2018年08月21日

増え行く単身世帯と消費市場への影響(2)-勤労者世帯は食や買い物先で利便性重視、外食志向が強いものの近年は中食へシフト

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに

増え行く単身世帯と消費市場への影響(1)」では、日本の世帯構造の変化を捉え、家計消費額の推計を行った。現在、単身世帯は全体の約3割、2040年には約4割となる。かつては単身世帯では若年男性が多かったが、現在は高齢女性や壮年男性が多く、2040年には高齢男女が半数を占めるようになる。家計消費においては、単身世帯は全体の2割程度を占めるが、2040年には3割に近づく。今後、世帯当たりの消費額の少ない単身世帯や高齢世帯が増えることで、国内家計最終消費支出は2020年頃をピークに減少に転じる見込みだ。

本稿では、単身世帯の具体的な消費内容を捉える。総務省「家計調査」を用いて、家族世帯との違いの大きな食生活や住生活を中心に分析する。なお、本稿では35歳未満の世帯を若年世帯、35~59歳を壮年世帯、60歳以上を高齢世帯として見ていく。
 

2――単身世帯の家計収支

2――単身世帯の家計収支

1単身世帯の可処分所得~2000年以降いずれも減少傾向、壮年男性で減少幅が大きく▲約8万円
総務省「家計調査」によると、勤労者世帯の割合は、35歳未満の世帯では男女とも9割超、35~59歳では男性が約8割、女性が約7割であるため、本稿では、35歳未満の若年世帯や35~59歳の壮年世帯については勤労者世帯、60歳以上の高齢世帯は勤労者と無職を合わせた全体の値で分析を進める。

勤労者世帯である若年及び壮年世帯の可処分所得を見ると、2000年以降で順位に変化はなく、壮年男性(2017年で月平均299,613円)>若年男性(269,420円)>壮年女性(253,848円)>若年女性(243,984円)の順に多い。ただし、いずれの世帯においても、2000年以降、長らく続いた景気低迷の中で可処分所得は減少している。減少幅は、可処分所得の多い壮年男性で最も大きいため(▲79,626円、対2000年実質増減率▲22.5%)、他世帯との差が縮小している。
図表1 単身世帯の消費支出の変化 2単身世帯の消費支出~2000年以降いずれも減少傾向、若者では消費性向が低下
消費支出は、壮年世帯>若年世帯>高齢世帯の順に多い傾向がある(図表2)。同年代の男女を比べると、女性が男性を上回ることもあるが、2017年では若年世帯と壮年世帯は男性の方が多く、高齢世帯は男女同程度である。

また、2000年と比べて2017年では、いずれも消費支出は減少しており、若年男女や壮年男女で減少額が大きい(3~4万円程度、対2000年実質増減率▲20%前後)。

なお、勤労者世帯の消費性向は、男女とも若年世帯は低下傾向、壮年世帯はおおむね横ばいで推移している。可処分所得が減ると、食費などの必需的消費の負担が高まるため、消費性向は上昇することが多い。しかし、単身世帯では、いずれも可処分所得が減少傾向にあるものの、消費性向は上昇していない。むしろ、若年男女では消費性向は低下している。つまり、若者では所得が減る以上に、消費が減っていることになる。

このことは、若者では、(1)雇用の不安定さ(賃金カーブの低下や非正規雇用者率の上昇)や社会保障制度の将来不安などの経済面への不安を背景とした節約志向があること、(2)高品質な商品・サービスがあふれて成熟した消費社会に生まれ育ち、デフレの恩恵も受けることで、お金を出さなくても質の高い消費生活を送ることができること、(3)これらを背景として価値観が変容していること(必ずしも高いモノ=良いモノ、多額を使うこと=すごいこと、という価値観ではなくなっている)などで説明ができる1。つまり、今の若者は節約志向で「お金を使わない」傾向もあるが、そもそも「お金を使わなくてもすむ」消費環境にある。
 
1 久我尚子「若者は本当にお金がないのか?統計データが語る以外な真実」(光文社新書、2014)など。
 

3――単身世帯の消費内訳

3――単身世帯の消費内訳

図表2 単身世帯の消費内訳(2017年) 1単身世帯の特徴~「住居」・「教養娯楽」が多く、「教育」・「交通・通信」が少ない
単身世帯の消費内訳を見ると、若年女性を除けば、いずれも「食料」の割合が最も高く、そのほか「住居」や「交通・通信」、「教養娯楽」の割合が高い傾向がある(図表2)。若年女性では「食料」と「住居」が逆転している。

なお、二人以上勤労者世帯と比べると、「住居」(若年・壮年世帯は「家賃・地代」、高齢世帯は「設備修繕維持」)や若干「教養娯楽」の割合が高く、「教育」や「交通・通信」(若年・壮年男性や女性で「自動車関係費」、男性や壮年女性で「通信」)が低い傾向がある。

単身世帯の中では、若年世帯ほど「住居」や「交通・通信」が、高齢世帯ほど「光熱・水道」や「保健医療」の割合が高い傾向がある。また、壮年女性や高齢女性で「その他の消費支出」の割合が高いが、これは主に「交際費」によるものである。なお、二人以上勤労者世帯では世帯主の年齢が上がるほど「交際費」の割合は高まる。
2単身世帯の食生活~外食志向が強いものの、近年は中食へ、背景には節約志向や健康志向
ここからは、家族世帯との違いが大きいと予想される食生活や住生活を中心に見ていきたい。

まず、単身世帯の「食料」の内訳を見ると、高齢女性を除けば、いずれも首位が「外食」で、「調理食品」が続く(図表3)。一方、高齢女性の首位は「野菜・海藻」であり、僅差で「調理食品」が続く。二人以上勤労者世帯と比べた単身世帯の特徴は、若年男性や壮年男女で「外食」が、高齢男性や若年男性、壮年女性で「調理食品」が、高齢女性で「魚介類」の割合が比較的高いこと、一方、若年男性で「魚介類」や「肉類」、「野菜・海藻」をはじめとした食材全般や「菓子類」が、高齢男性で「肉類」や「菓子類」が、壮年女性で「魚介類」や「肉類」が、高齢女性で「外食」の割合が低いことである。

つまり、単身世帯の食費の内訳から、忙しく働く者も多い男性や壮年女性では利便性を重視して「外食」や「調理食品」に頼ることも多いが、高齢女性では自炊をする傾向が強い様子がうかがえる。高齢単身女性では、もともと専業主婦で、夫と死別して単身となった女性も多いためだろう。
図表3 単身世帯の食費内訳(2017年)
なお、2000年と比べて2017年では、単身世帯でも二人以上勤労者世帯でも、「調理食品」の割合が上昇しており、特に単身世帯の男性や壮年女性、二人以上勤労者世帯では50~60代で目立つ。一方で「外食」は、単身世帯ではいずれも低下しており、特に男性や若年女性で目立つ。逆に、二人以上勤労者世帯では「外食」は30~50代を中心にやや上昇している。

つまり、高齢女性を除く単身世帯では「外食」志向が強いものの、過去と比べると「外食」から「調理食品」を利用した「中食」へうつっているようだ。この背景には、収入減少による節約志向に加え、健康志向の高まりの影響も指摘できる。今泉(2015)2によれば、米国で健康志向の高まりを牽引するのは1980~2000年代初頭生まれのミレニアル世代だ。この世代はインターネットの普及と共に育ち、情報感度が高く、健康に関する知識も豊富なため、他世代より健康志向が高いそうだ。日本でも同様の状況が予想される。一方で二人以上勤労者世帯では、現役世代で「中食」や「外食」が増え、自炊が減っている。この背景には、共働き世帯の増加による利便性重視志向の高まりがあるのだろう。

このほか個別食材では、全体的に「魚介類」の割合が低下しているが、農林水産省「平成20年水産白書」等で国民的な「魚離れ」についての報告がある。1人1日当たりの魚介類摂取量が減少する一方で、肉類摂取量は横ばいで推移した結果、2006年に魚介類の摂取量が肉類を下回るようになった。「魚離れ」の理由は、子どもが魚を好まないことや調理が面倒、肉より割高と分析されている。同様の傾向は「米」と「パン」でも見られる。食生活の洋風化に加え、核家族や単身世帯が増え、世帯がコンパクト化することで、一度の食事に必要な量が減ったために、小分けで食しやすいものが好まれる影響もあるだろう(1人分の米を炊くより、パンを買うなど)。

以上より、今後、単身世帯が増えると「外食」ニーズが高まる部分もあるが、過去からの変化を見れば、単身世帯では「中食」志向が強まっている。むしろ「外食」市場の鍵を握るのは共働き世帯と言えそうだ。さらに、世帯のコンパクト化により、食材の小分け売りニーズが高まることに加えて、全体的に健康志向が高まることで、消費者全体で食の質へのこだわりが増す可能性もある。
 
2 今泉潤子「健康志向が高まる米国で事業強化を進める食品メーカー」、三井住友銀行、マンスリー・レビュー(2015年5月号)
3単身世帯の住生活~若いほど住居費が多い、年齢とともに持家率が上昇
単身世帯では若い世代ほど消費支出に占める「住居」の割合が高い。これは主に「家賃・地代」によるもので、年齢とともに持家率は上昇する。2017年では男性は若年が0.0%(ただし2016年は2.7%)、壮年が32.4%、高齢が73.2%、女性は若年が6.0%、壮年が49.3%、高齢が84.2%である。なお、持家率は二人以上世帯の方が高い(単身世帯全体56.7%、二人以上世帯全体86.1%)。

単身世帯と二人以上勤労者世帯の50代以下の現役世代について、持家率の変化を見ると、二人以上勤労者世帯では30代以下の若い世帯を中心に上昇傾向にある。2000年と比べて2017年では30代では46.0%→62.5%(+16.5%)、29歳以下では19.3%→33.0%(+13.7%)と大幅に上昇している。一方、単身世帯では若年男性は低下しており、若年女性や壮年男女はおおむね変わらない。なお、二人以上世帯でも単身世帯でも現役世代の勤労者世帯の可処分所得は、いずれも減少傾向にある。同世代でも持家率の変化に違いがある背景には、ニーズの強さの違いや近年の税制改正(結婚・子育て資金の贈与税非課税枠措置や住宅ローン減税の拡充等)の影響の受けやすさの違いがあるのだろう。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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