2018年08月14日

分権と集権が同時に進む医療・介護改革の論点-「機能的集権」で考える複雑な状況の構造と背景

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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■要旨

医療・介護分野では「惑星直列」と呼ばれるほど、2018年度に一斉に制度改正が進められた。一連の制度改正を総合すると、医療分野では都道府県、介護分野では市町村の役割や権限を強化しており、「分権化」という特徴が見られる。今後、都道府県や市町村には地域の実情に応じた体制整備が求められており、1990年代以降に進んだ地方分権改革の蓄積が問われる。

その一方で、国が都道府県や市町村の取り組みを評価する制度改正も進むなど、国の関与が強まる「集権化」の動きもあり、現在の状況は一概に「分権化」と言い切れない側面を持つ。

では、こうした複雑な状況をどう捉えるべきだろうか。本レポートでは医療・介護で進んでいる制度改革の一部を「分権」「集権」という2つの軸で整理するとともに、「分権化しつつ集権化する」という状況が進んでいる実像や背景を探る。さらに、個別の行政分野における中央政府の統制手段の増大を意味する「機能的集権」という行政学の概念を用いつつ、現在の制度改正の課題や国、自治体に問われるスタンスを論じたい。

■目次

1――はじめに~分権か、集権か~
2――医療・介護で進む分権化
  1|地方分権改革と医療・介護行政
  2|医療行政に関する都道府県の役割拡大
  3|介護行政に関する市町村の役割拡大
  4|「団体自治」の強化による医療・介護行政の分権化
3――医療・介護で進む集権化
  1|医療行政で進む国の関与増大
  2|介護行政で進む国の関与増大
  3|医療・介護行政で進む複雑な状況
4――「機能的集権」を用いた医療・介護行政の現状説明
  1|「機能的集権」とは何か
  2|機能的集権の背景
5――「機能的集権」の問題点
  1|地方分権推進委員会の勧告に見る3つの弊害
  2|機能的集権の問題点(1)~責任の不明確化~
  3|機能的集権の問題点(2)~自主的な運営を阻害~
  4|機能的集権の問題点(3)~行政の非効率化~
6――議論の出発点としての「ガバナンス」の重要性
  1|ガバナンスの定義
  2|ガバナンス論から見た国の役割
7――おわりに~トクヴィルの警告~
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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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レポート紹介

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