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ドイツにおける追加責任準備金(ZZR)制度の見直しを巡る動き-BaFinとDAVによる新たな方式-
中村 亮一
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4―今回の見直し案による参照利率及びZZR積立額への影響
ドイツの格付会社アセクラータ(Assekurata) によると、2018年の参照利率は、現行方式では約1.90%に低下することが想定されるが、回廊法によると2.10%の低下にとどまることになる。
これにより、2018年のZZRの積立額は、現行方式による約180億ユーロから、新方式による約80億ユーロへと、約100億ユーロ軽減されることになる、と想定されている。
さらに、アセクラータ(Assekurata)は、現行の金利水準が続いた場合の、2つの方式による、長期の参照利率の推移やZZR 積立額の推移を予測しており、次ページの図表の通りとなっている。
これによれば、参照利率は、現行方式では2023年まで急激に低下して、その後ほぼ横ばいになっていくのに対して、回廊法では2030年に向けて、徐々に低下していく。
その結果、ZZR積立額については、現行方式では毎年約200億ユーロ程度の新規積立が発生して、急激に増加していき、2023年には1500億ユーロに達することになるのに対して、回廊法では、徐々に増加していき、2023年でも900億ユーロ程度に留まることになる。その後、現行方式では2025年をピークに積立額が減少していくのに対して、回廊法では2030年に向けて引き続き積立額が増加していくことになる。
アセクラータ(Assekurata)は、異なる金利シナリオに対しての2つの方式の差異も算出している。
具体的には、(1)ベースシナリオ(Basis-Szenario):1.00%での変動金利、(2)ネガティブシナリオ(Negativ-Szenario):0.00%までの金利低下、(3)ポジティブシナリオ(Positiv-Szenario):2.00%までの金利上昇、という3つのシナリオでの試算を行っている。
これによると、方式の変更による最大軽減額は、2025年において、ベースシナリオとネガティブシナリオの両方で40%以上となる。さらに、ポジティブシナリオでは、回廊法の別の効果として、金利上昇に伴って観測される望ましくない遅延効果が弱められることが明らかにされている。
即ち、ポジティブシナリオで市場金利が上昇する場合でも、ZZR積立額は最初に増加し続けることになるが、現行方式では2025年において1290億ユーロに達し、その後2030年に向けて、970億ユーロまで積立額が取り崩されていくことになる。一方で、回廊法では2025年の積立額は800億ユーロに留まり、2030年の積立額も740億ユーロで、取崩額も限定されたものとなる。
全てのシナリオで、負担のピークが低減され、より長期間に渡って、より滑らかに、積立額が分散されるので、回廊法が安定化効果を有することが明確に示されている。
5―今回の見直し案によるその他の財務面等への影響
(1)ZZR積立財源確保のための投資評価準備金の取崩(債券等の含み益の売却による実現)
現在はZZR積立財源確保のために投資評価準備金の取崩、即ち債券の含み益の実現化を行い、その実現額を新たに低金利の債券等に再投資する形になっているが、これが本当に最適な投資戦略で、生命保険会社の財務状況の健全性の確保や保険契約者の利益につながるのかという問題が投げかけられてきた。
現在の取扱は、オンバランスの追加責任準備金の積立を行うために、オフバランスの含み益の実現を図り、付け替えを行うことに等しい。このことは将来の高利回りの収入を現時点で一括計上することを意味し、保有資産の平均利回りの低下をより一層加速させていく形になっている。
(2)毎年の財源圧迫による保険契約者への配当への影響
ZZRの積立のために、毎年の剰余が圧迫されることで、保険契約者の配当財源も影響を受けることになるが、これが世代を超えた保険契約者間の公平な配当の実現に不当な圧力をかけることになりかねないとの懸念があった。
(1)ZZR積立のための投資評価準備金の取崩の抑制
回廊法の適用により、参照利率の低下速度が極めて緩やかになることから、ZZR積立に必要な財源が大きく減少することになる。これにより、債券等の含み益である投資評価準備金の取崩に依存せずに、基本的には通常の業務収益からZZR積立のための財源を確保していくことが可能になると想定される。
(2)毎年の財源圧迫による保険契約への配当への影響
回廊法の適用により、現行方式によるここ数年の多額のZZRの積立とその後の取崩という大きな変動が回避されることになる。これにより、ZZRの積立が長期的に安定化・平滑化され、各保険年度における個々の保険契約者の負担が軽減されることになる。また、毎年の剰余への影響が平準化されることで、世代を超えた保険契約者間の公平性の確保が可能になることが期待されることになる。
(3)新契約者にも恩恵
新しい方式の採用によるプラスの影響は、投資評価準備金の不均衡な取崩が抑制され、会社の長期の投資収益の安定化をもたらすことになるため、既契約者だけでなく、今後の新規契約者も恩恵を受けることになる。
6―まとめ
今回のBaFinや財務省というドイツの保険監督当局の対応は、こうした状況を踏まえてのものであり、まさに各国の実態に応じて、監督当局が必要な対応を図ってきている1つの具体例となっている。
日本の生命保険会社も、逆ざや契約を抱えている中にあって、将来の支払能力確保のために、各社各様の方式や考え方で追加責任準備金の積立を行ってきている。日本の場合、ドイツの場合とは異なり、業界全体で統一された考え方に基づいて、強制的に積立を求めていく方式ではない。一定のルールに基づいて、最低限必要な追加責任準備金の積立額の要否を確認させつつも、一方でそうした額を超えて、各社の経営判断でさらなる追加の責任準備金積立を行うことが認められており、実際に各社各様の対応が行われてきている。
その意味では、ドイツのZZR制度がそのまま日本にも適用されるというようなものではないが、日本と同様に低金利下で苦しんできたドイツの生命保険会社における支払能力確保のための追加責任準備金制度の考え方は、日本における追加責任準備金制度を考える上での1つの参考になるものと思われる。
ZZR制度を巡る動向については、日本の保険監督当局や生命保険会社にとっても、極めて関心の高い事項であると思われることから、今後も引き続き注視していくこととしたい。
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(2018年08月07日「保険・年金フォーカス」)
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