2018年12月18日

超高齢社会の深化で必要性高まる多彩なハイテク福祉機器-「H.C.R.2018」の開発最前線に見るアートやICT、IoTの活用-

青山 正治

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はじめに

10月中旬に第45回国際福祉機器展2018(H.C.R.: International Home care & Rehabilitation Exhibition 2018)が東京ビッグサイトで開催された。その主な目的は、高齢者や障がい者の自立や社会参加の支援を目指し、新しいケアやリハビリ、機器等の社会への情報発信をすることにある。来場者は福祉・介護・医療分野の関係者に加え、一般の高齢者や車いすの障がい者、在宅介護の家族、学生も数多く来場する。毎回、約2万点の展示品、例えば、各種福祉車両から自助具のスプーンまで大小様々な製品が展示されるほか、多数のセミナーも開催され、勿論、様々な商談も出来る。広い会場では来場の高齢者や障がい者が、日常生活の利便性向上やQOLを高める有用な製品を熱心に探す姿も多く見られる。近年、福祉・介護関係の事業者向け展示・商談会の開催が増える中、国際福祉機器展は一般の来場者も複数の福祉機器に触れ、説明員から丁寧な解説を聞けるため、今以上にその重要性を増そう。

本稿ではその2018年の開催概要と新たな開発が進む福祉機器の動向を「福祉機器開発最前線」の多彩な機器について考察する。さらに福祉用具市場の中長期の動向を振返り、簡略に今後を展望する。
 

1――第45回目となる「国際福祉機器展2018」

1――第45回目となる「国際福祉機器展2018」

図表-1 会場入り口付近の風景(10月10日~12日) 1|2018年は世界14か国1地域から620超の企業・団体が出展
この展示会開催は今年で45回を数え、福祉や介護、医療の関係者でその名称を知らない人は居ないと思われるほど知名度が高い。前述のとおり、一般の来場者も実際に機器を試用したり、解説を聞くことが出来る。また、同じ分類の異なる複数製品を横断的に比較検討することが出来る上、セミナーを受講して様々な知識を深めることも可能である。さらに、出展する企業や関係団体にとっても、エンドユーザーの率直な意見等を聞ける有益な場となっている。
このため、毎年、一部海外からの出展を含み、600前後の企業・団体が2万点を超える様々な福祉用具や機器を出展し、近年の来場者も12万人前後で推移している(図表-2)。このほか、4、5年前から、近隣のアジア諸国からの来場者が大幅に増加して英語で熱心に説明員に質問する姿が目立つ。周辺各国でも高齢化問題が顕在化しつつあり高齢化先進国である日本の取組、医療・介護関係技術の高さに大きな関心をもっている。なお、「機器展」でもあり、技術的な質問が多いようである。
図表-2 国際福祉機器展H.C.R.への来場者数の推移
図表-3 国際福祉機器展2018の来場者属性 2来場者属性の割合及び最近5年の推移
今2018年の来場者数約12万人の属性(速報)は、「8.販売業」が42%で最も多く、次いで「10.一般」が22%、「3.福祉施設」11%、「7.製造業」6%と続いている(図表-3)。

次に最近5年間の属性別割合の推移を見ると、直近2年の大まかな傾向としては「福祉施設」等や「製造業」、さらに「一般」の割合が減少する中、「販売業」が大幅に割合を増やしている(図表-4)。
図表-4 国際福祉機器展2018の来場者属性 この「販売業」急増の理由を推測すると、国際福祉機器展は極めて多くの製品群や新製品をまとめて見学できる機会でもあり、多数の大手「販売業」が研修で社員を参加させることもあるようだ。また製造業が新製品発表の場としていることも影響しているかも知れない。

「一般」については冒頭に記した以外にも、福祉や介護・医療関係の学生や中高校生の社会見学と思われるグループや団体も増えているようだ。今後、2025年や2040年という超高齢社会の節目を通過して高齢社会が深化していく中、現在の10代、20代の世代がこの大規模な福祉機器展を見学する意義は非常に大きいと筆者は考える。見学で生じる問題意識や様々な機器の存在を知っておくことが、将来、福祉機器を活用する人とのコミュニケーションを促進したり、社会での機器利用の促進に繋がることを期待したい。
 

2――特設ブース「福祉機器開発最前線」に見るアートやICT、I oTの活用

2――特設ブース「福祉機器開発最前線」に見るアートやICT、I oTの活用

毎年、この特設ブースでは10機種前後の開発中の機器や上市したばかりの先端技術を応用した機器群が展示され、開発者などから直接、詳細な説明を聞くことができる。また出展から1~2年後に、マスコミ報道などで新しい福祉機器として取り上げられ、注目されているケースも少なくない。以下では、2018年の各展示製品の概要を示すが、製品ごとに利用分野や機能が非常に多様である。このため、列挙して解説すると分かり難くなるため、筆者が各製品の特性を踏まえて、便宜的に4つのカテゴリーに分けて解説を記す。

その4つのカテゴリーは以下のとおりとした。

カテゴリー1:新しい要素(アミューズメントやアート等)を取り入れQOLを向上
カテゴリー2:既存コンセプトの機器の高機能化や新機能を付加し新しい価値を創出
カテゴリー3:ICTやIoTを活用し障がい者の日常のコミュニケーションや移動を支援
カテゴリー4:簡単かつ高精度の身体状況の計測や脳科学の成果をハイテク機器で応用

少し補足すると、「カテゴリー1」は遊びの要素を組込んでおり、福祉用具として対象者を絞って活用することも出来れば、誰でも利用できるものである。「カテゴリー2」は入浴用の車いすやバリアフリー仮設トイレなど既存のコンセプト機器に高い機能や新機能を付加してユーザビリティーを高めることを狙うものである。
1カテゴリー1:新しい要素(アミューズメントやアート等)を取り入れQOLを向上
一つ目のカテゴリーの特徴は、様々な新技術、例えばVRや各種センサー、プロジェクションマッピング等のハイテクとアートのクロスオーバーによって、新しい体験や全く新規のコンセプトで活動を可能にし、それらを利活用する人のQOLを高めるものである。

これらの新しい機器群は、高齢者や障がい者の日常生活を支援する従来の福祉機器の価値とは少し次元が異なるだけで、追求する本質的な価値は利活用者のQOL向上にあると筆者は考える。
図表-5-1 新しいコンセプトやアートの要素を持つ開発製品群の概要
図表-5-1 新しいコンセプトやアートの要素を持つ開発製品群の概要
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青山 正治

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