2018年12月28日

IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について(2)-IASBにおける検討状況と各種関係団体の反応等-

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長   中村 亮一

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懸念と実施上の課題
11.一部のステークホルダーは、発効日までにIFRS第17号を適用するのに十分な時間がないと述べている。一部のステークホルダーは、以下の理由により、審議会はIFRS第17号の発効日を1年、2年又は3年延期すべきだと提案した。
(a)会社は、当初の想定よりも準備に時間がかかっている。
(b)IFRS第17号の実施を成功させるためには、内部又は第三者の専門家、特にアクチュアリー及びITシステムプロバイダーへの依存が必要となる。一部のステークホルダーは、それらのリソースの利用可能性における制限が、IFRS第17号を予定通りに実施することを困難にすると懸念している。
(c)IFRS第17号の実施から生じる報告情報の重要な変化について、一部のステークホルダーが投資家、アナリスト及びその他の利用者に財務諸表を通知し準備するのに十分なリードタイムがない。
(d)リソース、教育、業務変更管理、規制上の資本及び監督ならびに課税に関する、会社の管理外の他の要素は、現実的に2021年1月1日までに完了しないかもしれない。
(e)EU(欧州連合)の承認プロセスの潜在的な遅延は、世界中の会社がIFRS第17号を同時には適用開始しないことを意味するかもしれない。

12.一方で、他のステークホルダーは、2021年1月1日までに要求事項を適用する準備が整うことを想定していると述べている。そのようなステークホルダーの一部は、1年という短期の延期は有益だが、より長期の延期は破壊的であり、対応するベネフィットがなく、コストが増加する可能性がある、とコメントした。例えば、いくつかの会社は既に進行中である実施プロセスを妨げられ、又はそれらの実施プロセスに割り当てられたリソースの優先順位を下げるか削除することに苦しむことになるかもしれない。一部のステークホルダーは、規制変更を実施する際に発効日を変更した経験から、発効日を延期するとコストが増加する可能性があることが実証されたと強調した。

13.延期の必要性についての彼らの見解に関係なく、多くのステークホルダーは、審議会がIFRS第17号の発効日を修正するのであれば、直ぐにでも判断することが(例えば、計画や予算目的のために)有用であると述べた。

スタッフ分析
14.スタッフは、審議会が2016年4月に、発行後であるがその強制発効日より前にIFRS第15号を修正したことに留意した。審議会は、これらの修正を検討しながら、2015年9月にIFRS第15号の強制発効日を延期した。その時に、審議会はIFRS第15号の実施前の強制発効日の延期は、IFRS第15号の実施を巡る環境の例外的性質のためにのみ正当化されると述べた。審議会は、IFRS第15号の状況は3つの理由で例外的であると結論付けた。そのうち1つ-いかなる修正も、IFRS第15号 を適用するのと同時にそれらの修正を適用したい会社に影響を与える-だけが、IFRS第17号に関連する可能性がある。IFRS第15号の発効日を延期するという審議会の決定の根拠は、このペーパーの付録に記載されている。

15.このペーパーのパラグラフ9に記載されているように、スタッフはまた、IFRS第17号が、保険契約を発行する大部分の会社の保険契約の会計処理への根本的な変更を表し、これらの会社の内部と外部の両方で、リソースに対する重大な要求を課すことになる、という認識の下で、強制発効日を設定したことを強調した。発効日の設定において、審議会は、この基準を適用する際に一部の会社がデータの収集、情報技術システム及びプロセスの変更を要求されることを予想して、IFRS第17号の公表から発効日までの間にかなりの時間を提供した。

16.IFRS第17号を既に実施してきており、2021年1月1日までに要求事項を適用する準備ができていると想定する会社にとって、発効日の延期は、進行中のプロジェクト計画の修正や費用の増加をもたらす可能性がある。その結果、発効日を延期すると、2021年に向けて準備が整っていると想定している会社には不利益を与え、実施が遅い会社に報酬を与えることになるようにみえる。それはまた、まだ基準の実施をまだ始めていない一部の会社に、その実施をさらに遅らせるように奨励することになるかもしれない。

17.従って、スタッフは、会社がより多くの時間を要するという議論が、IFRS第17号の強制発効日の延期を正当化するとは考えていない。

18.しかしながら、スタッフは、審議会が2018年12月の会議でIFRS第17号の修正を探求するかどうか検討することが想定されていることを指摘する。2018年10月の会議で、審議会は、修正の必要性を証明することに加えて、スタッフは、提案がいかなる修正も既に進行中の実施を不当に妨げることがなく、また既存の広範な保険会計実務における多くの不備に対処するために必要なIFRS第17号の発効日を過度に遅延させるリスクをもたらすものでないことを含む、特定の基準を満たしていることを示さなければならないことを暫定的に決定した。

19.スタッフは、審議会がIFRS第17号の修正を提案するのであれば、それらの修正についての不確実性がIFRS第17号の実施における作成者の進捗を妨げる可能性があると指摘する。さらに、一部のステークホルダーは、延期を認める前に発効日近くになるまで待つことは、最も実施が進んでいる殆どの会社に悪影響を及ぼすと述べている。それらのステークホルダーは、彼らが延期を望んでいるかどうかにかかわらず、IFRS第17号の発効日を修正するかどうかを直ぐにでも示すよう審議会に要求している。

20.スタッフは、ステークホルダーが特定した懸念及び実施上の課題を考慮した場合に、審議会がIFRS第17号に提案するかもしれない修正は少なくとも1年間は最終決定されない可能性が高いと考える。これは、公開草案を作成し、適切なコメント期間を設け、提案を再審議する必要があるためである。さらに、2018年10月の審議会におけるアジェンダ・ペーパー2D「懸念及び実施上の課題」におけるスタッフの予備的見解は、その発効日の延期を促したIFRS第15号の修正とは対照的に、いかなる修正も、単にIFRS第17号の要求事項を明確化することを超える可能性があることを示している。あるものは、審議会が修正案の最終決定を行うか、又は進行しないことを決定するまで、IFRS第17号の修正の可能性について不確実性が続くと主張するかもしれないが、修正に関する審議会の基準は、既存の広範囲の保険会計実務における多くの不備に対処することが必要とされていることを条件に、IFRS第17号の発効日における過度の遅延のリスクを伴う変更に対して大きなハードルがあることを要求している。

21.スタッフは、この不確実性が、IFRS第17号が保険契約を発行する多くの会社にもたらす重大かつ広範囲にわたる変更と相まって、IFRS第17号の実施を取り巻く例外的な状況を表していると考える。もし審議会が同意すれば、今IFRS 第17号の発効日を延期することを示すことができる。いかなる修正も既に進行中の実施を不当に混乱させたり、IFRS第17号の発効を過度に遅延させるべきではないという審議会の基準を満たすためには、その延期を、会社が 2022年1月1日以降に開始する年度からIFRS第17号を適用することが要求されるように、1年に制限することができる。延期を1年に制限することはまた、実施が最も進んでいる会社への混乱を最小限に抑えるだろう。

なお、延期の提案は、2019年に行われる予定の公開協議(パブリック・コンサルテーション)の対象となる。
3|IASBpodcast
IASBは、10月26日に、10月のIASB会議でのIFRS第17号「保険契約」に関する議論に関するpodcastをリリース6した。

Darrel Scott理事は、審議会はまず、IASBスタッフが、審議会が修正案を検討することを正当化するかどうかの評価に適用するために開発した基準について議論し、次に、スタッフによって特定された25項目の懸念や問題に対して、これらの基準を一種のテストランの中で使用した、しかしながら、何らの決定もなされなかった、と述べた。

IASBは、11月18日に、IFRS第17号の発効日を延期する暫定決定に関して、Darrel Scott理事がこの決定の背後にある審議会の合理性について説明するpodcastをリリース7した。

Darrel Scott理事は、IASBはIFRS第17号の発効日を遅らせるという一般的な要請にあまり賛意を示していないが、基準の修正の可能性を検討するという審議会の決定は、適用の延期を正当化する不確実性の状況を作り出した、と説明した。
4|保険契約移行リソースグループ会議のリスケジュール
これらの審議会の動き等にも関連して、IFRS第17号「保険契約」の次の移行リソースグループ(TRG)の会議は、2018年12月4日から2019年4月4日に変更された8

TRG会議は、前回の2018年9月の TRG会議以降の提出が限定されていたことと、それらの提出のいくつかの範囲の狭さを考慮して、リスケジュールされたが、これにより、ステークホルダーがさらなる実施上の質問を提出するための追加の時間が確保できることになる、とした。

Darrel Scott理事は、podcastの中で、「TRGへの提出案件は、より詳細なものになってきており、これは実施プロセスが深化していることを示しており、良い兆候だ。」と述べた。  

3―10月及び11月のIASB会議の内容を踏まえた関係者の反応

3―10月及び11月のIASB会議の内容を踏まえた関係者の反応

11月14日のIASB会議におけるIFRS第17号の発効日の1年延期の暫定決定等を受けての、関係団体の反応は、以下の通りである。

1|グローバルな保険業界団体の反応
前回のレポートにおいて、10月16日に、IFRS第17号を適用する必要がある地域からの保険会社からの9つの協会が、共同で、IASBのHans Hoogervorst議長宛にレターを送付して、IFRS第17号の実施時期の2年延期を要請した、ことを報告した。ここに、9つの協会とは、ASISA(南アフリカ貯蓄投資協会)、CLHIA(カナダ生命保険健康保険協会)、ニュージーランド金融サービス協議会、韓国損害保険協会、カナダ保険局、オーストラリア保険協議会、ニュージーランド保険協議会、Insurance Europe(保険ヨーロッパ)、韓国生命保険協会、であった。

これらの9つの協会に、新たにNAMIC(米国相互保険会社協会)と南アフリカ保険協会が加わった11のグローバルな保険団体からなるグループが、保険会計基準であるIFRS第17号の施行の2年延期を要請する増大する声を支援するために、あらためて12月6日に、IASB議長Hans Hoogervorst氏に共同レター9を送った。

11のグローバルな保険業界団体は、IFRS第17号の実施を2022年1月1日に延期させるという11月のIASBにおける決定を歓迎する一方で、保険会社は1年延期では基準を適切に実施するには不十分だと述べた。

新たなレターの中で、「私たちは、IFRS第17号の問題を解決し、基準のグローバルな実施の成功のために保険会社に十分な時間を与えるために、2年の延期が必要であるという強い見解を引き続き有している。」と述べた。

さらに、「IASBは、基準に対する潜在的な修正を検討するのに必要な時間をかけることが重要である。さらに、詳細なファクトベースの業界分析によって支持された、業界が提起した重要な運用上の懸念事項も考慮に入れる必要がある。」と述べた。

なお、「2年間の延期が実施プロジェクトを停止又は遅らせるとは予想していないが、むしろ会社が運用上及び関連する場合には規制上の影響に対処することを可能にする。」と述べた。

加えて、「欧州のEFRAGで行われたテストの実施が、前例がないものであり、世界中の会社からの継続中の実施プロジェクトとともに、潜在的な修正を評価する際に考慮されるべき重要な新しい情報と証拠を提供している、ということを強調する。」とした。
(参考)NAMIC(米国相互保険会社協会)が共同レターに加わった理由
なお、IFRS第17号は通常は相互保険会社には適用されないが、NAMICが今回の共同レターに加わった理由について、NAMICの金融規制マネージャーであるJonathan Rodgers氏は次のように述べた。「NAMICメンバーが新しいIFRS 第17号に関心を持つ理由はたくさんある。これらの懸念の中でも、基準を実施するためのコストと複雑さが問題視されている。NAMICには、IFRS財務諸表、米国 GAAP財務諸表、米国法定会計財務諸表を提出する必要があるメンバーがいる。」

さらに、「IFRSと米国GAAPとの差異は重要であり、IFRS第17号の多くの実施上の問題は未解決のままである。実施に関する懸念に加えて、NAMICのメンバーは、IAIS(保険監督者国際機構)によって策定中の基準がIFRS会計基準の影響を大きく受けているという事実を心に留めている。」と述べた。

2018年12月6日 ブリュッセル
ReIASB 11月の審議会のIFRS17号のフォローアップに関するグローバルな保険業界のレター
親愛なる Hoogervorst議長へ

保険会社がIFRS第17号を適用することが求められる多くの市場を代表する団体として、私たちは、IFRS第17号の発効日を1年延期することを提案した審議会の決定に従い、私たちの考え方を書いている。

私たちは、IFRS第17号及びIFRS第9号の発効日を延期するという審議会の決定を歓迎するが、IFRS第17号の問題を解決し、基準のグローバルな実施の成功のために保険会社に十分な時間を与えるために、2年の延期が必要であるという強い見解を引き続き有している。

投資家、アナリスト、その他の利用者が期待している、質の高い決定に有用な情報を提供するには、グローバルな実施が成功することが不可欠である。IASBは、基準に対する潜在的な修正を検討するのに必要な時間をかけることが重要である。さらに、詳細なファクトベースの業界分析によって支持された、業界が提起した重要な運用上の懸念事項も考慮に入れる必要がある。

前述の通り、2年間の遅延が実施プロジェクトを停止又は遅らせるとは予想していないが、むしろ会社が運用上及び関連する場合には規制上の影響に対処することを可能にする。

私たちは、欧州のEFRAGで行われたテストの実施が、前例がないものであり、世界中の会社からの継続中の実施プロジェクトとともに、潜在的な修正を評価する際に考慮されるべき重要な新しい情報と証拠を提供している、ということを強調する。

業界は、質の高い財務報告基準の策定に引き続きコミットしており、成功したグローバルな採択を確実にするためにIASBとの積極的な関わりに期待している。

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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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