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2018年09月12日
1――広がりつつある「SDGs(エスディージーズ)」への取り組み
「貧困をなくそう」、「ジェンダー平等を実現しよう」等と書かれたカラフルなロゴ、アイコンを見かける機会が増えてきたのではないだろうか(図表1)。これらが象徴しているのが、SDGs(Sustainable Development Goals / 持続可能な開発目標)だ。2015年に国連において、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、その中で各国がSDGsの達成に向けて取り組む旨が宣言された。2030年に向けて、地球規模の課題の解決を目指す国際社会共通の目標であり、それぞれの国の政府や企業、国民等に行動を促すものである。SDGsは、課題解決に向け取り組むべき「17の目標」とその下に連なる「169のターゲット」から構成されている(図表2)(図表3)。その目標、ターゲットには、貧困、ジェンダー、不平等(格差)、環境問題といった地球規模の課題に関する事項が並んでいる。
政府がこのように強いコミットメントを示したことで、企業側のSDGsへの取り組みも進みつつある。2017年11月には、経団連がSDGsを踏まえて「企業行動憲章」を改定し、イノベーションを通じて持続可能な経済成長と社会課題の解決を目指す旨を掲げた1。経営計画の中にSDGsへの姿勢、取り組みを盛り込む企業や、IR資料である統合報告書の中で自社の考え方や方針、取り組みについてディスクローズする企業も増えている。例えば、日立製作所では、SDGs17目標の中から、事業戦略を通じて達成に大きく貢献できる目標を5つ、また企業活動全体で貢献すべき目標として6つの目標を特定し、それ以外の残りの目標への貢献についてもさらに検討していくとしている。そして、こうした方針や取り組み内容を、「日立SDGsレポート-2030年に向けた日立のサステナビリティへの取り組み-」2としてとりまとめ、ディスクローズしている。
また、投資家側の動きもSDGsを後押しする。世界的に、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点を組み込むESG投資への機運が高まっている。世界の機関投資家の間では、ESGを投資プロセスに組み入れた、国連の「責任投資原則」(Principles for Responsible Investment、PRI)への署名が広がっている(図表5)。海外勢が先行したESG投資だが、日本においても世界最大規模の機関投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が投資原則にESGを組み込み、PRIに署名したこともあって、国内投資家の間でもESG投資への取り組みが広がってきている。スチュワードシップ活動における対話の中でESGに関する事項を取り上げたり、ESGの観点や企業のサステナビリティを評価するための材料となる非財務情報の開示を求める機関投資家が増えている。中長期的な企業価値向上を促すべく導入された投資家向けの「スチュワードシップ・コード」と上場企業向けの「コーポレートガバナンス・コード」も、中長期の視点を必要とするESG投資への機運を後押ししていると言えよう。
1 経団連ウェブサイトよりhttp://www.keidanren.or.jp/announce/2017/1108.html
2 日立製作所ウェブサイトよりhttp://www.hitachi.co.jp/csr/sdgs/pdf/HitachiSDGsReport_j.pdf
1 経団連ウェブサイトよりhttp://www.keidanren.or.jp/announce/2017/1108.html
2 日立製作所ウェブサイトよりhttp://www.hitachi.co.jp/csr/sdgs/pdf/HitachiSDGsReport_j.pdf
2――Society5.0を通じてSDGsを達成する
日本でも広がりつつあるSDGsであるが、その取り組みの上で政府が柱としているのがSociety5.0だ。Society5.0は、狩猟社会(1.0)、農耕社会(2.0)、工業社会(3.0)、情報社会(4.0)に続く新しい社会のモデルであり、AIやIoT、ビッグデータ等の先端技術を活用した、経済発展と少子高齢化等の社会課題解決を両立するものとして提唱されたコンセプトだ。2016年1月に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」において提唱されて以降、今やその実現に向けた取り組みが政府の成長戦略の中核に位置付けられている。
2017年12月には、政府の持続可能な開発目標(SDGs)推進本部会合において、「SDGsアクションプラン2018」が決定された。このプランは、日本がG20サミット等を主催する2019年に、日本ならではのSDGsモデルを世界に発信することを目指すものであり、ここで「SDGsと連動した,官民挙げてのSociety 5.0の推進」が打ち出されている。その方針は、2018年6月決定の「拡大版SDGsアクションプラン2018」にも引き継がれた(図表6)。経団連が2017年11月に実施した企業行動憲章の改定(上述)においても、大きな柱はSociety5.0の実現を通じたSDGsの達成にあり、政府と財界の狙い、方向性は軌を一にしている。
Society5.0が提唱されてから2年超が経ち戦略の柱となったものの、近頃はメディアでその言葉を聞く機会も減ってきた。AI、自動運転、IoT等、Society5.0の主要キーワードは毎日のように目や耳にしても、目指すべき社会の姿であるSociety5.0というコンセプトそのものや、その実現を通じてSDGsを達成するというビジョンについては、国民への浸透度はもう一歩というところではないだろうか。
SDGsは、貧困や環境問題等地球規模の課題解決を目指す目標であり、政府や企業、国民に対して行動を促すものである。そう聞くと、慈善活動のようなイメージが先行しがちであるが、SDGsは「持続可能な」開発目標であって、日本の経済成長や企業の事業拡大と相容れないわけではない。国も企業も、成長と社会課題の解決の両立という視点が求められている。SDGsを通じて大きな市場が生まれるとの見方もあり、その新しい市場を狙う国、グローバル企業間の新しい競争という一面もある。今後、環境やフェアトレード等、SDGsに関連付けた様々なルールや国際標準が議論される可能性もあるが、極端な話、SDGsという「考え方」、「ルール」に適合できない一部の新興国や企業が、市場やサプライチェーンから排除されることも起こりうる。「新しい市場」、そして「ルール」をめぐるしたたかなグローバル競争という側面もしっかりと認識しておく必要があろう。
日本は、SDGsとSociety5.0という2つのコンセプトを結び付けた日本ならではのモデルを作り上げ、経済成長と社会課題の解決の両立、そしてグローバル競争に挑むことになる。米国の大手ITプラットフォーマーが躍進し、中国も国家戦略として先端IT・ハイテク技術の強化を図る中、Society5.0の主戦場であるデジタル領域で日本は押され気味である。SDGsに関しても、目標への取り組みや貢献をアピールするだけの「形式的な」対応に留まると、勝機を逃してしまう。SDGsとデジタル革命の世界的潮流に埋没することなく、日本ならではの社会モデルを打ち出し、社会課題解決への貢献に加えて、新しい市場の獲得や経済的な成長も実現することに期待したい。
Society5.0が提唱されてから2年超が経ち戦略の柱となったものの、近頃はメディアでその言葉を聞く機会も減ってきた。AI、自動運転、IoT等、Society5.0の主要キーワードは毎日のように目や耳にしても、目指すべき社会の姿であるSociety5.0というコンセプトそのものや、その実現を通じてSDGsを達成するというビジョンについては、国民への浸透度はもう一歩というところではないだろうか。
SDGsは、貧困や環境問題等地球規模の課題解決を目指す目標であり、政府や企業、国民に対して行動を促すものである。そう聞くと、慈善活動のようなイメージが先行しがちであるが、SDGsは「持続可能な」開発目標であって、日本の経済成長や企業の事業拡大と相容れないわけではない。国も企業も、成長と社会課題の解決の両立という視点が求められている。SDGsを通じて大きな市場が生まれるとの見方もあり、その新しい市場を狙う国、グローバル企業間の新しい競争という一面もある。今後、環境やフェアトレード等、SDGsに関連付けた様々なルールや国際標準が議論される可能性もあるが、極端な話、SDGsという「考え方」、「ルール」に適合できない一部の新興国や企業が、市場やサプライチェーンから排除されることも起こりうる。「新しい市場」、そして「ルール」をめぐるしたたかなグローバル競争という側面もしっかりと認識しておく必要があろう。
日本は、SDGsとSociety5.0という2つのコンセプトを結び付けた日本ならではのモデルを作り上げ、経済成長と社会課題の解決の両立、そしてグローバル競争に挑むことになる。米国の大手ITプラットフォーマーが躍進し、中国も国家戦略として先端IT・ハイテク技術の強化を図る中、Society5.0の主戦場であるデジタル領域で日本は押され気味である。SDGsに関しても、目標への取り組みや貢献をアピールするだけの「形式的な」対応に留まると、勝機を逃してしまう。SDGsとデジタル革命の世界的潮流に埋没することなく、日本ならではの社会モデルを打ち出し、社会課題解決への貢献に加えて、新しい市場の獲得や経済的な成長も実現することに期待したい。
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中村 洋介
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(2018年09月12日「基礎研レター」)
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