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- インド経済見通し~公共投資と農村部の回復で7%台半ばの成長を維持
2018年09月07日
経済概況:消費主導の力強い成長軌道に
GDPを需要項目別に見ると、民間消費の拡大が成長率を押し上げた。
民間消費は同8.6%増(前期:同6.7%増)と加速し、過去6四半期で最大の伸びとなった。また投資も好調だった前期の同14.4%増に続いて同10.0%増の二桁成長を記録した。政府消費は同7.6%増(前期:同16.9%増)と低下したものの、堅調を維持した。比較対象となる昨年4-6月が高額紙幣廃止後の現金不足やGST導入前の経済の混乱で消費と投資が鈍化していたことから、ベース効果が民間消費と投資の伸びを押し上げたと考えられる。実際、現金購入割合が多い二輪車の販売台数は通貨供給量の回復により好調が続いており、6月の乗用車販売台数は昨年GST導入に伴う値下げを控えて落ち込んだ反動により大きく上昇している(図表2)。
民間消費は同8.6%増(前期:同6.7%増)と加速し、過去6四半期で最大の伸びとなった。また投資も好調だった前期の同14.4%増に続いて同10.0%増の二桁成長を記録した。政府消費は同7.6%増(前期:同16.9%増)と低下したものの、堅調を維持した。比較対象となる昨年4-6月が高額紙幣廃止後の現金不足やGST導入前の経済の混乱で消費と投資が鈍化していたことから、ベース効果が民間消費と投資の伸びを押し上げたと考えられる。実際、現金購入割合が多い二輪車の販売台数は通貨供給量の回復により好調が続いており、6月の乗用車販売台数は昨年GST導入に伴う値下げを控えて落ち込んだ反動により大きく上昇している(図表2)。
経済見通し:年度後半に景気減速も7%台半ばの成長ペースを維持
経済の先行きは、7-9月期まではGST導入による景気減速の反動から高めの成長が続きそうだ。その後はベース効果の剥落によって成長率の低下は避けられないが、来春に総選挙を控えるなかで公共投資と農村部の消費が拡大することから景気は堅調を維持するだろう。
まず公共部門は引き続き成長ドライバーとなるだろう。モディ政権は今年度予算で財政赤字目標(GDP比)を後退させてインフラ整備や農村・中小企業支援策に重点配分しており、来春の総選挙を控えて政府支出を拡大1させるだろう。もっともインドは中期的な財政健全化計画の途上にあり、総選挙後には財政再建を進める可能性が高く、19年度後半には公共部門の景気の押上げが期待できなくなりそうだ。
民間消費は堅調を維持しそうだ。農作物の最低調達価格(MSP)の引上げと今年のカリフ作の穀物生産の拡大を背景に農業所得が回復、建設労働者の雇用も増加することから雇用・所得環境は改善に向かうだろう。一方、今後の物価上昇が家計の実質所得を目減りさせるほか、RBIの連続した利上げが重石となってくるため、更なる消費の加速は見込みにくい。
民間投資については、まずインフラや住宅開発などの政府プロジェクトが呼び水となって建設投資を引き続きサポートしよう。また内需拡大を背景として、製造業の設備稼働率が上向いて企業が生産能力の拡張に前向きになってきているほか、景気が回復したインド市場を魅力的な投資先とみて外国直接投資が前年を上回って推移していることから、設備投資も底堅く推移しそうだ。さらに今後はGST導入や破産倒産法などモディ政権の構造改革のプラス効果が顕在化することも投資の持続的な拡大をサポートするものと見込まれる。一方、金利が上昇するなか、国有銀行は不良債権処理を進めていくことから鉱工業向けの貸出は伸び悩むだろう。設備投資の本格回復には時間がかかりそうだ。
外需は米中貿易戦争を背景とする世界貿易環境の悪化が懸念されるものの、世界経済の持続的拡大やGST導入に伴う混乱の収束から輸出の増加傾向が続くだろう。一方、輸入も内需拡大によって堅調に推移することから、外需は今後も成長率に対してマイナスに働くものと見込まれる。
実質GDP成長率は18年度が7.4%、19年度が7.3%となり、高額紙幣廃止とGST導入に伴う混乱によって低下した17年度の6.7%から上昇し、概ね巡航速度の成長ペースが続くと予想する。
1 インド政府は今年度予算案の公表時に、財政赤字目標(GDP比)を従来の3.0%から3.3%に修正している。今年度の連邦政府予算案の歳出は前年度比10.1%増と、地方開発や農産品の最低支持価格(MSP)の引上げなど選挙色の強い内容となっている。
まず公共部門は引き続き成長ドライバーとなるだろう。モディ政権は今年度予算で財政赤字目標(GDP比)を後退させてインフラ整備や農村・中小企業支援策に重点配分しており、来春の総選挙を控えて政府支出を拡大1させるだろう。もっともインドは中期的な財政健全化計画の途上にあり、総選挙後には財政再建を進める可能性が高く、19年度後半には公共部門の景気の押上げが期待できなくなりそうだ。
民間消費は堅調を維持しそうだ。農作物の最低調達価格(MSP)の引上げと今年のカリフ作の穀物生産の拡大を背景に農業所得が回復、建設労働者の雇用も増加することから雇用・所得環境は改善に向かうだろう。一方、今後の物価上昇が家計の実質所得を目減りさせるほか、RBIの連続した利上げが重石となってくるため、更なる消費の加速は見込みにくい。
民間投資については、まずインフラや住宅開発などの政府プロジェクトが呼び水となって建設投資を引き続きサポートしよう。また内需拡大を背景として、製造業の設備稼働率が上向いて企業が生産能力の拡張に前向きになってきているほか、景気が回復したインド市場を魅力的な投資先とみて外国直接投資が前年を上回って推移していることから、設備投資も底堅く推移しそうだ。さらに今後はGST導入や破産倒産法などモディ政権の構造改革のプラス効果が顕在化することも投資の持続的な拡大をサポートするものと見込まれる。一方、金利が上昇するなか、国有銀行は不良債権処理を進めていくことから鉱工業向けの貸出は伸び悩むだろう。設備投資の本格回復には時間がかかりそうだ。
外需は米中貿易戦争を背景とする世界貿易環境の悪化が懸念されるものの、世界経済の持続的拡大やGST導入に伴う混乱の収束から輸出の増加傾向が続くだろう。一方、輸入も内需拡大によって堅調に推移することから、外需は今後も成長率に対してマイナスに働くものと見込まれる。
実質GDP成長率は18年度が7.4%、19年度が7.3%となり、高額紙幣廃止とGST導入に伴う混乱によって低下した17年度の6.7%から上昇し、概ね巡航速度の成長ペースが続くと予想する。
1 インド政府は今年度予算案の公表時に、財政赤字目標(GDP比)を従来の3.0%から3.3%に修正している。今年度の連邦政府予算案の歳出は前年度比10.1%増と、地方開発や農産品の最低支持価格(MSP)の引上げなど選挙色の強い内容となっている。
農村部の消費回復を左右するカリフ作
南西モンスーンの雨に依存するカリフ作(雨季作、6-9月)は、過去2年間概ね平年ベースの雨量が得られ、穀物生産量は2年連続で増加しているが、穀物や豆類は大幅な生産増を背景に市場価格が低迷しており、農業所得の増加を阻んでいる(図表4)。一部の州では農民に対する債務免除を実施する事態にまで発展しており、2022年までの農家の所得倍増を掲げる政府の思惑通りには進んでいない。
来春に総選挙を控えるモディ政権は選挙での集票を意識しており、7月4日に今年のカリフ期に収穫される作物の最低調達価格(MSP)の引上げ(前年比14.8%増、加重平均ベース)を発表した(図表5)。これを受けてカリフ期の作付けが伸びてきているほか、南西モンスーンの雨量が今年も通常レベルになると見込まれるため2、カリフ作の穀物生産は3年連続で増加すると期待できる。農産物の価格と生産量が揃って拡大すると農業所得が増加し、農村部の購買力は向上する。実際、足もとの農村部の消費者信頼感指数は2カ月連続で上昇している(図表3)。民間消費は都市部に続いて農村部の回復がサポートすることになりそうだ。
来春に総選挙を控えるモディ政権は選挙での集票を意識しており、7月4日に今年のカリフ期に収穫される作物の最低調達価格(MSP)の引上げ(前年比14.8%増、加重平均ベース)を発表した(図表5)。これを受けてカリフ期の作付けが伸びてきているほか、南西モンスーンの雨量が今年も通常レベルになると見込まれるため2、カリフ作の穀物生産は3年連続で増加すると期待できる。農産物の価格と生産量が揃って拡大すると農業所得が増加し、農村部の購買力は向上する。実際、足もとの農村部の消費者信頼感指数は2カ月連続で上昇している(図表3)。民間消費は都市部に続いて農村部の回復がサポートすることになりそうだ。
2 インド気象庁(IMD)によると、今年の南西モンスーンの降雨量は8月までで通常の94%程度(やや雨不足)となっているが、9月までに通常の97%程度(平年並み)まで雨量が回復すると予想されている。
(為替の動向)ルピー安が進行
(為替の動向)ルピー安が進行
インドルピー(対米ドルレート)は足元で1ドル70ルピーまで下落して、史上最安値を更新している(図表6)。昨年こそ世界同時景気回復を背景にリスクオンの相場展開が続いて増価したが、今年は一転して下落傾向にある。米国の金融引き締めを背景とした米ドル高にはじまり、米中貿易戦争の過熱による世界経済の悪化観測と人民元安、米国のイラン産原油の禁輸制裁3等による原油価格の上昇、そして8月には対米関係の悪化をきっかけにトルコショックが起き、新興国からの資金流出は現在まで続いている。市場の矛先は経済のファンダメンタルズが脆弱なアルゼンチンやトルコ、ブラジル、南アフリカといった国に向いているが、経常赤字を抱えるインドも資金流出圧力が相対的に強い新興国の1つとなっている。なお、6月と8月にはインド準備銀行(中央銀行、RBI)がインフレ加速を背景に2会合連続の利上げを打ち出したが、ルピー相場は一時的な上昇に止まった。
インドルピー(対米ドルレート)は足元で1ドル70ルピーまで下落して、史上最安値を更新している(図表6)。昨年こそ世界同時景気回復を背景にリスクオンの相場展開が続いて増価したが、今年は一転して下落傾向にある。米国の金融引き締めを背景とした米ドル高にはじまり、米中貿易戦争の過熱による世界経済の悪化観測と人民元安、米国のイラン産原油の禁輸制裁3等による原油価格の上昇、そして8月には対米関係の悪化をきっかけにトルコショックが起き、新興国からの資金流出は現在まで続いている。市場の矛先は経済のファンダメンタルズが脆弱なアルゼンチンやトルコ、ブラジル、南アフリカといった国に向いているが、経常赤字を抱えるインドも資金流出圧力が相対的に強い新興国の1つとなっている。なお、6月と8月にはインド準備銀行(中央銀行、RBI)がインフレ加速を背景に2会合連続の利上げを打ち出したが、ルピー相場は一時的な上昇に止まった。
先行きもルピーは下落傾向が続くだろう。今後も欧米の金融政策の正常化が続くことから新興国からの資金流出が続く可能性は高そうだ。また原油高や農産物価格上昇によるインフレ加速や貿易赤字の拡大が懸念されるほか、景気回復局面がピークを迎えつつあることもルピー売りの材料となると予想される。さらに来年の総選挙を控えて通貨が不安定化する恐れもある。直近の世論調査を見ると、モディ首相個人の人気は依然として高いものの、与党連合に対する支持が低下している結果が出た調査もあり(図表7)、来年の総選挙の混戦模様が浮かび上がってきている。
3 インドは中国に次いでイラン産原油輸入の世界2位であり、米国からイランからの原油輸入を停止するように要請されている。
3 インドは中国に次いでイラン産原油輸入の世界2位であり、米国からイランからの原油輸入を停止するように要請されている。
(物価・金融政策の動向)年内は物価安定、金融政策も据え置きを予想
インフレ率(CPI上昇率)は、2015年から2016年にかけては原油価格の低迷などから概ね4-5%台で推移していた後、高額紙幣廃止とGST導入に伴う経済の混乱と景気減速を受けて2017年半ばには+2%を下回るまで低下した(図表8)。昨年後半からは消費需要の回復や原油価格の上昇を背景にインフレ率は一時+5%を上回ったものの、年明け以降は食品価格の低迷により物価上昇圧力が後退して+5%弱(RBIの物価目標4±2%の範囲内)で推移している。
先行きのインフレ率は、ベース効果の剥落から当面落ち着いて推移するだろうが、年明け頃から再び上向くと予想する。11月以降のカリフ作の収穫期には政府による農作物の最低調達価格(MSP)の引上げによる食品価格の上昇が見込まれるほか、農村部の消費需要が拡大でコアインフレも加速するだろう。また当研究所では、原油価格の先行きは上値が重いが、緩やかな上昇を予想している。石油を輸入に頼るインドにとって燃料価格の値上げは勿論のこと、貿易赤字の拡大にも繋がるために新興国市場からの資金流出との相乗効果で通貨ルピー安が進み、輸入品の価格上昇が引き続き物価上昇要因として働くことになるだろう。
インド準備銀行は2015年以降、原油価格の下落等により低めのインフレ環境が続いたことから昨年8月にかけて計7回の利下げ(計▲2.0%)を行うなど緩和的な金融政策を続けてきたが(図表9)、昨年後半からのインフレ加速を受けて6月と8月の金融政策委員会(MPC)で2会合連続の利上げに踏み切った。声明文では、コアCPIの上昇傾向や原油価格上昇によりインフレリスクが高まったことを利上げの背景として挙げている。
RBIは声明文で「今後数ヶ月はインフレ率を巡る不確実性について注視する必要がある」としつつ、金融政策のスタンスは「中立」を維持している。当面はインフレ率が落ち着いて推移するほか、2会合連続の利上げの効果を見極めるため、RBIは金融政策を据え置くだろう。しかし、年明け頃からインフレ率が再び上向くと、RBIは引き締め気味の政策スタンスに転じると予想する。
先行きのインフレ率は、ベース効果の剥落から当面落ち着いて推移するだろうが、年明け頃から再び上向くと予想する。11月以降のカリフ作の収穫期には政府による農作物の最低調達価格(MSP)の引上げによる食品価格の上昇が見込まれるほか、農村部の消費需要が拡大でコアインフレも加速するだろう。また当研究所では、原油価格の先行きは上値が重いが、緩やかな上昇を予想している。石油を輸入に頼るインドにとって燃料価格の値上げは勿論のこと、貿易赤字の拡大にも繋がるために新興国市場からの資金流出との相乗効果で通貨ルピー安が進み、輸入品の価格上昇が引き続き物価上昇要因として働くことになるだろう。
インド準備銀行は2015年以降、原油価格の下落等により低めのインフレ環境が続いたことから昨年8月にかけて計7回の利下げ(計▲2.0%)を行うなど緩和的な金融政策を続けてきたが(図表9)、昨年後半からのインフレ加速を受けて6月と8月の金融政策委員会(MPC)で2会合連続の利上げに踏み切った。声明文では、コアCPIの上昇傾向や原油価格上昇によりインフレリスクが高まったことを利上げの背景として挙げている。
RBIは声明文で「今後数ヶ月はインフレ率を巡る不確実性について注視する必要がある」としつつ、金融政策のスタンスは「中立」を維持している。当面はインフレ率が落ち着いて推移するほか、2会合連続の利上げの効果を見極めるため、RBIは金融政策を据え置くだろう。しかし、年明け頃からインフレ率が再び上向くと、RBIは引き締め気味の政策スタンスに転じると予想する。
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
(2018年09月07日「基礎研レター」)
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【インド経済見通し~公共投資と農村部の回復で7%台半ばの成長を維持】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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