2019年01月22日

EIOPAによる2018年保険ストレステストの結果について(4)-関係者からの反応等-

中村 亮一

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3|ストレスシナリオの結果
(1) オランダの保険会社は、長寿ショックと組み合わさったさらなる金利下落に対して、特に脆弱
結果は、ストレスシナリオが適用される前後の平均比率が100%を超えることを示している。同時に、オランダの保険会社は、金利の低下と平均寿命の延長を伴うシナリオ(シナリオ1)に対して特に脆弱であることが明らかになった。そのシナリオでは、市場金利は現在の水準からさらに下がり、20年を超える期間を持つ負債が評価される金利である終局フォワードレートは2.04%に低下すると想定される。この図表は、このシナリオが自己資本に大きな影響を与えることを示している。また、影響は、ストレステストに参加している保険会社の欧州平均よりも大きくなっている。影響は、市場の動きに対するオランダの保険会社の貸借対照表の感応度を軽減する、長期保証(LTG)措置の緩和効果の影響が無視される場合に、特に大きい。
図表 1 - ベースラインのポジション及び3つのシナリオの適用後のオランダの5つの保険会社の資産/負債比率(総資産に基づいて加重)
図表2は、オランダの保険会社5社の総合的な貸借対照表のシナリオ1におけるストレスの影響の根本的な原因を示している。金利の低下は、債券やローンの価格が上がるにつれて資産価格を押し上げる。しかし、負債の価値は、低い市場金利、UFRの即時下方修正及び長寿ショックの組み合わせにより、はるかに急激に増加する。オランダの保険グループは、生命保険契約及び確定給付年金商品に基づく長期債務への集中的なエクスポージャーにより、このシナリオに敏感である。これは、欧州の同業者と比較して見たオランダの保険グループの業績が、主にショックの性質とそのビジネスモデルに起因することを意味している。従って、必ずしもオランダの保険会社の状態が悪化しているとは限らない。
図 2 - シナリオ1における金利の低下、UFRの引き下げ及び長寿リスクの増加が資産/負債比率に与える影響。
(2) 金利の上昇と資産価格の下落の組み合わせに対する追加の感応度
オランダの保険会社は、急激な金利の上昇、資産価格の下落、解約リスクの増加といったシナリオにそれほど敏感ではないようだ(シナリオ2)。シナリオ1とは対照的に、このシナリオでは、貸借対照表の資産面が特に大きな打撃を受ける。このシナリオの影響は少ないが(図表1参照)、ストレステストでは、保険会社は金利が急激に上昇し、資産価格が下落するシナリオも考慮する必要があることがわかった。緩和的な金融政策が現在段階的に廃止され、財務状況が厳しさを増す可能性があることを考えると、このシナリオはさらなる金利の低下を伴うシナリオよりも可能性がある

(3) 大災害に対して比較的高い耐性力
ストレステストの結果からも、オランダの保険会社は、資産/負債比率が限定的に低下すると予想される大災害シナリオ(図表1を参照)に対して比較的耐性力があることが明らかになった。 これは、損害保険会社の間で以前に行った分析6からの知見と一致している
4|ストレスシナリオの結果を踏まえて
この結果は、保険会社が事業を展開するための困難な状況と、セクターをより将来性のあるものにし続けるために必要な緊急性を裏付けている。オランダの保険会社は一般的にこれを認めており、順調に進展している。さらに、保険会社が自己資本及び配当方針の中で低金利ならびにUFR及びLTG措置の緩和的影響を考慮することは、これまでと同様に重要である。

最後に、この結果は、保険会社に欧州の再建と破綻処理の枠組みを導入することの重要性を証明している。オランダでは、上院が最近国内の枠組みを採択した。
 

5―EIOPA会長のコメント

5―EIOPA会長のコメント

1|EIOPAのプレス・リリース資料より
Gabriel Bernardino EIOPA会長は、「このストレステストは、不利ではあるが妥当なシナリオに対しての欧州保険業界の耐性力を評価するための重要な一歩を踏み出し、参加したグループとの特定された脆弱性に関する継続的な対話のための貴重な基礎を提供する。それらに対処するための予防策や潜在的な経営行動等が具体化されなければならない。」と述べた。
2|ビデオインタビューより
「2018年12月14日の2018年の保険ストレステスト結果の公表に関する欧州保険年金監督局(EIOPA)のGabriel Bernardino会長とのビデオインタビューの記録」7によれば、Gabriel Bernardino  EIOPA会長は、例えば、以下のように応えている(上記記録からの抜粋)。
(1) 主な調査結果
全体として、重要な発見は何か?
このテストの全体的な主な調査結果は、欧州全体の保険グループ、特にそれらが保険特有の要素と組み合わされた場合、もちろん市場ショックによる著しい影響があることを確認することである。

(2) 結果開示の透明性
EIOPAは結果開示の透明性を高めたいと考えていた。 EIOPAは実際にこの目標を達成したのか?
今年の演習で私たちは確かに透明性を高めたいと思っていた。 私たちにとって透明性はストレステストの基本的な部分である。なぜなら、それは市場の規律、平等な競争環境、そしてストレステストに対する国民の全体的な信頼をも高めるからである。 参加団体に個々の結果の開示を強制する権限はない。 ですから、私たちがしたことは、彼ら自身に個々の結果を公表するように彼らに要求することである。 残念なことに、私は、参加しているグループの多くがこの要求に従うことはないと思う。私はそれはセクターが透明性の向上の観点から出している良いシグナルではないと思う。

(3) サイバーリスク
このテストで、EIOPAはサイバーリスクに関する情報も収集した。この情報で何をしているのか?
確かにそれは私たちがサイバーリスクに関連して情報を含めた最初のテストだった。まず、保険会社が直面しているサイバー攻撃の観点から、両方の角度から情報を収集した。 過去4年間に発生した事象の数と業界で発生した損失に関する情報を収集した。 また、その一方で、契約数、保険料及びそれらが被った損失に関して、サイバーリスクの引受け側に関する情報も収集した。 これは今回が初めてである。もちろん、現在情報を検証している。来年の第1四半期に、特にこのサイバーリスクについてレポートを作成する予定である。

(4) 次のステップ
次のステップは?
次のステップは次のようになる – ショートレンジをやめる - このテストの後に可能な推奨事項に関して議論することになるだろう。これは、私たちの監督理事会や各国当局と行うことであり、もちろん、参加している各グループについて確認した脆弱性に焦点を当てる。そして、私たちは、この特定のシナリオが実現した場合に対処するために、各グループがどのような経営行動を実行するのかを理解することに非常に関心がある。それは予防的監督の大部分であり、それが私たちが実行したいものである。それで、私たちは来年のファーストパートの間にこの可能な勧告を議論するつもりである。2020年の次のテストに向けて、私たちはこれからも継続するマクロ経済的リスクに加えて、新しいタイプのリスクを含める意図を持っており、そして特に2020年のストレスに含め始めることを非常に切望している。環境面、社会面及びガバナンス面に関連するリスク、有名なESGリスクをテストする。これは、2020年のストレステストで導入したい革新の1つである。
 

6―まとめ

6―まとめ

以上、今回のレポートでは、今回のストレステスト及び報告書の内容に対する関係者からの反応について報告してきた。

第1回目のレポートで述べたように、EIOPAは今回のストレステストに関して、欧州会計監査院の最近の勧告に沿って、参加グループによる個々のストレステスト指標のリストの自発的開示を要求することによって、透明性を高めることを目指していた。

ところが、実際には、報告書作成日までの時点で、42の参加グループのうちの4つのみが、個々の結果の公表に同意したに過ぎない状況だった。これについては、EIOPAのGabriel Bernardino会長も「透明性は、市場規律を高め、ストレステストにおける公平な競争の場と一般の信頼を促進する。」として、さらなる自主的開示を要請していたが、個別の結果の開示を推進させることはできなかったようである。

こうした透明化に向けたあまり積極的でない動きについては、保険会社サイドだけでなく、監督当局サイドにおいても同様であった。今回のストレステストに参加した保険グループの主要監督当局である12カ国の監督当局のうち、各国の保険グループの状況をEIOPAとは別に開示したのは、今回のレポートで報告したドイツのBaFinとオランダのDNBの2カ国に限定されていた。英国のPRA(健全性規制機構)も、自国の保険グループに関して、特段の情報開示を行っていない。

今回のストレステストの結果報告を受けての今後のステップについては、前回のレポートで報告した通りであり、また今回のレポートのEIOPA会長のインタビューの中でも触れられている通りである。

EIOPAのストレステストを巡る動向については、日本においても関心の高い事項であることから、今後とも引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年01月22日「保険・年金フォーカス」)

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