2018年12月28日

IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について(2)-IASBにおける検討状況と各種関係団体の反応等-

中村 亮一

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2|Insurance Europe(保険ヨーロッパ)の反応
IASBの1年延期の暫定決定を受けて、保険ヨーロッパのOlav Jones副事務局長は、「IASB審議会は、最後に、改善とIFRS第17号の延期、それと整合させるためにIFRS第9号のタイミングを調整することを検討する必要性を認識したけれども、IFRS第17号の問題を修正し、保険会社に基準を適切に実施するのに十分な時間を与えるのには、2年の延期が必要である。」と述べた。

さらに、保険ヨーロッパは、単独でも12月6日に上記と同様な声明10を公表して、2年の延期を強く求めるスタンスを対外的に明らかにしている。
 

2018年12月6日
IFRS17号:世界の保険会社は、問題を解決して基準を適切に実施するには1年の延期は十分でないと言う

国際会計基準審議会(IASB)の議長であるHans Hoogervorst氏に、世界の11の保険協会からなるグループが、保険契約を対象とした国際財務報告基準(IFRS)第17号の2年延期を要求した。このレターは、IASBが基準の発効日を1年延期することを提案するという決定に続いている。

IFRS第17号及び金融商品をカバーするIFRS第9号の発効日を遅らせる決定を認識した上で、レターは、IFRS第17号の問題を解決し、保険会社に基準を適切に実施するのに十分な時間を与えるのに2年の延期が必要であることを強調している。 

IFRS第17号を使用する全ての管轄区域での実施が成功することは、投資家、アナリスト及び他の利用者が期待している高品質で有用な情報を提供する上で重要である。従って、IASBは、基準に対する潜在的な修正を検討するのに必要な時間をかけることが重要である。このレターでは、EFRAGのケーススタディテスト及び継続中の実施プロジェクトから得られた情報が、修正を検討する際に考慮すべき新しい情報を構成することも強調している。

レターでは、2年の延期が保険会社の実施プロジェクトを停止したり、遅らせることはないと述べている。むしろ、企業が運用上及び関連する場合には、規制上の影響に対処することを可能にするだけである、と付け加えている。

3|ABI(英国保険会社協会)の反応
ABI(英国保険会社協会)の健全性規制担当責任者のSteven Findlay氏は、提案された1年間の延期は「正しい方向への一歩」であるが、「フィールドテストで特定された重要な専門的で運用上の変更が修正されることを可能にするのに十分な時間ではない。」と述べ、「業界の2年延期の要求は、より現実的である。」と述べた。

Findlay氏は、IFRS第9号との意味合いから短期間の延期を推薦するというIASBのコメントに関して言及して、「保険会社は資産と負債を一緒に管理することから、IFRS第9号とIFRS第17号は同じコインの異なる部分である。一般的には両者を同時に導入することが理にかなっており、これはIFRS第17号を修正して実施するために必要な時間に基づいて行われるべきである。」とし、また「多くの英国保険会社にとって、IFRS第9号はその数値を大幅に変更する可能性は低い。彼らはすでに、金融資産の大部分を公正価値で評価している。」と述べた。
4|EIOPA(欧州保険年金監督局)の反応
保険のリスクや資本管理に関するオンライン情報サービス会社のInsuranceERMからの情報に基づくと、EIOPA(の会長)は以下の通り反応している。

EIOPAのGabriel Bernardino会長は、IASBが、2019年における公開協議(パブリック・コンサルテーション)を条件に、IFRS第17号の発効日を延期するという決定を歓迎した。

EIOPAは、EUの承認プロセスにおけるオブザーバーとしての地位を付与されており、前回のレポートで報告したように、10月19日に、ソルベンシーIIとIFRS第17号の違いを概説する詳細な技術分析を公表した。報告書では、EIOPAは一般的に基準について肯定的だったが、特に割引率などの重要な要素を決定する際に、原則ベースの性格について懸念を示していた。

Gabriel Bernardino会長は、11月20日に開催されたEIOPAの第 8 回年次総会において、InsuranceERM からの質問に答えて、「全体として、IFRS第17号は比較の方向性への良いステップであると見ている。私たちはまた、これらの目標の達成に関していくつかの懸念を抱いている。これらの領域は、IASBで検討される必要がある。例えば、領域の1つは割引率に関連している。」とし、「IFRS第17号は、選択肢にあまりにも多くの幅を持たせている。私たちは、その選択の幅からの結果が比較可能性の欠如になると懸念している。」と述べた。

Gabriel Bernardino会長は、EIOPAはIASBにこれらの問題を見るように促し、その意味で、反映のための時間を許容するために1年の延期を歓迎する、と述べた。
5|EFRAG(欧州財務報告諮問グループ)の反応
EFRAGは、IASBによるIFRS第17号の発効日延期の暫定決定を受けて、11月22日のEFRAGの理事会11で、IASBが修正案を検討している間に、IFRS第17号の承認プロセスを今後どのように継続すべきかを議論した。

EFRAGの理事会メンバーの何人かは、積極的なアプローチを推奨したが、多くの他のメンバーは、IASBが基準をどのように変更するのかを知らずに、EFRAGが作業を再開すべきではないと述べた。

EFRAG副会長のAndreas Barckow氏は、「IASBがどこに行くのかわからないと、EFRAGのリソースが無駄になる。少なくとも、IASBが真剣に検討している問題を知る必要がある。」と語った。

EFRAG理事会は、2018年12月18日の会議で、修正される可能性があるIFRS第17号の領域に関するIASBの暫定的な決定の前に、EFRAGが積極的であるべきかどうか、そしてそうである場合どのように、について検討することを決定した。
6|ASAF(会計基準アドバイザリー・フォーラム)での126日の議論
IASBのアドバイザリーグループである会計基準アドバイザリー・フォーラム(Accounting Standards Advisory Forum:ASAF)は、IFRS第17号のいくつかの修正案を検討するため、12月6日及び7日に会議を開催した。そこで、IASBの10月の会議資料において、スタッフが審議会によって設定された基準を満たす方法で、修正するかもしれないことを示唆した項目として、以下の6つのトピックが挙げられた12(番号は、10月24日のIASBの資料に基づく)。

1) IFRS第17号の範囲:保険リスクを移転するローンや他の形態の信用供与
3) 契約境界線外の更新の獲得キャッシュフロー
7) 契約上のサービスマージン:一般モデルにおけるカバー単位
12) 保有再保険契約:基礎となる保険契約が不利な場合の当初認識
15) 資産グループと負債グループの分離表示
24) 経過措置:修正遡及アプローチ:さらなる修正

これらの6つのトピックのうち、5つのトピックはEFRAGが9月に掲げていたものである。ASAFは9月にEFRAGが提起した「年次コホート」については言及しなかったが、代わりに「保険リスクを移転するローンや他の形態の信用供与」について、採り上げた。

これに関しては、例えば、いくつかの管轄地域で、クレジットカードを発行すると、購入する商品が目的に合っているかどうかを確認する保険が付いてくるが、これが重大な保険リスクとみなされた場合、多くの管轄地域でクレジットカード債権が保険契約になってしまうという問題がある。
7|APRA(オーストラリア健全性規制機構)の反応
オーストラリアの保険監督当局であるAPRA(Australian Prudential Regulation Authority:オーストラリア健全性規制機構)は、11月16日に、保険会社に対して、「AASB第17号保険契約を保険会社の資本及び報告枠組に統合するためのロードマップ(ROADMAP FOR INTEGRATION OF AASB 17 INSURANCE CONTRACTS INTO THE CAPITAL AND REPORTING FRAMEWORKS FOR INSURERS)」13とのレターを送付した。

AASB第17号は、オーストラリアにおける保険契約に関する会計基準であり、IFRS第17号に基づいており、IFRS第17号と殆ど同じであるが、オーストラリア特有の規定も含まれている。オーストラリアの保険会社は現在、AASB 1023 損害保険契約及びAASB 1038 生命保険契約をそれぞれ損害及び生命保険契約の会計基準として使用しているが、AASB 第17号は、これらの2つの基準を置き換えることになる。

一方で、APRAは、生命保険及び損害保険会社の資本枠組みを持ち、一般的に生命保険及び損害保険資本、又はLAGICフレームワークと呼ばれている。

AASB第17号は2021年1月1日から施行される予定で、これまで、APRAはAASB 第17号を資本及び報告枠組みと整合させることを検討していたが、この計画が、IFRS第17号の延期による影響を受ける可能性がある。APRAは、IFRS第17号の延期に関する最終的なポジションが分かれば、これを再検討することができると述べた。

APRAはまた、民間健康保険会社の資本ルールも見直しており、AASB第 17号の統合に合わせたレビューのプロセスを概説して、その業界に対して別のレターを書いている。
「AASB 第17号の実施とLAGICフレームワークの更新と改良及び民間健康保険資本基準の見直しの間には、重要な相互作用があり、それを考慮に入れる必要がある。」とAPRAは述べた。

APRAは、2018年後半から2019年の初めにかけて、保険会社やその他のステークホルダーにワークショップやその他の非公式協議の機会を提供する予定である。APRAは、AASB第17号の適用時期とアプローチについて、保険会社からのフィードバックを歓迎している、と述べた。
8|IAAInternational Actuarial Association:国際アクチュアリー会)の反応
IAAは、今回のIASBによるIFRS第17号の発効日の延期に関して、11月15日に声明14を発表した。これによれば、吉村雅明IAA会長は、「保険業界を含むアクチュアリー及び全てのステークホルダーが、この延期期間を、基準の質の改善を検討し、それを強固な方法で実施するために、効果的に使用することが重要である。」と述べた。

「IAAは、保険契約に関する技術的に健全な国際会計基準の開発と適用を常に支持し続けている。私たちは、IASBがIFRS第17号の修正をもたらす可能性のあるいくつかの問題を検討すると理解している。IAAは、IASBの検討事項及びIFRS第17号移行リソースグループの作業の成功に貢献することを楽しみにしている。」
とし、さらに、以下のように述べた。

「IAAは、IFRS第17号の実施のための支援の一環として、メンバー協会が考慮するISAP(モデルアクチュアリー実務国際基準)を発行する予定であり、公共の利益に資するために、アクチュアリー(及び他の専門家)の教育ノートを発行することを計画している15。」
 

2018年11月15日
IAA会長は、IFRS17号の保険契約の延期に関する声明を発出

11月14日、国際会計基準審議会(IASB)は、IFRS第17号保険契約の適用を1年延期するよう勧告した。

IAA理事長の吉村雅明氏は、次のように述べている。「保険業界を含むアクチュアリー及び全てのステークホルダーが、この延期期間を、基準の質の改善を検討し、それを強固な方法で実施するために、効果的に使用することが重要である。」

「IAAは、保険契約に関する技術的に健全な国際会計基準の開発と適用を常に支持し続けている。私たちは、IASBがIFRS第17号の修正をもたらす可能性のあるいくつかの問題を検討すると理解している。IAAは、IASBの検討事項及びIFRS第17号移行リソースグループの作業の成功に貢献することを楽しみにしている。」

IAAは、IFRS第17号の実施のための支援の一環として、メンバー協会が考慮するISAP(モデルアクチュアリー実務国際基準)を発行する予定であり、公共の利益に資するために、アクチュアリー(及び他の専門家)の教育ノートを発行することを計画している。このトピックに関するIAAの作業の詳細については、事務局までお問い合わせください。

 
14 https://www.actuaries.org/IAA/Documents/Publications/News_Releases/2018/News_Release_IFRS17_Deferral_EN.pdf
15 IAAは、IFRS第17号に関して、例えば2018年5月29日に、教育モノグラフ「IFRS第17号の下での保険契約の理数調整」を発行している。 https://www.actuaries.org/IAA/Documents/Publications/News_Releases/2018/News_Release_Risk_Adjustment_Monograph_EN.pdf
 

4―12月13日のIASB会議の内容

4―12月13日のIASB会議の内容

1|1213日のIASB会議
IASBは、12月13日の審議会において、IFRS第17号「保険契約」及び2018年10月に潜在的な修正案の候補として特定された基準に関する25項目の懸念及び実施上の課題のうちの以下の13項目について、検討を行った。

 4) 測定(契約上のサービスマージン(CSM)を調整するためのロックイン割引率の使用)
 5) 測定(主観性:割引率とリスク調整)
 6) 測定(エンティティグループのリスク調整)
 8) 測定(契約上のサービスマージン:リスク軽減例外の適用の限定)
 9) 測定(保険料配分アプローチ:受取保険料)
10) 測定(企業結合:契約の分類)
11) 測定(企業結合:決済期間中に取得した契約)
14) 測定(保有再保険契約:未発行の基礎となる保険契約から発生する期待キャッシュフロー)
15) 財政状態計算書における表示(資産グループと負債グループの分離表示)
16) 財政状態計算書における表示(未収保険料)
17) 財務業績計算書の表示(保険金融収益又は費用のその他の包括利益(OCI)オプション)
18) 定義(直接連動有配当保険契約)
19) 期中財務諸表(会計上の見積りの取扱)

審議会は、10月に合意された修正案を評価するための基準を適用して、審議会の決定・修正案の可否を検討するか否かを議論した。

その結果、「1)表示(資産グループと負債グループの財政状態計算書における分離表示)」について、IFRS第17号の要求事項を修正することを暫定的に決定した。

問題の変更は、保険契約を表示する際の集約レベルに関連している。財政状態計算書における資産及び負債において、グループレベル(すなわち、収益性、発行時期、リスクタイプ)で契約を表示する代わりに、保険会社はそれらをポートフォリオレベルで表示することができる。

IFRS第17号は、既存の多くの保険会計実務に適用されるより高いレベルの集約ではなく、グループレベルでの契約の認識、表示、開示及び測定を要求している。これにより、新たなシステムや既存システムの大幅な変更に関連した多額の追加費用が発生する、と考えられていた。資産又は負債の表示の集約レベルが高いほど、多くの保険会社の基準の導入コストが削減するのに役立つことになる。

また、「8)測定(リスク軽減例外の適用範囲の限定)」のうちの移行要件については、特にOCIに関連しての移行要件のより一般的な議論に繰り延べられて、投票が行われなかった。

その他の項目については、修正のための合意された基準を満たしていないとして、修正しないことを暫定的に決定した。

2018年10月のIASB会議において提示された懸念及び実施上のうちの残りのトピックについては、今後の審議会で検討される。

審議会が全ての個別のトピックを検討した後、審議会は、修正を行うことの便益が費用を上回るかどうかを結論付ける前に、修正のパッケージを全体として検討することを計画している。

さらに、変更が確認される前に、提案された修正に関する公開協議が続くことになる。
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中村 亮一

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