2018年10月31日

2018年7-9月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.8%)を予測~

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●7-9月期は年率▲0.8%を予測~2四半期ぶりのマイナス成長~

2018年7-9月期の実質GDPは、前期比▲0.2%(前期比年率▲0.8%)と2四半期ぶりのマイナス成長になったと推計される1

4-6月期の高成長から一転してマイナス成長となった主因は、4-6月期に高い伸びとなった民間消費、設備投資がいずれも減少に転じたことである。民間消費は天候不順による外出の手控えや生鮮野菜、エネルギー価格の高騰による実質購買力の低下から、前期比▲0.1%と2四半期ぶりの減少が予想される。また、好調が続いていた設備投資も自然災害に伴う供給制約の影響から前期比▲0.2%と8四半期ぶりに減少したとみられる。

また、海外経済の減速や自然災害の影響などから輸出が大きく落ち込んだことから、外需寄与度は前期比▲0.1%(年率▲0.3%)と小幅ながら4-6月期に続き成長率の押し下げ要因となった。

実質GDP成長率への寄与度(前期比)は、国内需要が▲0.1%(うち民需▲0.0%、公需▲0.1%)、外需が▲0.1%と予測する。
 
名目GDPは前期比▲0.3%(前期比年率▲1.2%)と2四半期ぶりの減少となり、実質の伸びを下回るだろう。GDPデフレーターは前期比▲0.1%(4-6月期:同▲0.0%)、前年比▲0.1%(4-6月期:同0.1%)と予測する。国内需要デフレーターは前期比0.3%の上昇となったが、輸入デフレーターの伸び(前期比3.1%)が輸出デフレーターの伸び(同0.9%)を上回ったことがGDPデフレーターを押し下げた。
 
なお、11/14に内閣府から2018年7-9月期のGDP速報が発表される際には、基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから、成長率が過去に遡って改定される。当研究所では、2018年4-6月期の実質GDP成長率は公的固定資本形成、外需の下方修正などから、前期比年率3.0%から同2.8%へと若干下方修正されると予測している。
 
2018年7-9月期のマイナス成長は、4-6月期の高成長の反動や自然災害に伴う供給制約によるところも大きいが、輸出は基調として2018年に入り減速している。現時点では、10-12月期は供給制約の緩和に伴い民間消費、設備投資、輸出がいずれも増加に転じることから、年率1%程度とされる潜在成長率を上回る成長になると予想しているが、米中貿易戦争が一段と激化するようなことがあれば、輸出の失速を起点として景気が後退局面入りするリスクが高まるだろう。
 
1 10/31までに公表された経済指標をもとに予測している。今後公表される経済指標の結果によって予測値を修正する可能性がある。
 

●主な需要項目の動向

●主な需要項目の動向

・民間消費~天候不順、物価上昇の影響で減少~
 
民間消費は前期比▲0.1%と2四半期ぶりの減少を予測する。
消費関連指標の推移 雇用所得環境は改善を続けているが、豪雨、台風上陸などの天候不順に伴う外出が手控えられたこと、生鮮野菜の価格高騰、ガソリン、電気代などのエネルギー価格の大幅上昇によって、家計の実質購買力が低下したことが消費を下押しした。

7-9月期の消費関連指標を確認すると、「商業動態統計」の実質小売業販売額指数(小売業販売額指数を消費者物価指数(財)で実質化)が前期比▲0.3%(4-6月期:同1.6%)と小幅な低下、「鉱工業指数」の消費財出荷指数が前期比▲3.2%(4-6月期:同3.1%)と大きく落ち込んだ。業界統計をみると、外食産業売上高は底堅い動きとなったが、自然災害の影響を強く受けた百貨店売上高は大幅な減少となった。
・住宅投資~5四半期ぶりの増加~
 
住宅投資は前期比0.2%と5四半期ぶりの増加を予測する。
新設住宅着工戸数の推移 新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2018年1-3月期の89.2万戸から4-6月期に96.8万戸へと大幅に増加した後、7-9月期は95.3万戸と小幅な減少となった。利用関係別には、持家、貸家、給与住宅、分譲住宅の全てが前期比でマイナスとなった。

7-9月期の着工戸数は減少したが、GDP統計の住宅投資は工事の進捗ベースで計上され着工の動きがやや遅れて反映されるため、5四半期ぶりの増加となる可能性が高い。
・民間設備投資~8四半期ぶりの減少も、回復基調は維持~
 
民間設備投資は前期比▲0.2%と8四半期ぶりの減少を予測する。

設備投資の一致指標である投資財出荷(除く輸送機械)は2018年4-6月期の前期比1.3%の後、7-9月期は同▲1.1%の減少となった。一方、機械投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く民需)は2018年4-6月期に前期比2.2%と4四半期連続で増加した後、2018年7、8月の平均は4-6月期を6.4%上回っている。

日銀短観2018年9月調査では、2018年度の設備投資計画(含むソフトウェア、除く土地投資額)が前年度比11.2%(全規模・全産業)となり、9月調査としては過去最高の伸びとなった。

7-9月期の設備投資は自然災害による供給制約の影響もあり8四半期ぶりに減少したとみられるが、企業収益の大幅増加に伴う潤沢なキャッシュフローを背景とした設備投資の回復基調は維持されていると判断される。
設備投資関連指標の推移/設備投資計画(全規模・全産業)
・公的固定資本形成~5四半期連続の減少~
 
公的固定資本形成は前期比▲2.5%と5四半期連続の減少を予測する。なお、2018年4-6月期は現時点では前期比0.0%となっているが、7-9月期の1次速報公表時に季節調整のかけ直しによって同▲0.4%の減少へと下方修正されると見込んでいる。

公共工事の先行指標である公共工事請負金額は、2018年4-6月期の前年比1.5%から7-9月期には同▲4.3%と減少に転じた。また、公共工事の進捗を反映する公共工事出来高(建設総合統計)は、2018年4-6月期に前年比▲1.6%と5四半期ぶりの減少となった後、7、8月の平均は前年比▲3.0%と減少幅が拡大した。
公共工事請負金額、出来高の推 足もとでは2017年度補正予算による工事が進捗しているとみられるが、公共事業関係費が約1兆円と2016年度補正予算の1.6兆円に比べて規模が小さいこと、2018年度の当初予算の公共事業関係費が前年比+0.0%の横ばいとなっていることから、減少傾向に歯止めがかからない。

政府は、10/24に災害からの復旧・復興を中心とした総額9,356億円の2018年度補正予算を国会に提出したが、補正予算による公共工事の押し上げ効果が顕在化するのは2019年入り後となるだろう。
・外需~小幅ながら2四半期連続のマイナス寄与~
 
外需寄与度は前期比▲0.1%(前期比年率▲0.3%)と2四半期連続のマイナスを予測する。財貨・サービスの輸出が前期比▲1.7%、財貨・サービスの輸入が前期比▲1.3%となるだろう。

7-9月期の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前期比▲4.9%(4-6月期:同3.2%)、EU向けが前期比▲2.6%(4-6月期:同1.6%)、アジア向けが前期比▲1.2%(4-6月期:同▲0.6%)、全体では前期比▲2.9%(4-6月期:同1.1%)となった。
地域別輸出数量指数(季節調整値)の推移 7-9月期は豪雨、台風上陸、北海道地震といった自然災害による供給制約が輸出を大きく下押ししたとみられる。また、9月に関西空港が一時閉鎖され、訪日外国人が急減したことがサービス輸出の大幅減少につながった。

一方、国内需要の低迷などから財貨・サービスの輸入も減少したが、輸出の減少幅が輸入の減少幅を上回ったため、外需は成長率の押し下げ要因となった。
日本・月次GDP 予測結果
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2018年10月31日「Weekly エコノミスト・レター」)

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