2019年01月22日

医療・介護連携政策下における患者の受療行動

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに

国の政策により、医療機関の病床の機能分化、および地域との連携が進められている。病気発症後、入院、回復、退院までをスムーズに進めることによって、早期の社会復帰を目指し、介護が必要な場合は介護への円滑な移行を推進しようとするものである。

これにともない、人口の将来推計をもとに、団塊の世代が75歳以上になる2025年に必要となる高度急性期、急性期、回復期、慢性期、それぞれの病床数を推計し、それに向けて病床を再編・統合することで医療資源の集約化・効率化を図る取組みが進められている(地域医療構想)。

また、外来の機能分化や医師の負担軽減の観点から、紹介状なしで大病院1に行く場合は、特別な場合2を除き、5,000円以上の定額負担を求められるようになった。

病床や医療機関の機能分化を進めるためには、患者の意識や受療行動の変化も重要だと思われる。本稿では、治療を受ける側である患者の受療行動に関する最近の動向について紹介をする。
 
1 2016年4月は500床以上の病院が対象。2018年4月から400床以上の病院に対象が拡大した。
2 (1) 救急患者、(2) 公費負担医療の対象患者、(3) 無料低額診療事業の対象患者、(4) HIV感染者、(5) 自施設の他科を受診中の患者、(6) 医科・歯科の院内紹介患者、(7) 特定健診、がん検診等の結果で精密検査の指示があった患者、等
 

2――最近の受療動向

2――最近の受療動向

1|最初から特定機能病院・大規模病院に行く人は減少
厚生労働省による「受療行動調査」によると、外来患者が病気等において、受診したのは、病院全体で「最初から今日来院した病院を受診」が最も多く(54.2%)、次いで「最初は他の病院を受診」(27.3%)、「最初は診療所・クリニック・医院を受診」(15.1%)と続いていた(図表1)。

病院の規模別に見ると、特定機能病院や規模が大きい病院ほど「最初から今日来院した病院を受診」が低く、他の診療所や病院を経て、来院する傾向がある。2014年調査と2017年調査を比較すると、特定機能病院や規模が大きい病院でより「最初から今日来院した病院を受診」が減少しており、紹介状なしの大病院の定額負担の導入が影響している可能性がある。
図表1 病院の種類別にみた外来患者の最初の受診場所
2|今後は、通院しながら治療・療養したい人が増加
同調査によれば、入院患者が今後希望する治療・療養は、「完治するまでこの病院に入院していたい」は減少傾向にあり、かわって「自宅から病院や診療所に通院しながら治療・療養したい」(30.2%)が増加している。
図表2 入院患者の今後の治療・療養の希望
3|訪問看護費は増加
また、厚生労働省「国民医療費の概況」によると、医療費総額が2010年以降、12.6%増加しているが、訪問看護費は、現在のところ総額は小さいものの伸びは大きかった。図表2によれば、「自宅で医師や看護師の定期的な訪問を受けて治療・療養したい」は増加していなかったが、実際の利用は増加していた。
図表3 診療種類別国民医療費の推移

3――おわりに

3――おわりに

各都道府県は、2017年3月までに地域医療構想を含む医療計画の策定を終えており、入院病床については、都道府県や医療機関の調整によって機能別に再編・統合されていくものと考えられる。今後、進捗は、病院報告調査で確認が可能となる。

一方、外来における機能分化は、患者の理解が重要だと思われる。最初から大病院を受診する割合は減少傾向にあることから、紹介状なしの大病院の定額負担は、一定程度の抑制があった可能性があるが、医療機関の機能分化や医師の負担の軽減につながるような大きな変化は現在のところない。

医療機関の機能分化に関して、今後も患者への周知を行う必要があるだろう。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

(2019年01月22日「保険・年金フォーカス」)

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