2018年08月06日

データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(上・流入編)-地方の人口流出は阻止されるのか-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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3――2017年・東京都への移動にエリア別の男女差はあったのか

1|最低出生率のはずの東京都の子どもがなぜ増えているのか
 
本稿(上)の最後に、あまり普段見かけないであろう人口移動のランキングを示してみたい。
 
1年間に東京都へ向かうあるエリアからの男性の数に対して、何%の女性が同じく東京都に向かっているか、という男女差指数(あるエリアからの東京都への年間:女性流入数/男性流入数)のランキングである。
 
この指数が100であれば、「男性と同数の女性が、そのエリアから東京都へ出て行った」ということになる。指数が100を超える場合は、男性が出て行く以上に女性が出て行ってしまった、ということである。
なぜ男性に対する女性の流入規模を見ているかというと、地方ではいまだに産業ならびに人口誘致政策として「男性の仕事を増やさなくてはならない」という考え方が見受けられるからである。つまり、人口流出入をどうしても男性中心ベースで考えている様子がうかがえる。
 
しかし、いくら男性をあるエリアに呼べたとしても、その一方で、男性以上に女性が都会に出て行ってしまうエリア特性であると、次世代人口維持の最上流となるカップリングが成立しなくなる。そのエリアにおいてカップリングが成立しなければ、そもそも子どもが生まれてこない。子育て支援する相手が生まれてこない。
 
このことに気がつかずに男性誘致型の産業政策を続けても、その世代限りの打ち上げ花火的なエリア人口増加(主に男性の増加)にとどまることになる。
女性に魅力がないエリアであると、人口の男性余剰が生じ、次世代が思うように生まれてこないのである。勿論、出生数を増やさなくてもエリア外から移民を呼べれば人口を維持することは一定程度可能である。
しかしこの場合は、そのエリアを「ふるさと」とする人口は減ってゆくことに対しての覚悟は必要である。
 
東京都において全国最低出生率ながら子どもが増え続けている背景に、ママ候補となる女性の母数の増加がある。
出口のレートより入り口投入量で子どもを増やしている、というのが東京都の状況である。
 
このような東京都に、男性以上に女性数を送り出しているエリアは、そうではないエリアより何らかの「より女性に定住されにくい地元傾向」があり、「みずからのエリアで出生率を多少上げても子どもが増えないジレンマ」に他のエリアより強く直面している、ともいえるだろう。
2|男性より女性が多く東京都へ流れる5エリア
 
2017年において、グロスベースで男性よりも多くの女性が東京都へ流入しているエリアは5エリアあった(図表6)。
秋田県、岩手県、長野県、新潟県、山形県、である。
 
東北エリアが3県、中部エリアが2県となっている。
いずれも大都市圏ではなく、新幹線等、東京へのアクセスが陸路で良好なエリアといえる。また東京にアクセスがよくかつ農業が主力ともなっているエリア、と見ることが出来るだろう。
 
ランキングの下位から、女性より男性の方が東京都へ流出が多いエリアもわかる。
 
東京へ向かう女性の数が男性の85%未満となっているエリアは6エリアある。
佐賀県、奈良県、滋賀県、大阪府、愛知県、広島県となっている。
いずれも関西を主とする西日本エリアであり、佐賀県以外は農業が優勢な県とはいえないエリアとなっている。
 
男女の移動差をエリア別にみてみると、男性を超える女性の移動は東京に陸路アクセスのよい農業優勢エリアから、女性を超える男性の移動は農業非優勢関西エリアから起こりやすいように見える。
 
この流入性差ランキングを「ふさわしい仕事がないから地元から出て行くのではないか」という視点でみてみると、男女の人口流出理由として、「エリア別に異なった理由」がみえてくるように思える。
ランキング上位エリアの女性は、農業への就職が主であるエリアから、サービス産業大発展都市ともいえる東京都に男性以上に転居しているようにみえ、これらの女性流出優勢エリアにおいては、サービス産業のあり方、農業の女性従事の親和性強化を検討する必要性があるように思われる。
【図表6】 2017年年間「東京へ向かう人々」男女比率ランキング(女性/男性、%)

4――東京都と地方の協働により、日本の未来を変える視点を

4――東京都と地方の協働により、日本の未来を変える視点を

国の人口推計では、2045年には東京都の総人口に占める人口割合は12.8%(2015年10.6%)を占める。
また東京都を取り囲む関東エリアも割合を増やし、36.9%(2015年33.8%)となる。
ますます「日本=東京または関東」の図式が強まってゆく様相である。
 
これを地方はどう受け止めてゆくか。
人口問題から考えると、東京都69自治体の出生率は過密度と負の相関があり、筆者の重回帰分析(2017年08月14日・データ分析結果が示す「大都市・東京都の出生率支配要因」とは-少子化対策・印象論合戦に終止符をうつために-)でも、東京都における過密化解消は、東京都の出生率上昇の有意な重要ファクターであることが示されている。
 
実は一極集中は、「東京ひとり勝ち」の構図ではない。
「過疎化する地方と過密化で出生率が下落する東京の人口双方とも沈み」状況を表しているに他ならない。東京都VS地方ではなく、双方が協調し、将来の目指すべき人口配置バランスを考えることが必要である。
 
次稿では東京から地方への人口流出について考察してみたい。
【参考文献一覧】
 
総務省総計局. 「平成29年住民基本台帳人口移動報告」

国立社会保障人口問題研究所.「出生動向基本調査」
 
国立社会保障人口問題研究所.『日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)』
 
国立社会保障人口問題研究所.『日本の地域別将来推計人口(平成25(2013)年推計)』
 
厚生労働省.「人口動態調査」
 
国立社会保障・人口問題研究所. 「人口統計資料集」2017年版
 
総務省総計局. 「2015年 国勢調査速報値」
 
総務省総計局. 「人口推計(平成29年(2017年)10月確定値)
 
天野 馨南子.“2つの出生力推移データが示す日本の「次世代育成力」課題の誤解-少子化社会データ再考:スルーされ続けた次世代育成の3ステップ構造-” ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2016年12月26日号
 
天野 馨南子. “「多子化する東京都」-少子化データを読む-大都会型子ども政策に、エリア少子化政策を重ねる危険性(1)”ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2018年2月13日号
 
天野 馨南子. “消え行く日本の子ども-人口減少(少子化)データを読む-わずか半世紀たたず、半減へ”ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2018年4月9日号
 
天野 馨南子. “ データ分析結果が示す「大都市・東京都の出生率支配要因」とは-少子化対策・印象論合戦に終止符をうつために-”ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート 2017年8月14日号
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2018年08月06日「基礎研レポート」)

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