2018年12月03日

急増する外国人の居住状況

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1――はじめに

前著1で述べたとおり、日本人が減少する中、外国人の増加は著しい。特に、住宅の需要に大きな影響を及ぼす若年層と中壮年層では外国人の存在感は急速に高まっている。また、首都圏だけでなく、地方の市区町村にもその動きは広がっている。今後も、政策の後押しを受けて、外国人留学生および労働者の流入は続くと見込まれる、そこで、本稿では、増加する外国人の居住状況を概観し、住宅市場に与える影響について考えたい。
 
1 吉田資『若年層と中壮年層に着目した外国人の人口動態』ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート、2018年11月28日
 

2――外国人の居住状況

2――外国人の居住状況

(1)概況
総務省「国勢調査」によれば、日本人を含む「全世帯」では「持ち家」に住む世帯が61%を占め、次いで「民営の借家」が28%を占めている(図表1)。一方、「外国人のみの世帯」に限定すると、「民営の借家」に住む世帯が50%を占めており、「持ち家」に住む世帯は17%となっている。また、「公営・都市再生機構・公社の借家」に住む世帯が10%を占め、「全世帯」(5%)の倍である。先行研究2等によれば、公営の住宅団地は、民間の賃貸住宅に借りる際に必要な保証人や礼金・手数料が不要であり、一定の所得基準を満たせば契約時の敷金のみで入居可能なため、外国人の入居希望者が多い。一部の団地では外国人入居者の占める割合が非常に高くなっているとの指摘もある。

また、留学生や若年層の外国人労働者は、学校や会社の寮に居住するケースも多い。そのため、「住宅以外に住む世帯3」が11%を占めている。一方、「全世帯」では2%にすぎない。
図表-1 外国人世帯の居住状況(全国・住宅の種類別)
都道府県毎に外国人世帯の居住状況を確認すると、「民営の借家」に住む外国人世帯が多い都道府県は、首都圏(1都3県)のほか、宮城県や福岡県、沖縄県等となっている(図表2)。一方、「住宅以外の住む世帯」が多いのは、東北地方や四国・九州地方の都道府県である(図表3)。
図表-2 「民営の借家」の占める割合(外国人のみ世帯・都道府県別)
図表-3 「住宅以外の住む世帯」の占める割合(外国人のみ世帯・都道府県別)
また、関西圏や首都圏の都道府県では、「持ち家」に住む外国人世帯が約2~3割を占めている(図表4)。東京で働く外国人を対象としたアンケート調査4によれば、住宅の所有形態に関して、現在は「個人契約による賃貸借」との回答(61%)が最も多かったのに対し、「将来の選択」では「所有」との回答(48%)が最多であった(図表5)。大都市圏で働く外国人は、住宅所有への意向が強いと言え、外国人の動向が賃貸市場だけなく、売買市場に影響を及ぼす可能性が示唆される。
図表-4 「持ち家」の占める割合(外国人のみ世帯・都道府県別)
図表-5 住宅の所有形態
 
2 江衛、山下清海『公共住宅団地における華人ニューカマーズの集住化;埼玉県川口芝園団地の事例』人文地理学研究第29号、2005年3月25日
3 寮・寄宿舎や,学校・事務所・工場などの居住用でない建物に居住する世帯
4 一般社団法人不動産協会「外国人ビジネスパーソンの都市・オフィス・居住環境に関するニーズ調査報告書」(2015年10月)
(2)外国人留学生の住居の特色
続いて、外国人留学生の居住状況を確認する。日本学生支援機構「外国人留学生在籍状況調査結果」によれば、外国人留学生の約8割が「民間借家・アパート」、約2割が留学生宿舎や一般の学生寮等に住んでいる(図表6)。
図表-6 外国人留学生の居住状況
日本学生支援機構「平成27年度私費外国人留学生生活実態調査概要」によれば、外国人留学生が宿舎(住居)を選ぶ際に重視した項目に関して、「家賃・初期費用」との回答が最も多く(85%)、次いで、「学校からの距離・通学時間」(67%)、「周辺環境の利便性」(44%)との回答が多かった(図表7)。住宅の選定基準は日本人学生と大きく変わらない。
図表-7 宿舎を選ぶ際に重視したもの
一方、住居費の状況をみると、「月額4万円未満」との回答が約6割を占めた(図表8)。全国大学生活協同組合連合会「学生生活実態調査」によれば、日本人学生(自宅外生)の平均住居費(2017年)は月額52,820円であり、外国人留学生は家賃を安価に抑えているようだ。

住居の広さに関して、一人あたりの専有面積は、「7.5m2以上10m2未満」との回答が最も多く、「15m2未満」との回答が約7割を占めた(図表9)。また、約半数の留学生が同居をしており、同居人としては他の「外国人留学生」との回答が最も多かった(図表10)。外国人留学生の中には、日本の高い家賃負担を軽減するためにルームシェアをして、2~3人で共同生活する学生も多い。特に、中国人留学生の多くは中学・高校生の時に相部屋での寮生活を経験しており、ルームシェアにあまり抵抗感がない模様である。日本人の大学生(自宅外生)においては、ワンルームマンション等で一人暮らしをする学生が大半を占めているのとは、対照的である。
図表-8 住居費の分布/図表-9 一人当たり占有面積の分布
図表-10 外国人留学生の同居人
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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