2019年01月15日

EIOPAによる2018年保険ストレステストの結果について(2)-ベースラインの特徴と自然大災害シナリオの影響-

中村 亮一

文字サイズ

2|結果の概要
上記で述べた自然大災害シナリオの設定から、このストレステストに参加している42の欧州(再)保険グループのうち、25グループのみが、欧州での自然大災害の所定のセットにさらされた。

NC負債が会社によってどのように満たされるべきであるかの解釈によって残された自由度を考慮して、参加グループは一連の事象の影響を計算するために、以下の3つのアプローチのいずれかを選択した。

(1)現金による請求の即時支払及びそれに続く資産の売却及び協定の満了までの再保険回収額の増加(過半数)。
(2)引き続くTPの増加及び協定の満了までの再保険回収額の増加を伴う補填なしの請求の全額積立
(3)2つの選択肢の間の中間的なアプローチ

資産、TP及びSCRの構成要素がストレス後に影響を受ける程度(市場リスク、損害保険引受リスク、再保険カウンターパーティ信用リスク)は、選択されたアプローチの選択に基づいている。異なるアプローチがeAoL(Excess of Assets over Liabilities:負債超過資産額)とOFに同じ影響を与えたことは注目に値する。

合計で、8つの事象からの保険損失総額は、年間を通じて保険業界にとって約480億ユーロになる。合計すると、25の欧州グループの総損失は、RMSによる推定市場損失の70%に相当している(図表3)。
図表3 自然大災害シナリオ―影響の全体像
3|貸借対照表指標及び自己資本指標
25のグループは 、2017年12月31日において、欧州の損害保険セクターの約50%を占める約3.38兆ユーロの総技術的準備金及び4,510億ユーロのEOFを保有している。

全体として、eAoLへの影響は、欧州グループによるシナリオへのエクスポージャーに起因するネット(再保険控除後)の総損失のレベルと概ね同程度である(図表4)。

AoL比率は総計110.0%から109.7%に0.3ポイント低下する(図表5)。

一般に、大きな影響を受けている参加者は再保険会社であり、再保険業務にも大きく関与している元受保険会社である。
図表4 AoLとネット総損失の超過の変化(25のグループ)
図表5 AoLのパーセンテージ変化(25のグループ)
シナリオに含まれる一連の自然大災害に対するグループの耐性力は、ベースラインを基準にしたeAoLの▲2.7%という限られた総計の低下によって確認される(次ページの図表7)。シナリオにおけるLTG措置と移行措置の(絶対的な)限界的効果は、2つのパッケージを除いたeAoLのベースラインに対する▲15.1%の変化によって確認される。

グループへの限定的な影響は、基準日に設定された再保険協定に由来している。総損失の55%が再保険を通じて出再され、元受保険会社に関する純損失総額は151億ユーロとなった。 これは、このコホートの総EOFの3%に相当する。地理的見地からは、再保険に出再された183億ユーロのうち、55%がEUに本拠を置く再保険会社によって捕捉され、残りの部分はバミューダ(22.0%)、スイス(16.3%)、米国(10.9%)及びその他の非EU管轄地域(5.9%)に配分されている。
図表6 総資産負債(AoL)比率/図表7 超過AoLの相対変化
出再損失は限られた数の再保険会社に集中している。自然大災害にさらされている各グループによって報告された上位10社の再保険回収額(支払われる全ての復活保険料について減額)は、100億ユーロに相当する。これは、NCシナリオにおける全ての再保険回収額の70%に相当している。さらに、上位5社の再保険会社で、上位10社の再保険回収額の52%に達している(図表8)。
図表8 出再損失-再保険会社への集中
4|SCR指標
NCシナリオの構造を考えると、SCRは規定のショックの影響をわずかに受けると予想される。さらに、所要自己資本に対する全体的な影響は、再保険保護を考慮した後の各個々グループの潜在的エクスポージャーに見合った多数の要因に左右される。

SCRの構成要素に対する理論的な影響は以下の通りである。

- 市場リスク:請求の即時支払による資産の減少により生じる資本要件の潜在的な減少
- 損害保険引受リスク:これらの事象を将来の請求見積りに組み入れることによる必要資本の潜在的な増加
- カウンターパーティ信用リスク:再保険回収可能額の増加により、タイプ1エクスポージャーの集中度が高まったことによる潜在的な影響

これらの影響は、NCシナリオを適用する際に採用されたアプローチと密接に関連している。

結果は、総SCRに対する限界的な影響の一般的な期待を裏付けるものである。全体のSCRはその中央値に変化はなく、0.5%増加した(図表9)。ただし、影響の重要性が低いことと、NCシナリオを計算するためのアプローチの不均一性を考えると、SCR要素の変更によって全ての理論的影響を完全に確認することはできない。一方で、市場や損害保険及びカウンターパーティの要素の動きが予想と一致している場合、他方で、請求の即時支払いを選択したいくつかのグループにとっては、SCR全体の変化は、主にLAC DT(繰延税金損失吸収効果)によってもたらされている。

ストレス後の総SCR比率は、主にEOFの減少により3%減少した(図表10)。
図表9 グループSCRの相対変化/図表10 SCR比率の相対変化

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、報告書の第2章のストレステストの結果の中から、ベースラインの特徴及び自然大災害シナリオの影響について報告してきた。

次回のレポートでは、報告書の第2章のストレステストの結果の中から、市場ストレスシナリオの影響について報告する。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

(2019年01月15日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【EIOPAによる2018年保険ストレステストの結果について(2)-ベースラインの特徴と自然大災害シナリオの影響-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

EIOPAによる2018年保険ストレステストの結果について(2)-ベースラインの特徴と自然大災害シナリオの影響-のレポート Topへ