2018年07月30日

欧州保険会社が2017年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(4)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その3)-

中村 亮一

文字サイズ

Prudentialの例
Prudentialは、内部モデルと標準式によるSCRの計算の主な差異を、以下の通りまとめている。

・内部モデルのリスクシナリオは、Prudential固有のリスクプロファイルを反映し、データ分析と専門家判断の組み合わせから導き出される。

・各カテゴリ内の内部モデルリスクドライバは、通常、標準式で考慮される広範なリスクカテゴリよりもはるかにきめ細かである。

・内部モデルは、標準式に含まれていないいくつかのリスク(例えば、株式インプライドボラティリティリスク、金利インプライドボラティリティリスク、国債スプレッドリスク)もカバーしている。

・内部モデルでは、一緒に発生するリスクの組み合わせの貸借対照表への影響を許容するが、標準式では、個々のリスクを個別に考慮するのみである。

・内部モデルでは、対応する負債の価値の変動を反映して、各リスクシナリオでマッチング調整リングフェンスを変更することができるので、内部のリスクとマッチング調整ポートフォリオ外のリスクの分散が認められる。

具体的には、以下の通り記述されている。

E.4.3内部モデルと標準式

内部モデルと標準式によるSCR計算の間の主要な差異は、以下を含んでいる。

・標準式のストレスと相関が規定されているのに対して、ソルベンシーII指令によって要求される内部モデルテストと基準に従うことを条件に、内部モデルのリスクシナリオは、Prudential固有のリスクプロファイルを反映し、データ分析と専門家判断の組み合わせから導き出される(詳細は下表参照)。

・同じ幅広いリスクカテゴリが内部モデルのリスクドライバをグループ化するために使用されるが、各カテゴリ内の内部モデルリスクドライバは、通常、標準式で考慮される広範なリスクカテゴリよりもはるかにきめ細かである。例えば、標準式のストレスの多くは国によって異ならないが、内部モデルのリスクドライバは、通常、国やその他のリスクの属性によって異なる。

・内部モデルは、標準式に含まれていないいくつかのリスク(例えば、株式インプライドボラティリティリスク、金利インプライドボラティリティリスク、国債スプレッドリスク)もカバーしている。

・内部モデルSCRは、基礎となるリスクドライバを結合されたストレス・シナリオにまとめ、99.5%のワーストパーセンタイル結果を導出するために、これらのストレス・シナリオをグループの貸借対照表に適用した結果をランク付けすることによって、導き出される。逆に、標準式SCRは、各所定のストレスの貸借対照表への影響を別々に計算し、次にこれらの結果を所定の相関マトリックスを用いて集計することによって導き出される。したがって、内部モデルでは、一緒に発生するリスクの組み合わせの貸借対照表への影響を許容するが、標準式では、個々のリスクを個別に考慮するのみである。そして

・内部モデルでは、対応する負債の価値の変動を反映して、各リスクシナリオでマッチング調整のリングフェンスを変更することができる。したがって、内部のリスクとマッチング調整ポートフォリオの外部のリスクの分散化が認められる。逆に、標準式は一緒に発生するリスクの組み合わせによる影響を考慮していないため、内部のリスクとマッチング調整ポートフォリオの外部のリスクとの間での分散化は認識しないことが求められる。

なお、Prudentialも、Allianz と同様に、具体的なリスクカテゴリ(リスクモジュール)毎の標準式と使用された内部モデルの対比表を作成している。
 

3―単体ベースとグループベースにおける内部モデルの差異

3―単体ベースとグループベースにおける内部モデルの差異

単体ベースとグループベースとでSCRを算出する際に同じ内部モデルが使用されているとは限らない。
1|A XAの例
AXAは、「個々の事業レベルで使用された内部モデルと、グループのソルベンシー資本要件の計算に使用された内部モデルとの主な違い」について、以下の2点を挙げて説明している。

2つの違いは、英国の監督当局である健全性規制機構(PRA)のスタンスによるものである。

(1) AXA Insurance UK plcでは、「動的ボラティリティ調整」の使用が認められない。

(2) 年金負債の評価で、AXA Insurance UK plc及びAXA PPP healthcare LtdのソロSCR計算の社債スプレッドの動きに対して、50%のヘアカットが適用される。

E.2 ソルベンシー資本要件(SCR)と最低資本要件(MCR)
個々の事業レベルで使用された内部モデルと、グループのソルベンシー資本要件の計算に使用された内部モデルとの主な違い

AXA Insurance UK plcでは、英国の監督当局である健全性規制機構(PRA)の要件に起因して、グループ統合に使用される内部モデルとローカルで使用される内部モデルの間に、2つの主な違いが存在している。なお、殆どの主要な英国の保険会社は、(PRAの要件
のため)ボラティリティ調整よりもマッチング調整の使用を好んでいる:

■市場リスクに関する内部モデルには、ソロSCRとグループSCRへのローカル寄与の両方に対するSCRの計算においてボラティリティ調整の将来の変化を予測する「動的ボラティリティ調整」のモデル化が含まれる。しかし、PRAの立場は、英国の会社はSCRの算出においてボラティリティ調整の水準を変更してはならないということである。その結果として、AXA Insurance UK plcの市場リスクモデリングには、ソロSCRの計算における動的ボラティリティ調整の利益を取り除くための調整が含まれている。

■PRAは、ストレスをかけた金融状況下で、年金基金の負債をより慎重にモデル化することを要求した。IAS第19号によれば、年金負債は社債のスプレッド・カーブで割り引かれる。保守性の理由から、(グループSCRへの英国寄与分の25%ではなく)AXA Insurance UK plc及びAXA PPP healthcare LtdのソロSCR計算のための社債スプレッドの動きに対して、50%のヘアカットが適用される。

個々の事業レベルで使用される内部モデルとAXAグループのSCRの計算に使用される内部モデルとの間には、他の違いはない。

Generaliの例
Generaliは、「法人レベルでのSCRの計算には異なるアプローチが適用される」として、以下の通り説明している。

具体的には、「ローカルに特定の較正に関して、イタリアの会社については、グループ・レベル及び他のPIM事業体の計算とは異なって、イタリア政府債務へのストレスや確率論的ボラティリティ調整は適用されない。」ことになっている。これも、イタリアの保険監督当局のIVASSのスタンス等を反映したものとなっている。

E.4.3.内部モデルで使用された方法
法人レベルでのSCRの計算には異なるアプローチが適用される

グループPIM(部分内部モデル)の使用は、グループ・レベルでのSCRの計算及びPIM範囲内の会社のSCRの計算の両方に対して、承認されている。 この目的のために、ローカル適合性評価は、モデリングと較正が範囲内の会社に対しても適切なままであることを認めている。 ローカルに特有の較正に関しては、イタリアの会社については、グループ・レベル及び他のPIM事業体の計算とは異なって、イタリア政府債へのストレスや確率論的ボラティリティ調整は適用されないことに留意されたい。

 

4―まとめ

4―まとめ

今回のレポートでは、欧州大手保険グループ各社のSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))の内容から、標準式と各社で実際に使用された内部モデルとの差異の説明等について報告してきた。

1回目の2017年のSFCRの全体的な状況に関するレポートにおいて、SFCRについては、監督当局と保険会社、さらには利用者である投資家や保険契約者等の間で、SFCRに求めているものが統一されておらず、このためSFCRの位置付けが必ずしも十分に明確化されていない面がある、と報告した。

今回のSFCRが、ソルベンシーと財務状況に関して、基本的にはこれまでの財務関係の開示資料で提供されてきたものと比較して一定程度詳しい情報を提供しており、それらの情報が、欧州保険会社の財務状況等に関する一般の利用者等の理解をより深めるものになっていることは間違いない。その意味で、SFCRの存在意義は大きいものと思われる。

ただし、一方で、保険会社の立場から見て、SFCRの作成にかかる労力等を考慮した場合に、それに見合うものになっているのか、又は保険契約者や投資家等の立場から見て、現在の報告内容が本当に理解できる有益なものになっているのか、さらには投資家等が本当に必要としている情報が十分に開示されているのか、という意見があるのも事実である。

例えば、今回報告した「標準式と使用された内部モデルの差異」に関する事項の記述については、欧州大手保険グループ間でも記述内容のレベルに差異が見られる。さらには、各社とも定性的事項の説明のみで、各種の内部モデルの採用により、どのような効果が得られたのかという定量的事項に関しては説明されていない。こうした内容はもちろん監督当局には報告されているものと思われるが、外部に対しては公表されていない。加えて、内部モデルの定性的説明についても、一部でさらなる詳しい内容の説明を期待していた向きにとっては期待外れであったとも推測される。

こうした課題も含めて、今後EIOPA、各国監督当局、保険会社自身のレビューを通じて、SFCRの充実・見直しが行われていき、その有用性がより一層高められていくことが期待される。

今回のSFCRの公表によって開示されている情報等については、日本の保険会社等にとっても大変有益なものであり、今後の日本における保険監督規制のあり方等を検討していく上でも大いに参考になるものと思われる。

SFCRを巡る動きに関しては、引き続き注視していくこととしたい。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

(2018年07月30日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【欧州保険会社が2017年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(4)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その3)-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

欧州保険会社が2017年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(4)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その3)-のレポート Topへ