2018年12月18日

超高齢社会の深化で必要性高まる多彩なハイテク福祉機器-「H.C.R.2018」の開発最前線に見るアートやICT、IoTの活用-

青山 正治

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3――超高齢社会の深化は新たな福祉機器群のイノベーションを促進

福祉用具又は福祉機器、装具・補装具等々と呼ばれる極めて多種多様の福祉分野の様々な製品群を福祉用具と総称して、それらの市場規模を纏めた国内の長期の市場動向のデータをグラフ化すると下図のとおりである(図表-6)。このデータは、グラフの資料出所の団体によって、公的な調査データや団体独自に調査を行なって福祉用具産業の工場出荷額を取りまとめた大変貴重なデータであるが、公的な全数調査を行なった精緻な統計数値ではない点には留意も必要だが、福祉用具産業を大きく俯瞰できるデータは他に存在しない。それらを「2016年度 福祉用具産業の市場動向調査(工場出荷額)」で調査が開始された1993年以降の長期の推移を概観してみよう。
図表-6 福祉用具産業の長期市場動向(工場出荷額)
1近年の福祉用具産業の市場動向は堅調な成長を維持
法律の上で「福祉用具」とは、1993年10月に施行された「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律(福祉用具法)」の第一章 総則の第二条に定義されており、「第二条 この法律において『福祉用具』とは、心身の機能が低下し日常生活を営むのに支障のある老人(以下単に「老人」という。)又は心身障害者の日常生活上の便宜を図るための用具及びこれらの者の機能訓練のための用具並びに補装具をいう。」となっている。
図表-7 福祉用具工場出荷額の構成比 また、上記の法律の目的は、将来の高齢社会に向けた様々な「福祉用具の研究開発及び普及を促進し」、高齢者及び障がい者の「福祉増進に寄与し、合わせて産業技術の向上に資することを目的とする。」とあり、福祉用具の産業化を目指した内容といえる。1993年頃はちょうどバブル経済の崩壊が始まる時期であるが、その時期が「福祉用具」の成長・拡大へ向けた出発点となっている。

その当時の総額は7,735億円で、2016年には14,602億円(2018年8月公表)へと約1.9倍に拡大し、長々期の年平均成長率は2.8%(23年間)である。また、合計出荷金額は1.46兆円と大きいが、企業規模は中小企業が多く、多品種少量生産の構造を持つ。凡例の項目1で2016年の構成比を図表-7で見ると、トップは「パーソナルケア関連」が30.8%で主に入浴や排泄関連の製品群である。次いで「コミュニケーション機器」が25.8%で視聴覚関係(眼鏡や補聴器など)、3位が「義肢・装具(広義)」(広義ではかつらなどを含む)で15.4%となっている。多様な製品を含む各分類項目ではあるが、この上位3項目で全体の72. 0%を占めており集中度はかなり高い。
図表-8 福祉用具工場出荷額の前年比と過去5年の年平均成長率 参考までに、公表されている分類項目の最近5年間(2012~2016年度)の市場の年平均成長率を見ると福祉用具全体では約4.5%となっているが、各項目分野とも比較的堅調な成長が見られる。この平均成長率を上回る項目は5%台の上の方から順に「義肢・装具(広義)」(5.69%)、「家具・建物等」(5.58%)、「パーソナルケア関連」(5.26%)となっている。前年比ではこの3項目とも微減や微増となっている。各項目の前年比(2016/2015)の上位3項目は「コミュニケーション機器(+7.3%)」「パーソナルケア関連(+2.5%)」「家具・建物等(+2.4%)」となっている。

今後とも福祉用具産業は、その時々の外部の経済要因(例:過去では2008年のリーマンショック等)や、介護保険の「福祉用具貸与」事業が介護報酬改定の影響を受けながらも、長期的には安定した成長が期待される。なぜならば、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会などの波及効果や高齢化の深化により、高齢者や障がい者向けの様々な機器群が地域社会において整備・充実され自立した日常生活の支援のためにその利活用の促進が必要となるからである。
 
1 本調査の製品分類は(公益財団法人)テクノエイド協会の福祉用具分類コード95及び「ISO9999ー2007(仮訳版)」を基に本調査のために一部を改変して作成されている。基本的な分類はテクノエイド協会のホームページ内に掲載されている。
最近の介護人材不足と介護ロボット等の導入支援事業の一例
介護人材の不足や採用難が長期化する中、外国人の受入を拡大する改正入管難民法が成立し、2019年4月1日に施行されることになった。その内容については様々な議論もあるが、介護サービス事業所では人材確保等に窮している事業所も少なくなく技能実習生の受入に期待するところ大である。

また、厚生労働省は地域医療介護総合確保基金2の介護分(2015年度より追加)の「 (5)介護従事者の確保に関する事業」の一部として「介護ロボット導入支援事業」を実施している。これは、介護施設等の介護サービス事業所への介護ロボット等(平成30年度からは「ロボット介護機器開発・標準化事業」で採択された介護ロボット)の導入支援策として継続実施されているものである。都道府県ごとに機器導入に助成を要望する事業所を募集して基金を設けて実施されるが、基本的に1機器当たりの補助額は2018年度より従来の10万円から上限30万円(60万円未満は価格の1/2を上限など、幾つかの要件がある)へ大幅に拡大され、地方公共団体によっては独自の助成策も上乗せするなど、積極的な支援策を実施するケースも増えてきている。今後の介護施設や介護サービス事業所での介護ロボットの導入とその活用が促進されることを期待したい。

このほか、福祉用具関係の開発では厚生労働省が「シーズ・ニーズマッチング交流会」事業(公益財団法人テクノエイド協会が運営)を継続的に、また国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「問題解決型福祉用具実用化開発支援事業」などを実施している。このように、いろいろな機関で福祉機器や福祉用具の開発が力強く進められており、今後の成長は更に活発化することはまちがいない。
 
2 地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するため平成26年度から消費税増収分等を活用した財政支援制度(地域医療介護 総合確保基金) を創設し、各都道府県に設置される。医療分と介護分に分けて様々な平成30年度当初予算案は、公費ベースで1,658億円(医療分934億円(うち、国分622億円) 、介護分 724億円(うち、国分483億円))。(厚生労働省資料より)
 

おわりに

おわりに

このように福祉用具等の市場は、長期的に堅調な成長を継続している。今後、日本はさらに人口減少や人材不足等々の課題が際立ち、それらから波及する様々な社会的課題の早急な解決を迫られる時代を迎えることになる。技術の大革新(ICTやIoT、またAIやロボットの開発と活用等々)に沿った社会の制度やルールを最適な形へ改革していくソーシャルイノベーションをより強力に推進していくことが重要である。
<参考資料>

1. 政府及び行政などの公表資料
・一般財団法人 保健福祉広報協会 ホームページ内各種資料
・第45回国際福祉機器展 「福祉機器開発最前線」 展示製品紹介(PDF)
・一般社団法人日本福祉用具・生活支援用具協会 「2016年度 福祉用具産業の市場動向調査結果(概要版)」(2018年8月)ホームページにて公表
 
2.ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート(Web版)」
・「介護ロボットの『導入・利用で考えられる課題・問題』の一部再考-「平成28年度介護労働実態調査」に見る導入状況と課題-」(2018年3月14日)
・「小型コミュニケーションロボットの活用に向けて-目指す活用シーンはビジネスからパーソナル、ホームと多彩-」(2016年12月27日)
・「ロボット介護機器(介護ロボット)の利用意向 -東京都の調査に見る現役世代の高い利用意向-」(2016年11月22日)
・「新たな価値を提供する先進的な福祉用具-ユーザー目線の開発がもたらす利用者のQOL向上-」(2016年5月26日)
・「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業の現状と今後-介護現場との協働と共創が必須の介護ロボット開発-」(2016年2月3日)
3.ニッセイ基礎研究所 「基礎研レター(Web版)」
・「超高齢社会の人の“移動”を支援する機器開発の動き –モーターショーに見るパーソナルモビリティやコンセプトモデル-」(2017年12月4日)
・「ロボット介護機器の『重点分野』が改定され6分野13項目に -コミュニケーションロボットや排泄予測機器など1分野5項目を追加-」(2017年11月1日)
・高まる介護ロボット導入による『効果的な活用』への注目度 –多くの関係者が詰め掛けた『介護ロボットフォーラム2016』 -」(2017年3月30日)
・「技術革新が進む『障害者自立支援機器』の開発 –シーズ・ニーズのマッチングを促進する重要な取組-」(2017年2月13日)
 
4.ニッセイ基礎研究所 「研究員の眼(Web版)」
・「こどもたちの瞳に映る“介護の未来シーン” –厚生労働省の『こども霞が関見学デー』に見るこどもたち-」(2018年8月30日)
・「もっと知ろう!福祉用具や介護ロボットのこと -国際福祉機器展や福祉用具のセミナーに参加してみよう-」(2018年3月29日)
・「多彩な小型ロボットが活躍する超高齢社会(その3)-『分身ロボット』を解して人とコミュニケーションする-」(2018年3月27日)
・「多彩な小型ロボットが活躍する超高齢社会(その2)-介護施設や病院から将来は惑星探査へ同行の可能性も-」」(2018年3月26日)
・「多彩な小型ロボットが活躍する超高齢社会(その1)-膝の上やリビングから果ては疲労気味の心の中まで-」(2018年3月15日)
・「ロボットを上手に活かす超高齢社会の構築に向けて」(2015年5月27日)
 
(※上記、2~4のレポート類及び、2012~2015年までの過去のレポート類は「執筆一覧」よりダウンロード可能)
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青山 正治

研究・専門分野

(2018年12月18日「基礎研レポート」)

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