2018年12月04日

EIOPAがEU各国監督当局の主要機能の監督に関するピアレビューの結果を公表

中村 亮一

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1―はじめに

EIOPA(欧州保険年金監督局)は、2018年11月15日に、保険会社の主要機能の設定がソルベンシーIIの法的要件を満たしているかどうかをEU各国の管轄区域の国家監督当局(NCA)が監督して決定する方法を評価するピアレビューの結果を公表1した。

今回のレポートでは、このピアレビュー及びその結果の報告書について、報告する。  

2―今回のピアレビュー及び報告書の概要

2―今回のピアレビュー及び報告書の概要

今回のピアレビュー及び報告書の概要等について、EIOPAが公表した内容によれば、以下の通りとなっている。
1|EIOPAによるピアレビューについて
EIOPAは、監督当局と緊密に協力し、監督上のコンバージェンスを強化し、NCAs(National Competent Authorities:国家監督当局)が高品質かつ効果的な監督を行う能力を強化するために、定期的に監督実務のピアレビューを実施している。ピアレビューは 、NCAsとの緊密な協力の下、EIOPAのピアレビュー実施のための方法論に基づいて、EIOPAの監督作業の文脈で行われる。NCAsの代表者はピアレビューチームの一員となる。 

今回のピアレビューの参照期間は2016年であったが、ソルベンシーIIの準備段階でそれ以前に実行された監督実務も網羅されていた。

2|検証している実務
今回のピアレビューでは、4つの主要機能(リスク管理、保険数理(アクチュアリアル)、コンプライアンス及び内部監査)に関する以下の実務を検証している。

・1つの保有者の下で主要機能を兼任させる。
・主要機能をAMSB2のメンバーシップ又は業務上の職務の遂行と兼任させる。
・別の主要機能の下での1つの主要機能の従属
・いくつかの保有者間で1つの主要機能の分割
・主要機能保有者の適性の評価
・主要機能のアウトソーシング

主要機能は、ソルベンシーIIの優れたガバナンス体制の不可欠な部分であり、効果的な内部統制を確保するために業務上独立していることが期待される。ガバナンス要件の実施には、保険会社が実行するリスクの複雑さの自然規模を反映する必要があることを考慮すると、NCAsは、主要機能保有者の要件に準拠した比例原則を適用する必要がある。
 
2 AMSB(administrative, management or supervisory body:管理、経営、監督機関)
3|報告書の概要
この報告書には、主要機能の比較分析から得られた結果が含まれており、ベストプラクティスが特定され、NCAs及びEIOPAに対処する推奨処置の概要が示されている。

全体として、NCAsは、保険会社が主要機能をどのように管理しているかを評価する際に、同様のアプローチを採用し、評価において比例原則を適用している。4つのベスト・プラクティスが特定され、比例関係の原則や、一貫した効果的な監督上のアプローチを確保するためのより体系的なアプローチについて、NCAsに指針を提供している。

報告書はまた、いくつかの弱点を特定し、NCAsに多くの推奨措置を提案している。一部のNCAsは、ソルベンシーIIの要件に従って主要機能をまだ評価していない。他のNCAsは、特に深さの評価と、例えば兼任が存在する場合の保険会社から求められる対策の緩和に関して弱点があった。推奨される措置の領域は、NCAsの監督上のアプローチ、内部監査機能とAMSBメンバーシップを含む主要機能保有者の様々な兼任、主要機能保有者と外部委託の適合性と関連している。

4|今回の報告書の取扱等
最近更新された方法論に沿って、ピアレビューの結果は、初めて、名前付きで完全に公開される。

このピアレビューの結果、多くのNCAsは既に監督実務を改善するための行動を取っている。これらの改善は、このレビューのフォローアップにおいて考慮される。

Gabriel Bernardino EIOPA会長は、「このピアレビューの結果は、主要機能の評価における比例原則の適用における各国監督当局の効果的なアプローチを示している。推奨行動の実施を通じて、監督当局の間の整合的なアプローチがさらに強化されるだろう。私は、特に名前付きでの結果の公表を通じて透明性が高められたことを歓迎する。改善がなされた場合を含めて、彼らの活動についてオープンであることで、監督コミュニティは、監督上のコンバージェンスの基盤を強化している。」と述べた。
 

3―今回のピアレビュー及び報告書の具体的内容

3―今回のピアレビュー及び報告書の具体的内容

EIOPAの主な任務は、監督当局のコンバージェンスの強化、消費者保護の強化、金融安定性の維持である。

監督当局のコンバージェンスを強化し、その任務に従って、EIOPAは、欧州全体の監督実務のコンバージェンスと高品質かつ効果的な監督を行うためにNCAsの能力を強化する目的で、各国のNCAsと緊密に協力しながら、ピアレビューを定期的に実施している。

その任務に沿って、特定されたベストプラクティスを含むピアレビューの結果は、レビューの対象となったNCAsの合意によって公表されるものとしている。

1|ピアレビューの背景と目的及びその内容
保険会社のガバナンス体制の強化は、ソルベンシーIIの主要な目標の1つである。ソルベンシーII規則で要求される4つの主要機能(リスク管理、保険数理、コンプライアンス及び内部監査)は、ガバナンス体制の不可欠な部分である。

これらの主要機能は、保険会社内の効果的で堅牢な内部統制環境を確保し、経営陣による意思決定の質を高めるために、業務上独立していることが期待される。同時に、これらのガバナンス要件が中小規模の保険会社にとって過度の負担とならないことも重要である。

したがって、ソルベンシーIIは、NCAsが、保険会社の主要な機能保有者の要件に準拠して、比例関係の原則を適用することを認めている。

ソルベンシーIIの下では、保険会社は主要な機能を1つの保有者に兼任させることができる。しかし、そのような兼任は、比例原則によって正当化されなければならず、保険会社は根本的な利益相反に適切に対処する必要がある。主要な機能を保有することは、そのコントロール目的の理由から、一般的に管理、経営、監督機関(AMSB)のメンバーシップ又は業務上の職務と兼任されるべきではない。したがって、これらの兼任は、リスクベースのアプローチと、保険会社が潜在的な利益相反を回避し管理する方法を考慮して、むしろ例外的なケースで発生すべきである。

このピアレビューは、NCAsが、いかにして、比例性に重点を置きつつ、保険会社の主要機能の設定がソルベンシーIIの法的要件を満たしているかどうかを監督して決定しているのかを評価している。ピアレビューでは、以下の実務を調査している。

・1つの保有者の下で主要機能を兼任させる。
・主要機能をAMSBのメンバーシップ又は業務上の職務の遂行と兼任させる。
・他の主要機能の下での1つの主要機能の従属
・いくつかの保有者間での1つの主要機能の分割
・主要機能保有者の適性の評価
・主要機能のアウトソーシング

このピアレビューの対象となる期間は2016年であったが、ソルベンシーIIの準備段階で2016年までに実施された監督実務も対象となった。

ピアレビューを実施するためのEIOPAの方法論に基づいて、欧州経済圏(EEA)のNCAsの間でピアレビューが実施された。

レビューの過程で詳細な情報が収集された。全てのNCAsが最初のアンケートを完了した。これに続いて、8つのNCAsへの訪問と30回の電話会議を含むフィールドワークが行われた。
2|ピアレビューの結果
ピアレビューは、NCAs は一般的に比例原則を適用し、同様のアプローチを採用していることを示した。

(1)比較分析の結果の要約
結果の要約は、以下の通りである。

>>監督の枠組み:NCAs の約半数は、比例関係の原則を適用するための書面による監督ガイダンスを使用している。大規模なNCAsは、特に監督当局間での監督実務の一貫性を保証するために、監督ガイダンスを使用している。

>> NCAsのアプローチ:殆どのNCAsは同様のアプローチを有している。NCAsは、主要機能保有者の任命に関する最初の通知時に、保険会社の主要機能保有者の選択を評価する。この段階で、例えば兼任や適性に関する懸念がある場合、NCAsは一般的に正式な行政上の決定を発行するのではなく、保険会社に異議を申し立てて、これらの問題を議論する。

>> 1人の保有者に主要機能を兼任させる:これはほぼ全ての国で行われる。最も頻繁にみられる兼任は、リスク管理と保険数理機能及びリスク管理とコンプライアンス機能の兼任である。兼任は小規模保険会社によって最も一般的に使用されるが、大規模保険会社にも見られる。EIOPAは、特に大規模で複雑な保険会社でみられた場合に、より強く兼任を問題視し、堅牢なガバナンス体制を保証するための適切な緩和措置を確保する必要性を、NCAsに注意喚起させる必要性を確認した。

>>内部監査機能と他の主要機能の保持:内部監査機能保有者と他の主要機能との兼任は、そのような兼任の頻度は比較的低いものの15カ国で発生している。また、内部監査機能保有者も、利益相反や内部監査機能の運用上の独立性を損なう可能性のある業務遂行を行うケースがあった。欧州委員会委任規則EU(2015/35)第271条の法的免除は、業務上の職務との兼任には適用されないことを強調することが重要である。

>>主要機能保有者とAMSBメンバーシップの兼任:殆どのNCAsは、主要機能保有者とAMSBメンバーの兼任に関する同様の包括的なアプローチに従っている。これに関して、NCAsは、比例原則の下で正当とみなされる場合にのみ、そのようなケースを受け入れる。ピアレビューは、2つのNCAsが、AMSB内のリスク管理に関する知識と専門知識を強化するための比例原則にも関わらず、AMSBメンバーとリスク管理機能保有者の兼任を要請又は支援している、ことを示している。

>>主要機能保有者(内部監査機能保有者を除く)と業務上の職務の兼任:ほぼ全ての国において、リスク管理、保険数理及びコンプライアンスの主要機能保有者の業務上の職務との兼任がみられたが、そのような兼任は一般的にはめったに又は臨時的にしか発生しない。しかし、いくつかのNCAsは、そのような業務上の職務との兼任の概要を完全には把握していない。主要機能保有者も業務上の職務を遂行する場合、潜在的な利益相反を減らすには、適切な緩和措置が不可欠である。最も一般的な兼任は、法務部長であるコンプライアンス機能保有者と財務担当役員ディレクターであるリスク管理機能保有者である。

>> 2つの保有者間で主要機能を分割する:NCAsの約半数が、複数の個人が特定の主要機能を担当するケースを報告した(「主要機能保有者の分割」)。最も一般的な分割は、保険数理的機能(生命保険と損害保険事業との間の分割)に関するものである。NCAsは、主要な機能保有者間の適切な責任と説明責任を維持するために、そのような分割を監視すべきである。

>>主要機能保有者の別の主要機能保有者又は業務部門責任者への従属:これはレビューされた国の半数で観察された。組織上の従属は認められるが、従属主要機能保有者からAMSBへの直接の「フィルタリングされていない」報告ラインが必要となる。従属の場合、利益相反が緩和され、従属主要機能保有者の報酬に関する緩和措置を含めて、業務上の独立性が確保される必要がある。

>>主要機能保有者の適性:殆どのNCAsは、最初の通知時に主要機能保有者の適性を評価し、比例原則を適用している。いくつかのNCAsは、2016年以前に任命された主要機能保有者を体系的に評価しなかった。これらのNCAsはリスクベースのアプローチを使用してそうすることが勧告される。

>>主要機能保有者のアウトソーシング:殆どのNCAsは、主要機能保有者のアウトソーシングを観察している。比例原則によれば、AMSBメンバーは、委託された主要機能の監督及び監視を担当する指定者でもあり得る。8つのNCAsは、グループ内及びグループ外のアウトソーシングを区別し、6つのNCAsは、全ての場合において指定された人物を要求せず、それはオペレーショナルリスクを発生させる可能性がある。
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