2018年12月21日

IFRS第17号(保険契約)を巡る動向について(1)-各国の実施延期を求める動き及びIFRS導入の影響分析等-

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3―欧州の監督当局等の反応

1|EFRAGの対応に対するESAs(欧州監督当局)の反応
ESAs(European Supervisory Authorities:欧州監督当局)4は、EFRAGにおける検討状況を踏まえて、IFRS第17号「保険契約」の承認プロセスに関する懸念を表明するために、10月18日に、EFRAGに共同でレター5を送った。

ESAsは、承認プロセスの遅れに懸念を抱いており、この段階では、IFRS第17号に関する詳細な技術的見解は示していないが、2021年1月のIFRS第17号の発効日を背景に、IFRS第17号の分析をタイムリーに進めて終了することの必要性を繰り返し述べている。
 

2018年10月18日
REIFRS17号保険契約の承認プロセス

親愛なるGauzès氏へ

私たちは、国際会計基準審議会(IASB)により発行され、またそれに対して2017年10月に欧州委員会が正式にEFRAGに2018年末までに助言を提供することを要請した、保険契約の新しい会計基準IFRS第17号の承認プロセスに関して、書いている。

3つのESAsは、2005年に適用になり、個々のグループの連結勘定の内部及びEU全体での異なる一貫性のない会計実務のグランドファザーリングを許容している暫定的な手法として意図されていた、現在の保険契約の会計基準であるIFRS第4号を置き換えることの重要性を一貫して強調してきた。IFRS第4号は、欧州における保険会社の比較可能で透明な財務諸表を促進することができない。

金融情報の比較可能性と透明性は、保険業界を含む経済全般の長期的な金融安定性の基礎であり、キャピタル・マーケット・ユニオン(CMU)のプロジェクトの中心にあるより深い金融統合に役立つ。

これに関連して、私たちはIFRS第17号の承認手続に関するEFRAGのプロセスを監視しており、IASBに対してIFRS第17号の主要なビルディングブロックを変更するように促したIASBに対する最近のEFRAG理事会のレターをめぐるより透明性の高い意思決定プロセス及びEFRAGの技術専門家グループ(TEG)の技術分析についての詳細な議論を期待していた。

この段階では、私たちはIFRS第17号に関する詳細な技術的見解は示していないが、2021年1月1日のIFRS第17号の発効日を背景に、タイムリーに、IFRS第17号の分析を進め、確定する必要性を繰り返して述べる。

この点に関して、承認プロセスをタイムリーに完了することは、保険会社や保険会社を抱える金融コングロマリットが、IFRS第17号の発効日と一致している2021年1月1日までに、金融商品の新基準であるIFRS第9号の適用を延期するオプションが付与されていることを考慮すれば、特に重要であることを強調する。従って、 IFRS第9号をこれらの会社にタイムリーに適用する必要性を考慮して、IFRS第9号と新たな保険契約基準の調和された適用を促すIFRS第17号の承認がさらに遅れることに対して警告を発する。

 
4 ESAs(European Supervisory Authorities :欧州監督当局)は、EBA(European Banking Authority:欧州銀行監督局)、EIOPA( European Insurance and Occupational Pensions Authority:欧州保険年金監督局)、ESMA(European Securities and Markets Authority:欧州証券市場監督局)
5 https://esas-joint-committee.europa.eu/Publications/Letters/ESA%202018%2023%20(Letter%20IFRS%2017%20endorsement)_18%2010%202018.pdf
2|EFRAGの対応に対するESMA(欧州証券市場局)の反応
ESAsの1つである欧州証券市場局(European Securities and Markets Authority:ESMA)のSteven Maijoor議長は、10月19日のマドリードで行われた会議の演説6で、IFRS第17号について、重要なメッセージとして、以下の3点を挙げ、IFRS第17号を評価するとともに、EUにおける承認プロセスの遅れに対する懸念を示した。

・IFRS第17号は、現在の状況と比較した場合に、保険契約の財務情報の比較可能性と透明性を向上させることが確実であるということが、技術的な詳細な分析を通じて、確認できる。

・保険契約の新しい会計基準へのタイムリーな移行の重要性を強調し、IFRS第17号によって導入された変更を評価する際には注意を払うことが重要だが、保険契約の共通の会計基準に達するまでのさらなる遅延を避ける必要がある。

・EUにおけるIFRS第17号の承認過程で観測されている遅れが非常に懸念される。
 

2018年10月19日
Steven Maijoor のマドリッドにおける基調講演「Banco de Española – CEMFI – FSI High-Level Conference-新しい銀行プロビジョニング基準:実装上の課題と財務上の安定性の影響」からの抜粋

IFRS第17号について言及したところで、今日の話題の核心にまっすぐ進む前に、この新しい基準に関する3つの重要なメッセージをお伝えしたいと思う。

第1に、私たちが技術的な詳細を分析している間に、既に確実に確認できることの1つは、IFRS第17号が、現行の状況と比較した場合の保険契約の財務情報の比較可能性と透明性を向上させることである。このような観点から、私は、この新しい基準を歓迎した金融安定理事会(FSB)の2017年の声明を繰り返したいと思う。

第2に、保険契約の新しい会計基準へのタイムリーな移行の重要性を強調したい。私たちが承知しているように、IFRSにおける保険契約の包括的な会計ソリューションがない場合、「暫定」基準であるIFRS第4号は何年も維持されることになる。異なるローカル会計実務の継続を許可することにより、IFRS第4号は、保険会社の連結勘定における比較可能性と透明性の欠如を招き、既に述べたように、それは保険会社に対するIFRS第9号の適用の延期をもたらした。このような状況に慣れてきた人もいるかもしれないが、投資家の保護と金融の安定性は、質の高い財務報告を妥協した時に危険にさらされることを肝に銘じておくべきである。従って、IFRS第17号によって導入された変更を評価する際には注意を払うことが重要だが、保険契約の共通の会計基準に達するまでのさらなる遅延を回避する必要があると考えている。

IFRS第17号の第3点目は、EUにおけるIFRS第17号の承認過程で観測されている遅れが非常に懸念されていることである。保険業界は、実践的な実施問題に取り組むためにIASBとのオープンで建設的な対話を継続していくことが重要であるが、これは10年以上の広範な研究とコンサルテーションの後に開発されたモデルの中核的側面を疑うものではない。承認プロセスの遅延は、1)発行体の継続的な実施努力に深刻な影響を与える、2)投資家が教育活動や発行者との必要な交流を開始することをより困難にする、3)承認プロセス自体の信頼性を損なう、ことになるかもしれない。

3|ESAsの反応に対するEFRAGの対応
ESAs(欧州監督当局)からの10月18日付のレターに対して、EFRAGのJean-Paul Gauzès議長は、IFRS第17号の承認助言プロセスで取られているステップの明確化を図るために、10月26日にレター7を送付して反応した。

EFRAG議長は、9月にIASBに送られたIFRS第17号に関するEFRAGのレターを参照して、EFRAGは現在、IASBの反応を待っていることを説明した。

このレターの中で、EFRAGは、「IASBがIFRS第17号を再公開しないことを決定した場合、EFRAGはIFRS第17号に関する草案を作成し、最終承認助言を作成する。」とし、「IASBがIFRS第17号を再公開することを決定した場合、EFRAGはIASBの再審議の期間中、承認プロセスを延期し、その期間中のIASBの適格プロセスに貢献する。」と述べた。
 

2018年10月26日
IFRS第17号保険契約の承認プロセス

10月18日のレターをお寄せいただきありがとうございます。また、EFRAGのIFRS第17号保険契約の承認助言の準備プロセスに関するご意見をお寄せいただきありがとうございます。

EFRAGは、2017年10月に欧州委員会の要請を受けて以来、承認助言に取り組んできた。EFRAG理事会は、このプロセスを通じて密接に関わり、EFRAG技術専門家グループ(EFRAG TEG)、EFRAG保険会計ワーキンググループとEFRAGユーザーパネルを含む、EFRAG TEGへのインプットを提供するワーキンググループとパネルの専門的助言を検討してきている。EFRAGはまた、欧州議会のIFRS第17号決議の様々な要請にも取り組んでいる。

EFRAGは、承認助言を作成する過程において、詳細な影響分析も開発しており、幅広い構成要素からのインプットを求めてきた。インプットの源泉は、11の大規模な欧州保険会社の参加による広範なケーススタディと様々な規模の49の欧州保険会社の参加による簡略化されたケーススタディを含んでいる。EFRAGはまた広範囲なユーザーアウトリーチも行った。

ご承知のように、EFRAGは9月3日にIASBにレターを送った。このレターを送る際のEFRAGの目的は、2017年5月に公表されたIFRS第17号が、EFRAGの承認申請のための安定したプラットフォームとみなされるかどうかに関する明確化を求めることだった。EFRAG理事会の見解では、IASBによるさらなる検討が必要となる特定の事項がEFRAGのレターによって特定された。これらの事項は、EFRAG理事会のメンバーが、EFRAGの構成員が提起した懸念とEFRAGのアウトリーチ活動中に得られた証拠をEFRAG理事会のレビューに基づいて特定したものである。EFRAG理事会は、IFRS第17号に関する継続中の議論といくつかの変更が検討されているという兆候を考慮して、明確化を求め、これらの事項を伝えることがタイムリーになると判断した。私は、EFRAGがこれらの事項が承認助言に対する影響をまだ決定していないことを強調したいと思う。

EFRAGに対するIASBの対応がIFRS第17号を変更しないとしている場合、EFRAGは元々の野心的なタイムテーブルと比較して若干遅れているにも関わらず、ドラフト及びその後の最終承認助言の準備を継続する。IASBがIFRS第17号を再公開することを決定した場合、EFRAGはIASBの再審議期間中に承認助言を一時中断し、その期間中のIASBのデュー・プロセスに貢献する。

EFRAG理事会、EFRAG TEG及びEFRAG保険ワーキンググループに対する発言権を持つ公式オブザーバーとしてのESAsの貢献に非常に感謝し、私たちの継続中のIFRS 第17号に関する取組みへのESAsの引き続きの関与を楽しみにしている。

私は、私たちが承認助言プロセスにおいて完全な透明性を保ちながら取っているステップを明確にできたらと思っている。

4|EIOPA(欧州保険年金監督当局)の反応
EIOPA(欧州保険年金監督当局)は、10月19日に、IFRS第17号についての分析8を行った報告書を公表した。これによれば、まずは、

「全体として、EIOPAは、IFRS第17号を通じての、透明性の向上、比較可能性の向上及び保険会社のビジネスモデルへの洞察力の提供が、EEA(欧州経済領域)の金融安定性を強化する可能性があることを確認し、IFRS第17号の実施が欧州の公共の利益にとって有益であるとみなしている。 IFRS第17号の現在の市場整合的かつリスクに敏感な保険債務の測定は、経済的現実を反映している。これにより、効率的なリスク管理がサポートされ、ステークホルダーは会社のビジネスモデル、エクスポージャー及びパフォーマンスについての洞察を得ることができる。」

と述べて、IFRS第17号の導入を評価した。さらに

「IFRS第17号の導入は、IFRS第17号の前身であるIFRS第4号保険契約と比較して、長期にわたって遅延していたポジティブなパラダイムシフトと説明することができる。」
と述べた。一方で、

「EIOPAは、IFRS第17号を適用した財務報告の重要な改善にもかかわらず、IFRS第17号の財務諸表の比較可能性及び関連性に影響を及ぼす可能性があるいくつかの概念について懸念を有している。」とし、「評価における会社固有のインプットと前提条件を考慮する必要がある。」と述べた。

さらに、「契約の集約レベル又は保有する再保険契約の利益などの問題は、将来において、IFRS第17号の適用におけるさらなる検討やIASBの目標改善による潜在的な修正を必要とするかもしれない。」と述べ、IFRS第17号がいくつかの課題を有しているとの問題意識も表明した。

具体的に、報告書の「エグゼクティブサマリー」は、以下の通りとなっている。
 

IFRS第17号保険契約のEIOPAの分析
エグゼクティブサマリー
このレポートは、IFRS第17号保険契約のEIOPAの評価のいくつかの側面、金融安定性及び欧州の公共の利益、保険契約の商品設計、供給及び需要に対する潜在的影響ならびにソルベンシーIIの適用可能なインプットやプロセスに照らしてのIFRS第17号の実務的な実施、を提示している。

全体として、EIOPAは、IFRS第17号を通じての、透明性の向上、比較可能性の向上及び保険会社のビジネスモデルへの洞察力の提供が、EEA(欧州経済領域)の金融安定性を強化する可能性があることを確認し、IFRS第17号の実施が欧州の公共の利益にとって有益であるとみなしている。IFRS第17号の現在の市場整合的かつリスクに敏感な保険債務の測定は、経済的現実を反映している。これにより、効率的なリスク管理がサポートされ、ステークホルダーは会社のビジネスモデル、エクスポージャー及びパフォーマンスについての洞察を得ることができる。

IFRS第17号の導入は、IFRS第17号の前身であるIFRS第4号保険契約と比較して、長期にわたって遅延していたポジティブなパラダイムシフトと説明することができる。EIOPAは、IFRS第17号を適用した財務報告の重要な改善にもかかわらず、IFRS第17号の財務諸表の比較可能性及び関連性に影響を及ぼす可能性があるいくつかの概念について懸念を有している。

最も流動性のない市場で取引されることの少ない、保険負債の市場整合的な評価の課題について確かに理解しており、それは評価における会社固有のインプットと前提条件の考慮を必要としている。適用可能な割引率及びリスク調整の決定に関するIFRS第17号の要件は、会社固有のインプットの適切な水準を上回っている可能性があり、結果的には著しく異なる結果となる可能性がある。

他の分野では、EIOPAは、IFRS第17号により提供されるソリューションが、保険及び再保険契約の特定の側面の経済性を捉えるために完全に設計されていない可能性があることを発見した。契約の集約レベル又は保有する再保険契約の利益などの問題は、将来において、IFRS第17号の適用におけるさらなる検討やIASBの目標改善による潜在的な修正を必要とするかもしれない。

ソルベンシーII導入後のEIOPAの調査と同様に、IFRS第17号の保険会社の投資及び商品の入手可能性への影響は考慮されている。市場整合的なソルベンシーIIの貸借対照表評価は、IFRS第17号及びIFRS第9号金融商品の適用の代理とみなすことができる。その研究では、EIOPAは、最近の低い金利や利回りのような経済環境の変化が、特定の契約の利用可能性、その契約の価格設定、消費者の需要を形作り、投資決定に影響を及ぼす可能性があることを観察した。これまでのところ、EIOPAは、規制環境の変化、特にソルベンシーIIの実施が同様の明確な影響を及ぼしていることを発見していない。

最後に、IFRS第17号の実際の実施について、EIOPAの分析は、ソルベンシーIIのために開発された重要なインプット及びプロセスを使用できると判断したが、様々な程度の調整が必要となる可能性がある。調整の潜在的な必要性にもかかわらず、大幅な効率向上が期待できる。これらの効率性の向上は、IFRS第17号の構成要素である、キャッシュフロー、割引率及びリスク調整において、最も広くみられる。

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中村 亮一

研究・専門分野

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