2018年08月08日

拡大するシェアリング・エコノミー、シェア志向が強いのは誰? ~安く買いたい若者だけでなく、堅実な公務員、合理的な高年収男性でも強い~

基礎研REPORT(冊子版)8月号

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1―はじめに~シェア経済の拡大、シェア志向が強いのは誰?

個人が所有する「モノ」や「スキル」を他人と共有するシェアリング・エコノミーが拡大している。2017年度の国内市場規模は636億円だが、2021年度には1,000億円を超える見込みだ(矢野経済研究所)。
シェアリングエコノミー
シェア対象はクルマや自転車などの「モノ」だけでなく、「スペース」や「ヒト」、「スキル」、「お金」にまで広がっている。また、事業者が提供するサービスだけでなく、プラットフォームを介した個人間売買の勢いも増している。
 
シェア志向はどんな消費者で強いのだろうか。ニッセイ基礎研究所が実施した20~70代の消費者1万人を対象とした調査*1から見ていきたい。
 
調査では「中古品でも、気にしないで買う方だ」「ネットを通じて個人からものを買うことに抵抗はない方だ」「ものは買うより、できるだけレンタルやシェアで済ませたい」「買い物はできるだけインターネットで済ませたい」といったシェア志向に関する問いを用意し、それらへの合致度が高い層をシェア志向の強い消費者としている。
 
*1 「家計消費と生活不安に関する調査」、調査対象:全国の 20~70 歳代の一般個人、調査手法:ネットリサーチ、実施時期:2017 年4月、調査機関:株式会社マクロミル、有効回答数 10,305(男性 5,153、女性 5,152)

2―性年代別に見た違い~中古や個人間売買への抵抗が弱く、できるだけネットで買いたい男性や若者で強い

まず、年代や性別による違いを見ると、シェア志向は若いほど強く、どの年代でも女性より男性で強い[図表2]。
シェア志向
調査結果から、若者や男性のシェア志向を構成する問いへの合致度を詳しく見ると、店舗よりネットでの購入を好み、ネットでの個人間売買への抵抗が弱い傾向がある。さらに、若者は安価なモノを求めて日ごろからネットで情報収集をしているという特徴もある。若者や男性でシェア志向が強い背景には、これらの影響があるようだ。

3―職業による違い~中古でも良い学生や公務員で強く、専業主婦は弱い

次に、職業による違いを見ると、男女ともシェア志向は「学生」で最も強く、次に「公務員」で強い[図表3]。
「学生」と「公務員」の消費行動の特徴を見ると、どちらも中古品を気にしない傾向が強いのだが、ニュアンスは若干違う。
 
「学生」はネット購買を好み、ネットの口コミなど多くの情報を見た上で中古品でも気にしない、「公務員」は堅実・慎重な消費態度から中古品でも気にしないという違いがある。公務員は貯蓄意識が高く、安全や環境に配慮する意識が高いという特徴がある。
 
ところで、女性では「無職・専業主婦」のシェア志向の弱さが目立つ。しかし、メルカリなどでは、主婦が小さくなった子ども服や使わなくなったおもちゃなど、家庭の不用品を売買する状況がよく見られる。このギャップは何だろうか。
 
専業主婦の消費行動の特徴を見ると、女性全体と比べて、できるだけレンタルやシェアで済ませたいという意識が強いが、ネットの個人間売買には抵抗が強い傾向がある。つまり、専業主婦は家計の節約意識などから、もともとシェア志向が強いのだが、個人間売買への不信感がネックとなっている。裏を返すと、専業主婦に利用が広がるフリマアプリでは、信頼性や安全性を上手く訴求できているのだろう。

4―年収による違い~安くすませたい年収300万円前後、こだわりのある年収1千万円程度の男性で強い

年収別にも興味深い特徴がある。シェア志向の強さは、男女とも年収「200~400万円未満」にピークがあり、男性では「1,000~1,200万円未満」にもピークがある[図表4]。
 
1つ目のピークでは、男性は20~30代、女性は30代前後で、いずれも非正規雇用者が比較的多い。この層の男性は中古品でも構わない意識が強く、女性は比較的堅実な消費態度を持ちながら、ネット購買を好み、ネットでの個人間売買への抵抗が弱い傾向がある。つまり、年収300万円前後の層では、主に経済的な理由から中古品やシェアを利用しているようだ。
 
2つ目のピークは男性40~50代で正規雇用者が多い。この層は、自分の価値観やライフスタイルを重視する傾向が強く、ネット購買を好み、ネットでの個人間売買への抵抗が弱い傾向がある。よって、安くおさえたいというよりも、モノによっては(例えば消耗品など)コストパフォーマンスを重視するという合理的判断のもとで、中古品やシェアを利用している可能性がある。
 
なお、調査では「価格が品質に見合っているかどうかをよく検討する」というコスパ意識を問うものがあるのだが、このコスパ意識は、年収1,000万円までは年収とともに高まるが、年収1,200万円以上では低下する。なお、図表4を見ると、年収1,200万円以上ではシェア志向も弱まっている。
 
つまり、年収1,200万円を超えると、そこまでコスパを意識しなくても良いという経済的余裕が生まれるのかもしれない。

5―ライフステージによる違い~短期間しか使わないモノで出費の嵩む未就学・義務教育児世帯で強い

さて、カーシェアやフリマアプリなどの利用は、結婚しているかどうか、子どもがいるかどうかでも違いがあるだろう。そこで、同年代でもライフステージの違いが大きな30~40代に注目して見ると、男性は「末子未就学」で、女性は「末子義務教育」でシェア志向が強くなっている[図表5]。
子育て世帯の家計収支を分析すると、2000年以降は可処分所得が減少する中で、できるだけ消費を減らして貯蓄をする傾向が強まっている。子どもが小さいうちは、おもちゃや洋服など一時期しか使わないものへの出費がかさむ。よって、小さな子のいる世帯はフリマアプリを利用した中古品の売買に適した層とも言える。

6―おわりに

経済指標を見ると個人消費は力強さに欠ける状況が続く。しかし、拡大するシェアリング・エコノミーの状況を見れば、消費者個人を流通する「消費量」は増えている可能性がある。
 
例えば、クルマを購入すると1台を7~8年間乗り続けるだろうが、カーシェアを利用すれば短期間に様々な種類のクルマを楽しむことができる。フリマアプリでは、様々な商品領域で個人が新品で購入したモノを中古で売買する連鎖の流れがある。消費者が費やす「消費額」は減りながらも、消費者個人が利用する商品やサービスの「消費量」は増えているのではないだろうか。
 
安くて便利、質もまあまあのモノがあれば、消費者の意識が向くのは当然だ。企業はシェア経済と上手く共存するとともに、シェアでは得られない付加価値を生み出す必要がある。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2018年08月08日「基礎研マンスリー」)

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