2018年11月12日

働く女性の消費志向-独身と妻は「こだわり」、母は「安価重視」「環境安全」と「衝動買い」

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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3年代別・ライフスタイル別に見た違い
さらに、働く女性について年代別にライフスタイルによる消費志向の違いを見たところ、いずれの年代でも、全体と同様、妻と独身の特徴が似ており、「こだわり志向」が強い傾向がある(図表7)。また、母では「安価重視志向」や「環境安全配慮志向」、「衝動買い志向」が強い傾向がある。一方で「環境安全配慮志向」は年齢による差が大きく、若い年代では母であっても、他年代と比べて「環境安全配慮志向」は強くない。「環境安全配慮志向」は、子どもを思う母の気持ちもあるだろうが、年齢の影響の方が大きいようだ。
図表7 (a)年代別・ライフスタイル別に見た働く女性の消費志向の強度(各志向に対する因子得点) 
また、全体でも妻や母で「中古・シェア志向」が強い傾向があったが、年代別には若い年代ほど、その特徴が顕著に表れている。若いほど「中古・シェア志向」が強い傾向があることは、既出レポートで述べた通りだ2。デジタルネイティブである若者ほど、店舗よりネットでの購入を好む傾向があり、ネットでの個人間売買への抵抗が弱い。さらに、若者は安価なものを求めて情報収集をしている。
 
2 久我尚子「シェアリング志向が強いのは誰?」、ニッセイ基礎研究所、基礎研究レポート(2018/6/25)
4年収別・ライフスタイル別に見た違い
さらに、年収別にライフスタイルによる消費志向の違いを見たところ、母では年収によらず「安価重視志向」や「環境安全配慮志向」、「衝動買い志向」が強い傾向がある(ただし年収700万円以上はサンプル数が少ないため参考値の部分も多い)。
図表8 (a)年収別・ライフスタイル別に見た働く女性の消費志向の強度(各志向に対する因子得点)
図表9 働く女性の年収別に見た「価格が品質に見合っているかどうかをよく検討する方だ」のあてはまる割合 一方で、年収とともに経済的余裕が生まれるためか「安価重視志向」は顕著に弱くなる。なお、この点と矛盾するようだが、年収700万円以上の母では「中古・シェア志向」が強い。その理由については、サンプル数が限られるため、データを深堀りすることが難しいが、年収700万円以上の母では決して若い年代が多いわけではない(50歳代が約6割)。可能性として考えられるのは、前述の既出レポート2でも指摘した点だ。男性では、年収300万円付近と年収1千万円付近で「中古・シェア志向」が強いのだが、前者はとにかく安くおさえたいという経済的理由によるものであり、後者はモノによっては(例えば消耗品など)コストパフォーマンスを重視して安くおさえるという合理的判断の上で利用している。コスパ意識に関連の深い「価格が品質に見合っているかどうかをよく検討する方だ」という問いについて、あてはまる割合を見ると、男性では年収とともに選択割合が上昇し、年収1千万円でピークを示す。同様に、働く女性の年収とコスパ意識の関係を見ると、全体でも母でも、年収とともにコスパ意識は高まり、年収700万円以上で最も高くなる(図表9)。
 

4――おわりに

4――おわりに~働く母が増えれば消費市場は活性化する可能性も?時間や労力のコスト低減が鍵

本稿では、結婚・子育て期の女性で就業率が高まっていることに注目し、働く女性について「独身」「妻」「母」の特徴を捉えた。子どものいる母に対して、子どものいない独身や妻の消費志向は似た特徴を示していた。独身や妻は「こだわり志向」が強く、母は「安価重視志向」や「環境安全配慮志向」、「衝動買い志向」が強い傾向がある。これは年齢別に見ても年収別に見ても同様であり、女性の消費行動は、結婚をしているかどうかよりも、子どもがいるかどうかの影響が大きいと言える。なお、「環境安全配慮志向」は年齢が高いほど、「安価重視志向」は年収が低いほど、顕著に強まる傾向もある。

独身や妻で「こだわり志向」が強いのは、子どものいる母と比べて時間のゆとりがあるために、何かを買う時は時間をかけて情報収集をして、自分の好みにこだわって選ぶ時間があるためのようだ。一方、母になると、独身や妻で見られたこだわりは弱まり、家計の節約などを考慮して安くて経済的なものを選んだり、子どもをはじめ家族のために環境や安全に配慮して選んでいる様子がうかがえた。さらに、母で興味深い点は、衝動買い志向が強いことだ。これはいわゆる女性の衝動買いでイメージされるような、モノへの衝動的な欲求やストレス発散ではなく、時間がないために買える時につい買い込んでしまう、ということのようだ。

政策の後押しもあり、今後、特に子育てをしながら働く女性が増えるだろう。子育て期は出費のかさむ時期であり、家計の管理は妻が担う家庭が多いとすれば、働く母は消費者として魅力的だ。働く母は節約意識や環境や安全に配慮する意識が高く、時間がないためにまとめ買いをするという特徴がある。また、高年収の母はシェアリングサービスなどを活用する傾向もある。働く母には、金額面でのコスト低減のほか、買い物にかかる時間の短縮3、あるいは家事・育児の代行4など時間や労力のコストを減らす商品やサービスが響きやすいだろう。働く母は家族のための消費に加えて、自分のための消費にも旺盛であるため5、働く母が増えれば、日本の消費市場の活性化につながる可能性もある。
 
3 例えば、ネット宅配野菜のオイシックスでは、予め商品がカートに入っており、利用者は不要なものをカーとから削除し、必要なものを追加する仕組みだ。
4 働く母の「中古・シェア志向」の強さと家事や育児のシェアリングサービスの親和性は高い。年収と友に高まる合理的な判断に加えて、スマホワンストップによる利便性の高さも時間のゆとりのない働く母に響きやすいのだろう。
5 久我尚子「働く女性の消費実態 ~独身・妻・母の生活状況や消費志向の違いは?」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2013/5/13)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

(2018年11月12日「基礎研レポート」)

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