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- 中小企業の「生産性革命」~IT導入・利活用は進むのか~
1――はじめに
2――中小企業の生産性、IT導入をめぐる現状
政府も、中小企業の生産性向上、IT導入・利活用に強い課題意識を持っている。2017年3月に、中小企業庁が「スマートSME(中小企業)研究会」を設置し、有識者や中小企業の経営者等を交えて、中小企業のIT活用促進施策や環境整備について議論を進めてきた。また、2018年6月に閣議決定された成長戦略「未来投資戦略2018」においても、「中小企業・小規模事業者の生産性革命の更なる強化」が掲げられ、目標値(KPI)として「2020年までの3年間で全中小企業・小規模事業者の約3割に当たる約100万社のITツール導入促進を目指す」ことが新たに掲げられた。2017年度補正予算によるIT導入補助金 (予算規模:500億円)、ものづくり・商業・サービス補助金(予算規模:1,000億円)、2018年5月に成立した生産性向上特別措置法で創設された固定資産税の負担減免の措置等、IT等先端設備の投資促進策も講じられている。また、IoTやロボット導入支援を行う「スマートものづくり応援隊」事業や、成功事例等の情報共有やモデル事例の発掘・組成支援等を行う「中小サービス等生産性戦略プラットフォーム」の設立等、様々な策を打ち出している。こうした支援策や情報発信の内容を良く知らない中小企業の経営者・担当者もまだまだ多いと思われるが、今後も中小企業の生産性革命に向けた政府の取組みが推進され、成果が出てくることに期待したい。
1 付加価値額(=人件費+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課+営業純益)÷従業員数(法人企業統計調査年報より)
2 ここでの労働生産性は、「平成26年度企業活動基本調査」のデータをもとに、付加価値額(営業利益+人件費+租税公課+動産・不動産賃借料)÷総従業員数で算出されている。
3 クラウドサービス(クラウドコンピューティング)とは、大規模データセンターにおいて仮想化等の技術を用いてコンピュータの機能を用意し、それをインターネット経由で自由に柔軟に利用する仕組みの総称。企業や個人が個別にコンピュータやアプリケーションを所有して利用するのに比べて、ITに関する開発や調達や運用・保守の負担が軽減され、コスト削減にもなる技術、サービスとして注目されている。(独立行政法人情報処理推進機構「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」よりhttps://www.ipa.go.jp/files/000011595.pdf)
4 商工中金 中小企業のIT活用に関する調査(2017 年7 月調査)https://www.shokochukin.co.jp/report/tokubetsu/pdf/cb17other10_01.pdf
3――中小企業の生産性革命が実現するには
しかしながら、深刻な人手不足は、その機動性や小回りの良さを奪いかねない。また、IT化やデジタル化の波に乗り遅れると、積極的にIT化を進めたライバルに生産性や機動性で大きな差をつけられてしまう。創業間もないベンチャー企業でも、当たり前のようにクラウドサービスを活用し、自らの本業・強みに資源を集中出来るような体勢を整えているところが多い。また、中小企業のベテラン職人・従業員ならではの「技術力」や「サービス品質」がITや機械に一部代替され、競争力を失う恐れもある。そして、業種によっては、ITサービスの進化で実店舗や営業人員を擁せずとも販路・顧客網を拡大できる。これは中小企業にとっても大きなメリットなのだが、裏を返せば、自らの商圏に今まで手を出してこなかった大企業や他の地域の中小企業も、強力なライバルになり得ることを意味している。極端な話、海外の大手ITプラットフォーマーに、大きくビジネスを侵食される企業も出てくるかもしれない。人手不足、デジタル化という環境変化が急ピッチで進む中、中小企業がその良さを活かして生き残っていくためにも、積極的なIT化への取組みは待ったなしの状況だと言える。
中小企業やその経営者にとっては、ITへの感度を高め、積極的に導入し活用していこうという姿勢が、これまで以上に必要だ。AIのような最先端技術を活用することが絶対に必要というわけではない。既に他の中小企業も導入し始めているような、「(良い意味で)身の丈にあった」IT技術やサービスを導入していくことが、まずは重要だ。積極的に情報収集を進め、ITに明るい人材の確保(育成・採用)や相談出来るパートナー探しを進めていく必要もあるだろう。
また、多くの中小企業にIT人材や情報が不足する中、自治体等の支援機関、税理士・会計士等の士業関係者、地域金融機関といった「中小企業のサポーター」にも、ITに明るい人材が増えていって欲しい。業務革新に繋がった成功事例の紹介や、評判の良いITサービスや事業者についての情報提供、具体的なIT利活用アドバイス等が出来る人材がいれば、中小企業にとって非常に心強い。一部の地方銀行や税理士事務所が、クラウド型会計ソフトを提供する事業者と組んで、そのサービスを活用した会計・経理業務の効率化や、経営状況の「見える化」について、中小企業にアドバイス、コンサルティングしている事例もある。地方銀行や税理士事務所にとっても、取引先の経営状況が詳しく把握出来るようになり、取引先の信頼を得て新たな取引に繋げていくチャンスにもなる。地方の中小企業にまで人海戦術で営業・サポート出来ないIT事業者にとっては営業面での強力なパートナーを得ることになり、互いにメリットのあるスキームである。このような、中小企業のIT化を支えるサポーターの輪が広がっていくことに期待したい。
企業数では日本企業の約99%を占め、従業員数では約70%を占めるという中小企業。その「生産性革命」を通じて、大企業に負けない魅力溢れる中小企業が次々と現れ、日本経済や地域経済が一層活性化することを切に願う。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
中村 洋介
研究・専門分野
(2018年08月02日「基礎研レター」)
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