2018年11月05日

救急車は有料です。-中国・北京市での料金設定は?

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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1-日本では、救急出動件数、搬送者数とも過去最高を更新

総務省の発表によると、平成29年(2017年)の救急出動件数(速報値)はおよそ634万件、搬送人数は574万人と過去最高を更新した(図表1)。

事故種別の搬送者とその構成比をみると、急病と一般負傷が増加する一方、交通事故の割合は減少している(図表2)。搬送者は高齢者が58.8%と最も多くを占めており、「社会の高齢化」に加えて、近年では「気候変化」(猛暑など)などを原因とする救急搬送の増加も考えられる1
図表1 救急車出動件数・搬送者数推移/図表2事故種別の搬送者と構成比推移
搬送された人の傷病程度では、近年、入院診療が必要な中等症が増加しつつあるも(41.6%)、軽症の者が48.5%と最も多くを占めている2

増加する出動件数・搬送者数、逼迫する医療財政を前に、2015年には救急車の出動について一部有料化の議論もあったが、以下では参考までに、現行制度において有料で運営している中国・北京市の例を紹介してみたい3
 
1 〔参考文献〕東京消防庁「平成29年中の救急出場件数が過去最高を更新」(平成30年1月10日)
2 傷病程度の定義は、以下のとおりである。重症(長期入院)とは、傷病程度が3週間以上の入院加療を必要とするもの、中等症(入院診療)とは傷病程度が重症または軽症以外のもの、軽症(外来診療)とは傷病程度が入院加療を必要としないものである。(出所)総務省「平成29年中の救急出動件数等(速報値)」
3 〔参考文献〕 篠原哲也著「救急車が有料に?-救急搬送の現状と課題」(基礎研REPORT2016年9月)
 

2-中国・北京市の救急車は走行距離に応じて料金を徴収。

2-中国・北京市の救急車は走行距離に応じて料金を徴収。ただし、重症者は一部保険適用。

中国において、救急車の出動は有料であり、各市単位でその料金の基準を定めている。
例えば、北京市での救急車の利用料金は、「救急・救命費」、「救急車走行費」、「その他のサービス費用」の3つから構成されている。

救急・救命費は、救急車による搬送、また搬送中の治療にともなって発生する費用である(図表3)。北京市の場合、まず、出動1回につき40元(660円)がかかる4。加えて、同乗した医療従事者が治療などの診療行為を行った場合、患者は使用した薬、検査などの料金を別途支払う必要がある。なお、重症の患者については2016年以降、医療保険、労災の適用が可能となった。

救急車走行費は、患者を乗せ、病院まで搬送するまでの走行距離に対してかかる費用である。走行距離3km以内は50元(825円)、3kmを超えると1kmあたり7元(116円)が加算される仕組みだ。患者及びその家族が救急車を依頼し、その後キャンセルした場合でも50元を支払う必要がある。この救急車走行費は、労災(労災事故当日のみ)は適用されるが、基本的には実費払いとなる。
図表3 北京市における救急救命費・救急車走行費の料金基準
その他のサービス費用としては、救急車の待機費用や、転院の際の搬送費用などがある。なお、「その他のサービス費用」については、後述の「3-北京市で救急車を呼ぶときは120番もしくは999番」にて記載する。
 
国は、救急車の出動にかかる料金について、項目毎に広く社会に公表するように求めている。医療機関が救急車を保有している場合も同様で、料金は各市が定めた基準を基に、それ以下の金額で設定し、公表する必要がある。
 
日本の救急車の状況を考えると、中国(北京市)の料金設定は結構ドライで、びっくりするかもしれない。しかし、北京市の現行の料金体系は2016年に(これでも)見直され、以前に比べてだいぶユーザーフレンドリーになったのだ。

具体的には、救急車のランクに基づく料金設定を廃止した。走行については、患者を乗せていない場合の料金の徴収も廃止し、救急車には走行距離を計るメーターの設置を義務づけた(以前は患者を迎えに行くまでの往復料金を徴収)。加えて、救命の緊急度が高く、患者の症状が重い場合は保険の適用を可能にしたなどが挙げられる。
 
例えば、救急車のランクに基づいた料金設定については、装備が行き届いた輸入救急車(ドイツ製、日本製)は、中国の国産の救急車より、料金が割り増しとなっていた。走行費は、国産救急車の場合、1km走行あたり2元であったが、最も高級なドイツ製の救急車の場合は1km走行あたり5元という相場だ。しかも、走行料金は往復分支払う。輸入救急車は、出動で40元(国産救急車は10元)、搬送中に検査、治療を受けた場合は、基準単価の5割増しの料金を支払う必要があった。

筆者は、2015年まで中国の北京市で5年ほど生活をしたが、救急車を見かけることはほぼ無かった。中国では救急車が有料であることは広く知られていたからであろう。
 
4 1元=16.5円(2018年9月30日付レート)で算出。なお、北京市の2017年の平均月給は8,467元(約14万円)である。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

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