2018年12月07日

2019年はどんな年? 金融市場のテーマと展望

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.トピック:2019年はどんな年?金融市場のテーマと展望

師走に入り、今年も残すところ1カ月を切った。少々早いものの、今年の金融市場を振り返り、来年の市場のテーマと動向を展望したい。
(2018年の振り返り・・・トランプ政権に翻弄された一年)
まず、2018年のこれまでの市場の動きを確認すると、ドル円レートは年初113円でスタートした後、春にかけて急速な円高が進行、一時的に105円の節目を割り込んだものの、その後はドルが持ち直し、現在は年初とほぼ同水準に戻っている。いわゆる「行って来い」の形となった。一方、日本株(日経平均株価)は、年初22700円台でスタートした後、円高と歩調を合わせて大きく下落、一時21000円を割り込んだが、ドル円の回復とともに秋にかけて持ち直し、10月上旬には24200円台に達したが、その後急落、足元では21600円台にある。つまり、これまでのところ、ドル円は底堅い一方、株価はやや下落している。
 
今年の金融市場の特徴としては、トランプ政権の政策の影響を大きく受けたという点が挙げられる。(昨年末に成立し)年初からスタートした大規模減税や政府歳出拡大の効果を受けて米国の経済成長率は加速。欧州や中国などの成長率が減速するなかで「米国一強」とも言われる状況が作り出された。こうした好調な経済・物価情勢を受けて、FRBは段階的に利上げを実施し、米金利は大きく上昇した。一方、トランプ政権は今年に入ってから保護主義の動きを強め、中国を中心に輸入品に対する関税引き上げを連発。世界経済への悪影響が懸念されるようになった。
2018年のドル円相場と株価(直近まで)/ドル円レートと米長期金利/2018年の主な出来事/米国・ユーロ圏・中国の実質成長率
為替市場では、トランプ政権発の貿易摩擦への懸念や米金利上昇に伴う新興国からの資金流出などに伴ってリスク回避的に円が買われ、多くの通貨に対して円高が進んだが、米経済への信頼感や米金利の上昇を受けてドルも買われたことで、ドル円レートでは概ね横ばいを維持することになった。

一方、株式市場では、好調な米経済が一定の下支えとなったものの、貿易摩擦に伴う中国経済減速懸念や新興国からの資金流出などが下落要因となった。また、為替ではドル高に働いた米国の利上げに伴う金利上昇が米株価にとっては逆風となり、日本株の抑制に働いた面もある。
 
その他にも、欧州の政治問題(英国のEU離脱やイタリア財政など)や日銀の金融緩和縮小観測なども円高・株安材料としてたびたび浮上したが、市場への影響力という点では、あくまで脇役に留まった。主役はやはりトランプ政権の政策であったと言える。

今月もまだFOMCや英国のEU離脱採決などの重要イベントを残しているが、「2018年はトランプ政権に翻弄された一年」と総括できるだろう。
(2019年はどんな年?)
それでは、来年2019年は金融市場にとってどのような年になるのだろうか?来年のスケジュールを確認しつつ(表紙図表参照)、内外の注目材料を点検してみる。
 
(1)海外材料
1) 米国:景気、利上げ、貿易摩擦の行方
まず、米国に関しては景気の行方が注目される。最近の米債券市場では、一部の期間が長めの金利が、短めの金利よりも低くなる逆転現象が発生した。米国では、過去、長短金利の逆転後に景気後退が起きてきたことから、市場では来年の米景気後退への懸念がにわかに高まっている。確かに、来年前半までは減税効果や歳出拡大の効果が続くことで潜在成長率を超える堅調な成長が続くものの、後半になると効果が剥落し、減速する可能性が高い。米議会がねじれになったため、追加の財政政策は期待しづらい。問題は、それが景気減速で留まるのか、それとも景気後退にまで至るのかという点だ。この段階で米国経済の真の実力が試されることになる。これまで「1強」と看做されていた米国経済が失速すれば、世界経済が総崩れになりかねない。

また、景気の行方はFRBの利上げ方針にも大きく影響する。11月以降、FRB正副議長による「政策金利は中立金利に近づいている」との発言によって、利上げの鈍化・早期打ち止め観測が台頭したうえ、最近では米景気減速観測が強まったことで、市場の利上げ観測は大きく後退している。9月FOMC時のFRBメンバーの中心値では、2019年3回、2020年1回の利上げが示されていたが、足元でFF金利先物が織り込む利上げ回数は、2019年の1回に留まり、2020年以降はわずかながら利下げが織り込まれている。
米国の長短金利差と景気変動/米政策金利の見通し(FRBメンバーとFF金利先物の織り込み)
さらにこれとも絡むが、米政権発の貿易摩擦の行方も引き続き注目点となる。今月始めの米中首脳会談の結果、米国による対中国関税引き上げは90日間猶予されたが、両国の意見の隔たりは大きく、覇権の絡む話なだけに米中貿易摩擦の終結は見通せない。さらに、来年1月からは米国と日本・EUの間でも通商交渉がスタートする予定となっており、厳しい交渉が予想される。(米国の)輸入自動車に対する追加関税の発動も可能性は排除できない。

今後も貿易摩擦がますます激化していけば、報復関税や物価上昇を通じて米経済にとっての強い逆風になる。
米国・中国の製造業景況感 2) 中国:景気減速の度合い、貿易摩擦の影響
中国経済の行方も来年の市場にとって重要な材料となるだろう。中国の成長率は減速傾向にある。もともと生産年齢人口の減少や過剰債務・過剰設備といった構造問題を抱え、経済の下押し圧力になっていたところに、米中貿易摩擦の悪影響が加わる形になっている。

景気減速圧力を受けて、中国政府は景気刺激策を相次いで打ち出しているが、減速の方向性は変わらないだろう。問題はその減速の度合いだ。もし、成長率が前年比6%を割り込むような自体となれば、市場への影響も大きくなる。

中国の景気を考えるうえでは、米中貿易摩擦の影響を抑えられるかという点が注目される。米政権との交渉の行方や追加の景気下支え策の発動などがポイントになる。
3) 欧州ほか:政治リスク、ECB利上げ、地政学リスク
欧州の注目材料は政治リスクだ。英国のEU離脱問題は来年3月の離脱を控えて佳境に入っている。メイ首相が議会を説得し、秩序立った離脱を実現するのか?それとも時間切れで無秩序な離脱に突入するのか?離脱時期を延期にして合意を目指すのか?色々な可能性があるが、無秩序な離脱の場合は世界の市場に大きな悪影響を及ぼすことになる。

また、イタリアの財政赤字問題もEUとの合意が見通せない状況が続いており、今後歩み寄りがみられるかが注目される。

さらに、これまでEUを牽引してきたドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領は求心力に陰りが見えており、立て直せるかが注目される。

金融政策では、ECBは来年夏までの政策金利据え置き方針を示す一方、景気・物価の持ち直しシナリオを維持しているため、市場では秋以降の利上げ(マイナス金利縮小)を見込む向きが強い。もし、景気や政治情勢によって利上げを見送る辞退となれば、ユーロ安を通じて日本株の逆風になりかねない。
 
欧州以外では、中東や北朝鮮を巡る地政学リスクが注目材料だ。イランの核・ミサイルを巡る米国との対立、記者殺害事件に伴うサウジアラビアの苦境、長引くイエメン、シリアでの紛争などにより、中東の不安定感は強まっている。

また、北朝鮮の核問題も米国との間の交渉が進んでおらず、米政権と北朝鮮首脳との我慢比べの様相を呈している。これらの問題が今後いきなり緊迫化して市場のリスクオフに繋がる可能性も排除はできない。
(2)国内材料
1) 景気(消費税引き上げの影響)
国内の材料としては、まず景気の行方が注目される。来年は10月に消費税率引き上げが予定されているため、引き上げ後は一旦マイナス成長に陥るとの見方が一般的だ。想定以上に景気が落ち込めば、企業業績悪化を通じて株安要因となる。一方で、政府は矢継ぎ早に増税対策(キャッシュレス決済に対するポイント付与、プレミアム商品券発行、自動車・住宅購入への減税措置など)を打ち出しており、どこまで悪影響が緩和されるのかが注目される。
 
2) 参議院選
政治では、来年7月に予定されている参議院選が注目される。現在、自民・公明の与党が議席の過半数を占めているが、維持できるかが焦点となる。与党は2013年の参議院選で大勝し、議席を伸ばした関係で、今回改選される議席数が多い。従って、ハードルが高めの選挙となりそうだ。

もし、与党が大敗することがあれば、安倍政権の求心力や政策の実行力の低下が懸念され、市場の悪材料(円高・株安材料)となる可能性が高い。
 
ちなみに、日銀の金融政策は市場の大きな材料にはならないだろう。日銀は7月に金融政策の調整(金利の柔軟化など)に踏み切ったが、同時に導入されたフォワードガイダンス(P7注記参照)の内容を踏まえると、消費税率引き上げの影響が一巡するまでは新たな政策変更を見合わせると予想されるためだ。ただし、日銀は今後も国債買入れの減額を進めるとみられ、市場の一時的な動揺をもたらす可能性はある。
参議院の議席数(12月4日現在)/日米長期金利の推移
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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