2018年09月20日

縮小するブライダル・マーケットとその活路-少子化や未婚化、「ナシ婚」「ジミ婚」で市場縮小~消費者の今を知る

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――秋に多い日本の結婚式~ジューン・ブライドの6月より、さわやかな季節が人気、入籍はイベント月も

猛暑の夏が過ぎ、さわやかな秋風が吹くようになってきた。日本では過ごしやすい秋や春に結婚式が多い1(図1)。ジューン・ブライドは「6月に結婚する花嫁は幸せになれる」という欧米の言い伝えだが、日本では梅雨の時期と重なるため、人気は高くない。また、真夏の8月のほか、年末年始のかかる12月や1月も結婚式は少ないことから、列席者の予定の合わせやすさも考慮されるようだ。

一方で、共働きも増え、何かと忙しい現代社会では、結婚式と入籍の時期が一致するカップルばかりではない。厚生労働省「人口動態調査」によると、入籍が最も多いのは3月で、11月、7月、12月と続き、結婚式の件数とはズレがある。12月など、むしろ結婚式の少ない月も上位にあがるが、入籍は、ひなまつりやクリスマスなど、何かのイベントと合わせたいという気持ちも強いのだろう。
図1 月別に見た結婚式場業の取り扱い件数(2015~2017年の平均値)/図2 月別に見た婚姻数(2015~2017年の平均値)
 
1 同調査の結婚式場業とは、主として挙式、披露宴の挙行など婚礼のための施設・サービスを提供する事業所(結婚式場)のことであり、結婚式場を主たる業務としないホテル、レストランは調査対象とされていないため、レストランウェディングなどは統計に含まれていないが、ブライダル事業者の調査結果等より、おおむね同様の傾向と考えている。
 

2――入籍はしても結婚式をしない?

2――入籍はしても結婚式をしない?~20~40代で「ナシ婚」が増加、年齢が高いほど「ナシ婚」が多い

入籍と結婚式の時期は必ずしも一致しないようだが、そもそも入籍はしても結婚式はしない「ナシ婚」が増えているようだ。リクルートブライダル総研「結婚総合意識調査2017」によれば、20~40代の挙式や披露宴、披露パーティなどのいわゆる結婚式の実施率は、2014年では70.9%であったが、2017年では65.2%へと低下している2。なお、実施率は年代別に見ても低下している。

なお、年齢が高いほど実施率は低下する傾向があり、2017年では20代は7割を超えるが40代では4割台だ。また、20代と比べて30代や40代では、挙式と披露宴・披露パーティというフルコースの実施率は低く、挙式のみや披露宴・披露パーティのみの割合が高くなっている。なお、親族中心の食事会や記念撮影等も含めると、結婚を機に何らかのセレモニーを実施した割合は2017年では全体で8割を超えており、全く何もしないケースは少数派だ。
 
2 挙式、披露宴・披露パーティともに実施した割合と挙式のみ実施した割合、披露宴・披露パーティのみ実施の合計値。
 

3――結婚式をしない背景

3――結婚式をしない背景~晩婚化による「ジミ婚」、若者の経済環境の厳しさによる「スマ婚」の影響も

結婚式の実施率は、なぜ低下しているのだろうか。全体での結婚式の実施率の低下は、長期的に見れば晩婚化による「ジミ婚」の影響もあるのだろうが、2014年から2017年にかけて、男女とも平均初婚年齢に変化はなく(厚生労働省「人口動態調査」より男性31.1歳、女性29.4歳)、晩婚化が急激に進んでいるわけではない。

この3年間に限らずに、長期的に結婚式の実施率は低下傾向にあるとすれば3、晩婚化による「ジミ婚」の影響に加えて、新婦が結婚を決めた当時に妊娠している割合や再婚の割合が高まっている可能性もある。先の調査によれば、妊婦や再婚者の結婚式実施率は低い傾向がある。

また、若年層の経済的な問題も指摘できる。足元では新卒の雇用環境は改善しているが、長らく続いた景気低迷の中で、結婚を考える年代の人々で経済環境の厳しさが増している。1990年代と比べて非正規雇用者は増え 、正規雇用者でも年収が伸びにくくなっている4

このような中で、格安で挙式や披露宴ができるブライダルサービスも登場している。例えば、株式会社メイションは、「初任給で結婚式」という謳い文句で「スマ婚」というサービスを提供している。「スマ婚」は、過剰なサービスを省くことでコストを抑えたブライダルサービスだ。同社の沿革を見ると、「スマ婚」のショールームは2009年に大阪でオープンした後、全国各地に増え、事業は順調に拡大しているようだ。結婚式にお金をかけない「スマ婚」ニーズは拡大しているのかもしれない。
 
3 景気低迷が続き、消費者の価値観が変容する中、1990年代後半から「(式)ナシ婚」という言葉が新聞記事等で見られる。
4 久我尚子「若者は本当にお金がないのか?-統計データが語る意外な真実」(光文社、2014)など。
 

4――ブライダル・マーケットの縮小

4――ブライダル・マーケットの縮小~少子化や未婚化の進行、「ナシ婚」「ジミ婚」「スマ婚」が拍車

図3 結婚式場業の取扱件数と売上高 結婚式をしない「ナシ婚」に加えて、お金をかけない「スマ婚」も登場する中で、ブライダル・マーケットは縮小傾向にある。経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」によれば、結婚式場業の取扱件数や売上高は減少傾向にある(図3)。なお、同調査において、結婚式場業の調査範囲は、2014年までは特定地域(北海道、宮城県、東京都、愛知県、大阪府、広島県、香川県、福岡県の8都道府県)であったが、2015年より全国へと拡大している。2014年以前の特定地域における推移を見ても、取扱件数も売上高もおおむね減少傾向にある。

また、ブライダル・マーケットの縮小には、当然ながら、少子化による若者人口の減少や未婚化の進行も多大な影響を与えているだろう。総務省「国勢調査」によれば、生涯未婚率は2015年に男性23.4%、女性14.1%に達している。これらの状況に「ナシ婚」や「ジミ婚」、「スマ婚」が拍車をかけているのだろう。
 

5――縮小するブライダル・マーケットの活路は

5――縮小するブライダル・マーケットの活路は~結婚の障壁の「出会いがない」ことのプロデュース?

さて、そもそも未婚者が結婚しない理由は何だろうか。国立社会保障人口問題研究所「平成27年出生動向基本調査」によると、結婚の希望がある18~34歳の未婚者に、1年以内に結婚するとしたら何が障害かをたずねると、男女とも1位は「結婚資金」となっている。一方で、独身でいる理由の1位は、18~24歳では男性は「まだ若すぎる」、女性は「仕事(学業)にうちこみたい」だが、25~34歳では男女とも「適当な相手にめぐりあわない」が最多である。つまり、結婚を考えた場合にはお金が障害になるものの、それ以前に、そもそも出会いがないことが問題となっているようだ。

結婚につながる出会いがない原因としては、地域や職場での人間関係が希薄化し見合い結婚が減ったこと、非正規雇用者が増えるなど雇用環境が変わることで、職場での出会いが減ったことなどが指摘されている5。また、未婚率が高まり、未婚者が決してマイノリティーでなくなることで、「おひとりさま」が生きやすい世の中になった影響もあるだろう。

政府の「ニッポン1億総活躍プラン」では、希望出生率1.8の実現に向けて、若者の婚活支援を盛り込んでいる。既に取り組んでいる企業もあるが、ブライダル・マーケットの活路もここにあるのではないだろうか。例えば、平日の夜に使われていない式場やチャペルを婚活パーティの会場として使うなど、結婚式だけではなく出会いの場のプロデュースも行うようにすれば、式場運営の面からも顧客獲得の面からも効率的だろう。また、通常であれば入る機会の少ないチャペルや披露宴会場などに入れることは話題性もあるのではないだろうか。

少子高齢化の進行や経済環境の変化などにより、個人消費は力強さに欠ける状況が続くが、ブライダル・マーケットのように、人を幸せにする業界が息を吹き返すことは、日本の消費市場全体が活気づく良い刺激になるのではないだろうか。
 
5 見合い結婚の減少については、国立社会保障人口問題研究所「出生動向基本調査」、職場結婚については、岩澤美帆・三田房美(2005)「職縁結婚の盛衰と未婚化の進展」日本労働研究雑誌, 47(1), pp.16-28.など。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2018年09月20日「基礎研レター」)

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