2018年11月20日

ドイツにおける追加責任準備金(ZZR)制度の見直しを巡る動き-2018年決算から見直しを行う法令改正が発効-

中村 亮一

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1―はじめに

ドイツにおいては、国内の生命保険会社の法定会計において、一定のルールに基づいて強制的に追加責任準備金の積立を求める、いわゆるZZR(Zinszusatzreserve)と言われる制度が2011年に導入された。昨今の低金利環境下で、この制度に基づく、追加の責任準備金積立負担が大きなものになっていることについては、基礎研レポート「金利低下に保険監督当局はどう対応してきたのか-ドイツBaFinの例-」(2015.6.15)で報告した。さらには、そうした状況下で、保険監督当局であるBaFin(連邦金融監督庁:Bundesanstalt fur Finanzdienstleistungsaufsicht)が、2015年度決算において、ZZR制度の適用緩和策を導入したことを、基礎研レター「ドイツにおける追加責任準備金(ZZR)制度を巡る動き-BaFinによる適用緩和策-」(2016.2.22)で報告した。

その後も、ドイツの金利環境を巡る状況は厳しく、毎年の決算において多額のZZRの積立を余儀なくされてきた。また、その財源確保のために、債券の売却を行って、含み益の実現を余儀なくされることで、生命保険会社の財務状況に与える影響等が極めて大きなものとなっていた。

こうした状況下で、生命保険業界等は、これまでBaFinや財務省(Bundesministerium der Finanzen:BMF)に対して、ZZR制度の見直しについて、強い働きかけを行ってきた。一方で、ドイツの連邦議会の金融委員会は、財務省に対して、2014年から施行されている生命保険改革法(LVRG)の影響を評価し、これを報告するように求めていた。財務省は、これらに応える形で、6月28日に「評価報告書」を金融委員会に提出して、公表した。この「評価報告書」の中で、ZZRについては、BaFinによる調査結果が示され、現行制度に基づく課題が示され、その計算ルールの調整を行うべき、との結論が述べられた。

ZZR制度の見直し案については、これまでもDAV(ドイツ・アクチュアリー会)が具体的な提案を行い、BaFinとの検討も行われて、共同で開発されてきた。こうした動きについては、保険年金フォーカス「ドイツにおける追加責任準備金(ZZR)制度の見直しを巡る動き-BaFinとDAVによる新たな方式-」(2018.8.7)で、報告した。

さらに、財務省は、9月13日にZZRを改正するドラフト法案1を公表して、関係団体からの意見を徴収していたが、これについても、保険年金フォーカス「ドイツにおける追加責任準備金(ZZR)制度の見直しを巡る動き-財務省が改正法案を提示-」(2018.10.15)(以下、「前回のレポート」という)で報告した。

その後、この法令改正が最終的に決着し、10月22日付の連邦官報(Bundesgesetzblatt)で公布2されたので、今回のレポートは、この内容について報告する。  

2―ZZR制度について

2―ZZR制度について

まずは、ZZR制度について、これまでのレポートの内容を繰り返して、簡単に説明しておく。

1|ZZR制度の概要
BaFinは、低金利環境が続く中で、生命保険会社の健全性の強化を図るために、2011年度決算から、新たに一定のルールに基づいて強制的に追加責任準備金の積立を求める、いわゆるZZR(Zinszusatzreserve:Additional Provision to the Premium Reserve)と言われる制度を導入した。

具体的には、「ドイツ連邦銀行(Deutsche Bundesbank)によって公表されるユーロの10年スワップレートの10年平均3」に基づいて決定される「参照利率(Referenzzins)」を算出し、この参照利率を上回る予定利率で責任準備金を算出している契約については、当初15年間はこの参照利率(16年目以降は契約時の予定利率をそのまま)を使用して、責任準備金を再評価しなければならない。
ZZR(Zinszusatzreserve)のイメージ
強制的な追加責任準備金積立制度であるZZRについては、その手法等は責任準備金命令(Deckungsrückstellungsverordnung:DeckRV)に規定されており、不足額の算出も機械的に行われる。こうして強制的に積み立てられる追加責任準備金については、将来参照利率が上昇等して、積立の必要がなくなった場合には取り崩しが行われる。
 
3 毎年度の数値は、毎月末数値の12ヶ月平均が使用されるが、決算年度だけは1~9月の9ヶ月平均が使用される。
 なお、2014年7月の生命保険改革法以前は、10年国債利回りを使用していた。
2|ZZR制度による追加責任準備金の積立状況
BaFinの2017年の年次報告書(Annual Report)等によれば、2017年に生命保険業界全体で、新たに約150億ユーロの追加責任準備金の積立が行われ、2017年末の残高は約600億ユーロとなったと想定されている。これは責任準備金の約8%程度に相当する数値である。
(参考1)参照利率と追加責任準備金残高(業界全体)の推移
また、ドイツの格付会社アセクラータ(Assekurata) によると、2017年末の業界全体での保有契約の平均予定利率は2.77%程度であったが、追加責任準備金の積立により、これが2.03%程度となり、結果として74bpの平均予定利率の低減効果が生み出された形になっている、としている。

ただし、現在のような低金利環境が続くのであれば、新規投資と再投資の利回りは2%未満とならざるを得ず、2%という保証水準の利回りも持続的には達成できないことから、さらなるZZRの積立が求められてくることになる。
 

3―今回のZZR制度の見直しについて

3―今回のZZR制度の見直しについて

今回のZZR制度の見直しの内容については、以下の通りである。

1|回廊法(コリドー法)の採用
見直し後のZZR制度の方式は、「回廊法(コリドー法)」(Korridor Methode)と呼ばれているものである。その具体的な内容は、DAV(ドイツアクチュアリー会)の資料に基づくと、以下の通りである。

x%較正を用いた2M」、「回廊法(コリドー法)」とも呼ばれるものは、参照利率を以下の算式で決定する。

基本的な考え方としては、「参照利率の変動を(前年数値と過去1年の平均値の差の)一定の範囲内に収めることで、金利変動に対する参照利率の変動を緩やかに設定する。」方式である。

•RefZ_beizul(j-1)=前年の参照利率
•RefZ_Ziel(j)=これまでの方式による参照利率
•BaseZ(j)=年j の年間平均値
Deviation_max(j)= x%* Abs(RefZ_beizul(j-1)- BaseZ(j)) 
最大偏差:前年の参照利率と過去1年の平均値のx%
•ObGr(j) = RefZ_beizul(j-1)+ Deviation_max(j) 上限
•UntGr(j)= RefZ_beizul(j-1)- Deviation_max(j) 下限

•RefZ_beizul *(j)
= RefZ_Zielj);  UntGr(j)≦RefZ_Ziel(j)≦ObGr(j)の場合
= ObGr(j)  ;  ObGr(j)<RefZ_Ziel(j)の場合
= UntGr(j) ;  RefZ_Ziel(j)<UntGr(j)の場合
上限と下限の範囲内

•RefZ_beizul(j)
= RefZ_beizul(j-1)
;  RefZ_beizul *(j)<RefZ_beizul(j-1)<BaseZ(j)
又はRefZ_beizul *(j)> RefZ_beizul(j-1)> BaseZ(j)の場合
= RefZ_beizul *(j); その他
上記数値が一定の条件を満たす場合、前年の参照利率に据置
(金利が上昇しているのに上記数値が前年数値を下回る場合や金利が下降しているのに上記数値が前年数値を上回る場合)

即ち、新しい方式によれば、参照利率は、毎年、最大「前年の参照金利とこれまでの方式に従って算出される現在年の参照金利との差額の一定割合x(%)」でしか変動しない、ことになる。これまでの方式に比べて、金利下落時には参照利率の引き下げが遅くなり、金利上昇時には参照利率の引き上げが遅れることになる。

また、この計算式に現われるx%が「Xファクター」と呼ばれ、金利の変動のスピードを表すことになる。

今回の改正ではx=9、即ち「9%」となった。
2|責任準備金命令DeckungsrückstellungsverordnungDeckRV)の改正内容
ZZR制度については、責任準備金命令(Deckungsrückstellungsverordnung:DeckRV)に規定されている。

今回の改正では、DeckRVに加えて、年金基金監督条例(Pensionsfonds-Aufsichtsverordnung: PFAV)についても、同様の改正が行われているが、ここでは、DeckRVの改正内容のみを紹介する。

なお、最終改正では、計算規則を明確にするために、ドラフトから若干の修正が行われている。

1.「§5.数理計算上の基礎」を以下のように改正
a)第3パラグラフ
(3)ドイツ商法第341f条(2)項により要求される会社の期待収入の計算において、収入は、以下の文章に従って計算される暦年ベースの参照利率とする。引当金割引命令の§7に従ってドイツ連邦銀行が発行した10年満期のゼロクーポンユーロ金利スワップレートの月末値が使用される。前の暦年の9年間で、小数点第2位まで切り上げた年末の年平均値が決定される。2009年から2013年までの年間平均値は3.81、3.13、3.15、2.14及び1.96%となる。現在の暦年では、最初の9か月の月末の数字の小数点第2位まで切り上げられた平均が決定される。3つ目の文章からの9つの年平均と4つ目の文章からの平均との合計は10で除算される。次の差異が小数点第2位までを切り上げて作成される。
1.5つ目の文章で得られた値より前の暦年の参照利率を引いた値
2.4つ目の文章で受け取った値の9%から、前年の参照利率の9%を引いたもの
6つ目の文章の1と2との差異が同じ符号を有する場合、暦年の参照利率は、前年の参照利率を絶対額がより小さい差額によって調整することによって得られる。それ以外の場合、参照利率は前年と比較して変わらない。2017年の参照利率は2.21%である。
b)第4パラグラフ
最初の文章における「平均値(参照利子)」という言葉は、「会計年度が始まった暦年の参照利子」という言葉に置き換えられる。

2.「.§6.移行措置」を以下のように改正
「§6.移行措置
2018年10月23日から適用されるバージョンの§5(3)及び(4)は、2017年12月31日以降に開始する会計年度に初めて適用される。2018年1月1日より前に開始する会計年度については、2018年10月22日まで有効なバージョンの第5条第3項および第4項は引き続き適用される。」

なお、この改正は10月22日に公布され、翌日の10月23日に発効している。

また、BaFinは、この改正に関する説明覚書(Begründung)4を公表しており、この中で、計算手法の詳細等を説明している。
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中村 亮一

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