2018年09月05日

国保保険料の現状-都道府県単位で保険料を統一する場合、何に注意すべきか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

医療保険制度改革法(2015年公布)に基づいて、財政基盤の強化を図るために、2018年度に国民健康保険(国保)の運営主体が市町村から都道府県に移された。保険料は、まず都道府県が標準保険料率を算定、提示し、市町村がそれを参考に保険料率を決定することとなった。

国保は、この半世紀の間に、被保険者の構成が大きく変化した。財政面では、近年、窮迫した状態が続いている。国保は、地域包括ケアシステムを推進する上で基礎となる制度であり、財政の立て直しを図りつつ、地域の医療サービス向上に寄与することが望まれている。本稿では国保の現状を概観し、その上で、都道府県単位での統一化を含めた保険料設定のあり方について検討することとしたい1
 
1 本稿は、「日本の医療 - 制度と政策」島崎謙治(東京大学出版会, 2011年)等を参考にしている。
 

2――国民健康保険の現状

2――国民健康保険の現状

まず、政府の統計等をもとに、国保の現状を見ることとしたい。

1|被保険者は無職・高齢者が中心
国保は、各市町村で運営される市町村国保と、医師・弁護士などが、知事の許可を得て同業者間で設立する国保組合に分けられる。2017年9月末で、保険者の数は市町村国保1,716、国保組合163。被保険者数は市町村国保2,945万人、国保組合280万人となっている。以下では、財政的に厳しい市町村国保に焦点を当てる。2008年度より、75歳以上の人は後期高齢者医療制度に移ることとなったため、国保の被保険者は74歳以下の人となっている。まず、被保険者の年齢分布を見てみよう。
図表1. 市町村国保の被保険者の年齢分布
市町村国保の国保加入率(総人口に占める国保被保険者数の割合)は、60歳以上で上昇し、65-74歳では7割となっている。これは、被用者保険の加入者であったサラリーマンが、定年後に無職の年金受給者等となって、市町村国保に流入することが主な要因といえる。

次に、世帯主の職業別に、市町村国保の構成割合の推移をみてみよう。
図表2. 市町村国保の職業別構成の推移
1959年に国民健康保険法が改正され、市町村が国保事業を行うこととされた。1961年には、国民皆保険が実現した。1965年には、農林水産業者とその他自営業者で、被保険者の6割以上を占めていた。これは、そもそも国保は農業従事者の救済を目的として開始された(1938年)制度であり、被用者保険の対象とならない自営業者に健康保険を提供するためのものであることを表している。その後、半世紀あまりの間に産業構造は激変した。農林水産業者は、1965年に就業人口の約25%を占めていたが、2015年には5%を下回っている2。これに伴い、国保被保険者中の農林水産業者の割合も低下した。

代わって、高齢化の進展に伴って、無職の年金受給者が増加して、4割近くを占めるようになっている。また、被用者の割合も高まり、3割を占めるに至っている。国保に加入する被用者は、被用者保険の対象ではない被用者を指す。例えば、常用の従業員が5人未満である個人事業主の下で働く従業員や、短時間労働者などが該当する3
 
2 農林水産業の就業者割合は1965年には24.7%であったが、2015年には4.0%に低下した。(「国勢調査」(総務省)より)
3 具体的には、所定労働時間又は所定労働日数の4分の3未満の間だけ就労する人、請負契約や委任契約により被用者となった個人事業主、2ヵ月以内の期間を定めて使用される短期労働者が該当する。
2財政面で事業運営が窮迫
国保は、決算補填のための一般会計繰入金を除くと、2016年度に1,500億円の赤字(介護保険制度を含む)となる見込みであり、赤字額は減少するものの、財政面で窮迫した状況が続いている。赤字保険者(市町村)の数は、2016年度に473に上り、全体の27.5%となっている。
図表3. 国民健康保険の収支
高齢者医療への支援金について保険制度間の負担の見直しが行われ、2017年度に、人数基準である加入者割から所得基準である総報酬割に移行した4。比較的高所得者の多い健康保険組合等の負担を高め、低所得者の多い国保の負担を軽減している。また、2018年度に、市町村国保の財政運営責任を、市町村から都道府県に移すことで財政基盤の安定化を図っている。さらに、2017年度以降は、公費補助を年3,400億円拡充している5
 
4 2014年度は支援金の1/3が総報酬割であった。この割合が徐々に引き上げられて、2017年度に完全に総報酬割となった。
5 これに先立ち、2015、2016年度は、公費補助が年1,700億円拡充された。
3多様な保険者が存在
市町村国保には、保険者ごとに規模や被保険者の所得水準が大きく異なるという特徴がある。1,716の保険者の分布(ヒストグラム)を見ると、被保険者数、所得水準に相当なばらつきがある。
図表4. 被保険者数別の保険者分布
図表5. 1人あたり所得水準別の保険者分布
保険料も、大きくばらついている。保険者間で、最大5倍もの格差が生じている。また、保険料の収納率の分布をみると、100%の保険者がある一方、90%を下回る保険者もある。
図表6. 1人あたり保険料別の保険者分布
図表7. 収納率別の保険者分布
一方で、医療費も保険者ごとに異なっている。最大の格差は3.8倍となっている。この格差は保険料の最大の格差よりは小さい6
図表8. 1人あたり医療費別の保険者分布
 
6 保険料・医療費とも、第3四分位数の第1四分位数に対する倍率は1.2倍で、四分位数でみると、格差は同等ともいえる。
4保険料が高い保険者は、医療費が低い (負の相関)
被保険者数、1人あたり所得水準、1人あたり保険料、収納率、1人あたり医療費の5つの項目について、各項目間の関係を相関係数7で見てみると、次表のとおりとなった。
図表9. 各項目の相関係数
所得と保険料の間に正の相関がみられた。これは、保険料には所得割の要素がある(後述)ためと考えられる。また、保険料と収納率の間にも正の相関がみられた。これは、保険料が高いと保険者が収納に力を入れやすいということだろうか?

一方、所得や保険料と医療費の間には負の相関がみられた。所得や保険料が高い保険者は、現役世代が多く、医療費が低くなる傾向がうかがえる。また、被保険者数と収納率の間にも負の相関がみられた。これは、被保険者数が多いと保険者が収納を徹底できないということだろうか?

なお、相関係数の絶対値はいずれも1より0に近いため、項目間の関係はあまり明確とは言えない点に注意が必要であろう。
 
7 相関係数は、項目間の関係を-1から1の間の値で表す。1に近いときは正の相関があり、片方が増えると、もう片方も増える。逆に、-1に近い場合は負の相関があり、片方が増えると、もう片方は減る。0に近い場合は、両者にあまり関係がない。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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