2019年01月22日

EIOPAによる2018年保険ストレステストの結果について(4)-関係者からの反応等-

中村 亮一

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1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督局:European Insurance and Occupational Pensions Authority)は、2018年12月14日に「2018年 EIOPA保険ストレステスト報告書(2018 EIOPA Insurance Stress Test Report)」(以下、「今回の報告書」という)を公表1した。この報告書により、EIOPAは、2018年に実施された欧州保険会社に対するストレステストの結果に基づく欧州保険会社の脆弱性と耐性力に関する状況を報告している。

その中で、前回までの3回のレポートでは、今回のストレステスト及び報告書の内容について報告してきた。今回のレポートでは、これらの報告書に対する関係者からの反応等について報告する2
 
1 EIOPAのプレス・リリース資料 https://eiopa.europa.eu/Publications/Press%20Releases/EIOPA%20announces%20results%20of%20the%202018%20insurance%20stress%20test.pdf
 報告書 https://eiopa.europa.eu/Publications/Surveys/EIOPA%202018%20Insurance%20Stress%20Test%20Report.pdf
2 今回の一連のレポートにおける図表等については、特に断りが無い限り、EIOPAの「2018年 EIOPA保険ストレステスト報告書(2018 EIOPA Insurance Stress Test Report)」からの引用によるものであり、必要に応じて、説明のための数値の強調や翻訳等を行っている。
 

2―Insurance Europe(保険ヨーロッパ)の反応

2―Insurance Europe(保険ヨーロッパ)の反応

欧州の保険業界団体であるInsurance Europe(保険ヨーロッパ)は、2018年12月14日に声明を公表3して、今回のEIOPAのストレステストは欧州保険業界の強さを確認している、と述べた。

具体的には、「EIOPAは実際には非常に極端なシナリオを選択した。例えば、イールドカーブ低下のシナリオには、今後100年間の欧州の成長率をゼロと仮定するのと同じ金利が含まれている。結果は、適用された非常に極端なシナリオの下であっても、業界は保険金支払能力に懸念を示さず、最悪のシナリオでも全体のAoL比率は106%を超えたままであることを確認している。」と述べた。
具体的な声明は、以下の通りである。

2018年12月14日
EIOPAのストレステストは欧州保険業界の強さを確認している
欧州保険年金監督局(EIOPA)が実施した2018年の保険ストレステストの結果を受けて、Insurance Europeの副局長Olav Jones氏は次のように述べている。

「Insurance Europeは、2018年のストレステストの実施により、ベースラインSCRのカバーが200%を超え、資産負債(AoL)比率が109%で、欧州の保険業界の強みを裏付けるものとなった。このテストの目的は、不利な市場動向の下での金融の安定性に関する情報を提供することである。EIOPAは実際には非常に極端なシナリオを選択した。例えば、イールドカーブ低下のシナリオには、今後100年間の欧州の成長率をゼロと仮定するのと同じ金利が含まれている。結果は、適用された非常に極端なシナリオの下であっても、業界は保険金支払能力に懸念を示さず、最悪のシナリオでも全体のAoL比率は106%を超えたままであることを確認している。」

保険セクターの規制枠組みであるソルベンシーIIは、保険会社がさらされている全てのリスクをカバーすることによって保守的な資本要件を設定する包括的なリスクベースのシステムであることを認識することが重要である。これらの自己資本要件は、資産/負債に適用されるストレスシナリオに基づいており、極端に200年に1度のタイプの事象を用いて較正されており、公表されている。従って、ストレステストで報告されたストレス後のSCR比率は、極端なストレスが与える影響を表している。これに基づいても、業界は非常に耐性力があることが示されている。

 

3―BaFinの反応

3―BaFinの反応

ドイツの保険監督当局であるBaFinは、そのWebサイト4で、今回の「2018年 EIOPA保険ストレステスト報告書」について公表するとともに、ドイツの保険会社の状況について報告している。

これによると、今回のストレステストには、ドイツからAllianz SE、Munich Re、HDI VaG、R + V Versicherung、HUK -COBURG insurance groupの5つのグループが参加したが、BaFinの保険・年金基金監督のエグゼクティブディレクターのFrank Grund博士は、「ストレステストの結果は、継続的な監督による我々の調査結果と一致している。」と述べている。「予想通り、保険会社の主要数値は資本市場の著しい変化と金利環境の変化に敏感である。」と述べた。

さらに、「ストレスシナリオが実現しても、欧州の保険業界は全体として堅調に推移するだろう。」として、参加しているドイツのグループもまた危機に対する耐性を有していたが、特にドイツの参加者にとって、持続的な低金利フェーズが依然として課題であることが明らかになった、と述べた。

2018年12月14日
ストレステスト:EIOPA2018年の結果を発表
欧州保険年金監督局(EIOPA)は本日、保険会社に対する欧州全体のストレステスト2018年の結果を発表した。これにより、欧州の保険業界は、ストレスシナリオにおいても、根本的に堅調であることが証明されている。ストレステストには、ドイツの5グループを含む42の欧州の主要保険グループが含まれていた。

BaFinの保険・年金基金監督のエグゼクティブディレクターのFrank Grund博士は、「ストレステストの結果は、継続的な監督による我々の調査結果と一致している。」と述べている。「予想通り、保険会社の主要数値は資本市場の著しい変化と金利環境の変化に敏感である。」と述べた。

ドイツの参加者は欧州の全体的な印象を確認している。

ストレスシナリオが実現しても、欧州の保険業界は全体として堅調に推移するだろう。しかし、長期的な低金利環境に伴う金利の低下と資本市場の歪みを伴う金利の上昇という2つのシナリオは、それぞれ自己資本による規制上の自己資本要件の適用範囲の大幅な低下につながる。これは管理可能であろう。長期保証(LTG)措置もまた、それらが意図した反景気循環効果を持つことを示している。

参加しているドイツのグループもまた危機に対する耐性を有していた。しかしながら、特にドイツの参加者にとって、持続的な低金利フェーズが依然として課題であることが明らかになった。「彼らの長期的な義務のために、いくつかのドイツの会社は特に低金利フェーズの影響を受けている。」とGrund博士が説明する。

2018年のEIOPAストレステストには、42の主要欧州保険グループが含まれていた。ドイツからは、Allianz SE、Munich Re、HDI VaG、R + V Versicherung、HUK -COBURG insurance groupが参加した。

 

4―DNB(オランダ国立銀行)の反応

4―DNB(オランダ国立銀行)の反応

オランダの保険監督当局であるDNB(De Nederlandsche Bank:オランダ国立銀行)は、2018年12月14日に、そのDNBulltinにおいて、「ストレステストは欧州の保険会社の脆弱性を示している」5とのタイトルで、今回のストレステストの結果について、オランダの保険グループの状況も含めて報告している。

これによると、以下の通りとなっている。
1|ポイント
オランダの保険グループは、平均的な欧州の同業者と比較して、金利のさらなる低下に比較的敏感である。対照的に、彼らは資産価格の下落と相まっての金利の急激な上昇にはあまり敏感ではない。また、それらはいくつかの大災害シナリオに対して耐性力がある。これは、保険及び年金基金に対する欧州の監督当局であるEIOPAが本日発表した新しいストレステストの結果から明らかである。低金利に対するオランダの保険グループの感応度の高さは、主に長期生命保険契約への比較的集中したエクスポージャーによるものである。

2|ストレスシナリオの概要-3つのシナリオ-
ストレステストは、リスクを特定するための不可欠な手段へと進化した。監督当局はストレステストにますます注目しており、ますます多くの分野でそれらを使用している。ストレステストは、金融機関又は金融システムの脆弱性が顕在化する前にそれらを明らかにすることを目的としている。保険会社向けの2年毎のEIOPAストレステストもこの目的に役立つ。具体的には、極端なシナリオに対する保険会社の感応度を確立し、金融の安定性に対するその影響を分析することを目的としている。これは、保険会社が特定のテストに合格したか失敗したかを判断するために評価されなかったことを意味している。

Aegon、NN Group、Achmeaを含む42の欧州保険グループが参加した。我々の要請で、a.s.r.とVivatもまた国家レベルのストレステストに参加した。

テストでは、3つの異なるシナリオに対する感応度を調べた。最初のシナリオでは、終局フォワードレート(UFR)の即時下方調整(実際には起こりそうにないこと)を含む金利の低下と、長寿リスクの増加を組み合わせている。これらのショックの組み合わせが、これを深刻なシナリオにしている。第2のシナリオは、現在の経済状況を考えると実現する可能性が高く、金利の上昇、資産価格の下落、解約リスクの増加を想定している。3番目のシナリオでは、暴風や洪水など、様々な大災害が発生する。

シナリオに対する保険会社の脆弱性を評価するために、2017年末現在の財務上のベースラインのポジションをストレス後のポジションと比較した。保険会社自身の資本への影響を示す1つの指標は、資産/負債比率である。図表1にこの比率を示している
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中村 亮一

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