は108円台後半で終了した。

当面の予想
今月に入り、足元も108円台後半で推移している。FRBが利上げの一時休止を示唆したことは、市場のリスク回避緩和を通じて円安圧力になる一方、米金利低下を通じたドル安圧力になることでドル円の上値は重くなる。従って、当面は基本的にドル円の上値が重い状況が続きそうで、1ドル110円弱での推移が予想される。そうしたなか、本日の米雇用統計に加えて、米中貿易摩擦、英EU離脱問題、米政府閉鎖再開有無などが水準調整の材料となる。これらの問題が今後緊迫化するおそれもあるだけに、リスクオフの円高に警戒が必要な時間帯が続く。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
1月の動き 月初1.14ドルでスタートし、月末は1.14ドル台後半に。
月初、1.14ドルを挟んだ一進一退の推移が続いた後、FRBの利上げ見送り観測が強まり10日に1.15ドル台に上昇したが、予想を下回るユーロ圏の生産指標を受けて、14日には1.14ドル台に。さらに冴えない経済指標が続き、16日には1.13ドル台後半まで下落した。その後はECB理事会後のドラギ発言がハト派的であったこともあり、しばらく1.13ドル台前半から1.14ドルでの低迷が続いたが、30日のFOMCがハト派的な内容となったことでドルがやや売られ、月末は1.14ドル台後半で終了した。

当面の予想
昨日公表されたユーロ圏の成長率が冴えなかったことで、足元は1.14ドル台前半に低下している。FRBの利上げ一時休止示唆はユーロの追い風だが、ユーロ圏の経済指標が非常に弱く、ECBの利上げ観測後退を通じてユーロの上値を抑えている。当面、ECBの利上げ観測が盛り上がる可能性は低い。また、1月に入ってからは反応が鈍くなっているが、英EU離脱問題も経済的繋がりが強いユーロ圏の通貨であるユーロに影響する。同問題は混迷しているが、今後さらに緊迫化すれば、ユーロの下落材料になるだろう。ユーロドルは当面横ばい圏を予想するが、下振れリスクも高めと見ている。
金利・為替予測表(2019年2月1日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2019年02月01日「Weekly エコノミスト・レター」)

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