2018年11月12日

働く女性の消費志向-独身と妻は「こだわり」、母は「安価重視」「環境安全」と「衝動買い」

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~働く女性の旺盛な消費意欲、個人消費全体を底上げする可能性も

図表1 年収階級別に見た単身勤労者世帯の男女の消費性向 M字カーブは解消傾向にあり、働く女性が増えている。同じ年収階級の男女の消費性向を比べると、おおむねどの年収階級でも女性が男性を上回り、働く女性の消費意欲は旺盛だ(図表1)。政策の後押しもあり、今後とも働く女性は増える見込みだ。自分の所得を持つ女性が増え、女性の消費が伸びれば、日本の個人消費全体が底上げされる可能性もある。

一方で家計の管理は妻が担う家庭が多く、女性の消費行動は結婚をしているかどうか、子どもがいるかどうかなど、ライフスタイルの違いによる影響を受けやすい。また近年、就業率が特に高まっているのは30代前後の結婚・子育て期の女性だ。

よって、本稿では、増え行く働く女性の消費志向について、未既婚や子の有無などのライフスタイルによる違いに注目して、その特徴を捉えていく。分析には、ニッセイ基礎研究所が実施した25~59歳の女性5千人を対象にした調査1のデータを用いる。
 
1 「女性のライフコースに関する調査」、調査対象は25~59 歳の女性、インターネット調査、調査機関は株式会社マクロミル、有効回答5,176
 

2――女性の消費志向

2――女性の消費志向~「こだわり」「中古・シェア」「衝動買い」「安価重視」「環境安全重視」の5つが存在

はじめに、女性全体でどのような消費志向があるのかを捉えた上で、次いで、働く女性についてライフスタイル別に見ていきたい。調査では、消費行動に関わる30の項目をあげ、それぞれどの程度あてはまるか、「あてはまる」「ややあてはまる」「どちらともいえない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」の5段階の選択肢を用意し、得られたデータに因子分析を行った(図表2)。因子分析の結果より、25~59歳の女性の消費志向には、「こだわり志向」「中古・シェア志向」「衝動買い志向」「安価重視志向」「環境安全配慮志向」の5つが存在する。
図表2 25~59歳の女性の消費志向についての因子分析結果 
なお、各志向の名称は、それぞれの志向を構成する主な変数から決定している。「こだわり志向」は、価格が品質に見合っているかなどについて、情報を吟味しながら、自分のライフスタイルや感覚にこだわってじっくりと検討するという意味合いを持つ。また、「中古・シェア志向」は中古品でも気にしない、レンタルサービスやシェアリングサービスを積極的に使う、「衝動買い志向」は計画的というより衝動的に、つい予定外の買い物をしてしまう、「安価重視志向」はとにかく安くて経済的なものを買う、「環境安全配慮志向」は環境や安全性に配慮して商品を買うという意味合いを持つ。

これらの志向の強さについて年代別に見ると、若いほど「こだわり志向」や「衝動買い志向」、「安価重視志向」が強い傾向がある(図表3)。一方で年齢とともに「環境安全配慮志向」が顕著に強くなる。また、30代を中心に「中古・シェア志向」がやや強い。
図表3 (a)属性別に見た25~59歳の女性の消費志向の強度(各志向に対する因子得点) 
未既婚別に見ると、未婚者では「環境安全配慮志向」が弱い。また、子の有無別に見ると、子どもがいない女性では「安価重視志向」が弱い。就業女性について年収別に見ると、年収とともに「こだわり志向」や「衝動買い志向」が強くなる。一方で年収が低いほど「安価重視志向」が強くなる。また、年収300~700万円や年収700万円で「中古・シェア志向」がやや強く、年収700万円以上で「環境安全配慮志向」が顕著に強い。
 

3――働く女性の消費志向

3――働く女性の消費志向~独身や妻は「こだわり」、母は「安価重視」「環境安全配慮」「衝動買い」

1|ライフスタイル別に見た違い
ここからは働く女性に注目し、ライフスタイルによる違いを捉える。なお、本稿では、未婚女性を「独身」、既婚で子どものいない女性を「妻」、既婚で子どものいる女性を「母」として、これら3つのセグメントの特徴を見ていく。

働く女性の消費志向について、3つのセグメント別に見ると、全体的に独身と妻は似た傾向があり、母と比べて「こだわり志向」がやや強い(図表4)。「こだわり志向」を構成する主な変数の合致度(「あてはまる」「ややあてはまる」の選択割合の合計値)を見ても、両者の「こだわり」はおおむね変わらないが、妻は「価格が品質に見合っているかどうかをよく検討する」や「自分のライフスタイルにこだわって商品を選ぶ」の合致度がやや高く、独身は「何かを買うときには、事前に情報収集を十分にする」や「欲しいと思えるものとの出会いを求めて、インターネットをよく見る」の合致度が僅かに高くなっており、同じ「こだわり」でも意味合いに若干違いがある。
 
図表4 (a)ライフスタイル別に見た25~59歳の働く女性の消費志向の強度(各志向に対する因子得点)
一方、母は「安価重視志向」や「環境安全配慮志向」、「衝動買い志向」が強い傾向がある。なお、「環境安全配慮志向」は、独身→妻→母となるにつれて強まる。また、妻と母は「中古・シェア志向」が強い傾向がある。

以上より、独身や妻などの子どものいない女性は、何かを買う時には時間をかけて情報収集をしたり、自分の好みにこだわって選ぶ傾向があるが、母になると、それらのこだわりは弱まり、家計の節約などを考慮して安くて経済的なものを選んだり、子どもをはじめ家族のために環境や安全に配慮して選んでいる様子がうかがえる。
図表5 ライフスタイル別に見た働く女性の「衝動買い志向」を構成する主な変数の合致度 2働く母で強い「衝動買い」志向
一方で働く母は「衝動買い志向」も強い傾向がある。その理由を探るために、「衝動買い志向」を構成する主な変数の合致度を見ると、母は、独身や妻と比べて、「いつも予定より多く買い物をしてしまう」の合致度が高い(図表5)。一方、「買ったものでも、すぐ飽きてしまう」や「新しい商品は人より先に買いたい」の合致度はやや低い傾向がある。つまり、働く母の「衝動買い志向」は、モノへの衝動的な欲求というよりも、仕事と育児の両立で限られた時間の中で、買える時にまとめて買うために、つい多めに買ってしまうということなのだろう。
図表6 働く女性の時間のゆとりと悩み・ストレスの有無 なお、調査では、「時間のゆとりの程度」も尋ねているが、やはり母は圧倒的に時間のゆとりがない(図表6)。また、買い物でストレスを発散する女性も少なくないだろうが、実は、働く母は、独身や妻と比べて悩みやストレスがある割合が低い傾向がある(詳細は別途分析予定)。図表6を見ると、悩みやストレスがある割合は、独身>妻>母の順となっている。

よって、働く母の「衝動買い志向」は、衝動的な欲求やストレス発散というよりも、時間がない中で買い込んでしまうということのようだ。

また、独身女性は「買ったものでも、すぐ飽きてしまう」の合致度が比較的高いことから、衝動的な欲求でモノを買う、いわゆる「衝動買い」の傾向が強いのは独身女性と言える。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

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