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EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(2)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-
中村 亮一
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1―はじめに
今回のレポートでは、EIOPAの報告書の主として第3のセクションから、UFR(Ultimate Forward Rate:終局フォワードレート)、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)について、その国別の適用状況やSCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)比率への影響等を報告する2,3。
1 News
https://eiopa.europa.eu/Pages/News/EIOPA-publishes-its-third-annual-analysis-on-the-use-and-impact-of-long-term-guarantees-measures-and-measures-on-equity-ris.aspx
報告書
https://eiopa.europa.eu/Publications/Reports/2018-12-18%20_LTG%20AnnualReport2018.pdf
2 前回のレポートで述べたように、以下の図表及び図表の数値は、特に断りが無い限り、EIOPAの「長期保証措置と株式リスクに対する措置に関する報告書2018」からの抜粋によるものであり、必要に応じて、筆者による分析数値を加えたり、表の項目の順番を変更する等の修正を行っている。
3 LTG措置や株式リスク措置の具体的説明については、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2018年報告書の概要報告-」を参照していただきたい。
2―措置毎の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)-その1(UFR、MA、VA)-
(1)全体的
リスクフリー金利の補外としてのUFRの使用については、オプションではなく、技術的準備金を算出するために、全ての保険会社に強制される。従って、EIOPAの報告書では、この措置の適用状況ではなく、リスクフリー金利を決定する要因であるUFRの水準やLLP(Last Liquid Point:最終流動性点)及びUFRへのCP(Convergence Period:収束期間)等の前提を変更した場合の影響について報告している。
なお、前々回の2016年報告書では、保険会社が利用可能な範囲でリスク管理のために実施した感応度計算の結果のみが含まれていたが、前回の2017年報告書及び今回の2018年報告書では、UFR、LLP及び収束速度を変化させるシナリオ計算を含んだ会社への情報要求が行われた。シナリオは前回の報告書のシナリオと同じである。また、データ要求の目的のための保険業界への負担を最小限にするために、LLPを超える負債キャッシュフロー全体が割引前の負債キャッシュフロー全体の少なくとも10%を超える生命保険会社及び生損保兼営会社のみがテストに参加するように事前選択された。
事前に選択された会社は、会社の財務状況に対する以下の3つのシナリオの影響を計算するよう求められた。
・シナリオ1:ユーロのLLPを20年から30年に延長、ユーロ以外ではリスクフリー金利は変更無
・シナリオ2:スウェーデンクローナを除く全ての通貨で、最小収束点を60年から90年へ変更
スウェーデンクローナについては、収束点を20年から50年に変更
・シナリオ3:全ての通貨のUFRを100bps引き下げる。
実際の報告会社の状況は以下の通りとなっている。
1) 金利の変化
2016年末の金利期間構造は、2017年末の金利期間構造を下回った。金利期間構造が低いほど、補外のパラメータ化の影響が大きくなる。したがって、このレポートの変化は、前回の報告書よりも比較的小さい可能性がある。
2) 損害保険会社が含まれない。
この報告書では、EIOPAは前回とは異なり、20年を超える重要なキャッシュフローを有する生命保険会社及び生損保兼営会社のみが選択された。2017年の報告書では、EIOPAは、臨界値を超える損害保険会社を多数選択したが、様々なシナリオが財務状況に大きな影響を与えることはなかった。従って、今回の報告書の補外による影響表は、生命保険と生損保兼営会社にのみ焦点を当てた表とのみ比較可能となる。
(2-1)会社毎の影響の状況
この影響の状況を各社別のSCR比率のベースラインシナリオの数値との比較でみてみると、以下の図表の通りとなっている。影響は会社毎に大きく異なっている。
SCR比率の絶対水準で100%ポイントを超える影響を受けるのは、シナリオ1では20社(会社数で5.5%)、シナリオ2では1社、シナリオ3では5社となっており、大多数の会社は、全てのシナリオでの影響が100%ポイント未満となっている。
また、SCR比率が100%を下回るのは、シナリオ1で10社(2.8%)、シナリオ3で3社(0.8%)、シナリオ2では該当会社はなかった。なお、これらの会社の技術的準備金のシェアは、シナリオ1で3.2%、シナリオ3で0.8%となっている。これらの会社が100%のSCR比率を確保するために必要な適格自己資本額は、それぞれ18.4億ユーロ、0.6億ユーロとなる。
これによれば、シナリオ1で最も広い分布が観察され、シナリオ3とシナリオ2が続いている。シナリオ1と3では、影響が▲100%未満であっても多数の異常値が観察され、中央値の影響と平均影響の間に差が見られる。
(2-2)国毎の影響の状況
以下の図表は、SCR比率、SCR及びSCRをカバーするための適格自己資本に関する3つのシナリオのそれぞれについて、EEA(欧州経済地域)レベル及び各国のSCR比率への平均影響度を示している。
EEAレベルでは、ベースラインにおける238%のSCR比率に対して、シナリオ1は215%に23%ポイント低下させ、シナリオ2は233%に5%ポイント低下させ、シナリオ3は226%に12%ポイント低下させる。
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