2018年07月30日

インターネット通販市場の成長と物流施設利用の方向性(2)~市場成長分野に呼応した物流施設ニーズの変化

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1――はじめに

前回のレポート1で示したとおり、インターネット通販市場の拡大は、ネットショッピングの利用率上昇と、支出の多いミドル・シニア層の拡大に支えられ、継続すると思われる。ただし、ラストワンマイルを支える宅配便における深刻な人手不足等が阻害要因となり、市場の成長スピードが鈍化することも懸念される。

そこで、本稿では、インターネット通販市場において、成長余地の大きい分野に着目し、物流施設利用の方向性を考察する。
 
1 吉田資『インターネット通販市場の成長と物流施設利用の方向性(1)』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2018年7月30日
 

2――インターネット通販の成長分野と物流施設利用

2――インターネット通販の成長分野と物流施設利用

1|成長余地が大きい分野
(1) 食料品を取り扱うネットスーパーの成長可能性
今後、インターネット通販の市場において、どの分野の成長余地が大きいだろうか。図表1は、市場規模とEC化率2の関係を示したものである。図表1から「食品・飲料・酒類」(市場規模;約65兆円、EC化率;2.4%)は、市場規模が大きく、かつインターネット通販による購入が浸透していないことが分かる。また、消費期限の短い「食品・飲料・酒類」は、そもそもあまりシェアしないので、シェアリングエコノミー拡大の影響は受けないと思われる。こうした観点から、「食品・飲料・酒類」は、インターネット通販の成長余地が大きいと考えられる。

「食品・飲料・酒類」を取り扱うインターネット通販の事業主体の1つに、ネットスーパーがある。一般的に、ネットスーパーの特徴は、1)サービスの範囲が実店舗近辺に限定されていること、2)取扱商品は「食品・飲料・酒類」のほか日用品などの生活必需品が中心であること、3)注文された商品の配達は即日・翌日が大半であること、4)主な利用者は、共働き世帯や子育て中の主婦層であるといった特徴が指摘される3
図表-1  市場規模とEC化率の関係
現在、主なネットスーパーとして、イトーヨーカ堂が運営する「イトーヨーカドーのネットスーパー」(サービス展開地域;24都道府県)、イオンの「おうちでイオン イオンネットスーパー」(45都府県)、西友の「SEIYUドットコム」(16都道府県)、等が挙げられる。

「平成29年スーパーマーケット年次統計調査報告書」によれば、ネットスーパーの開店率4は、全体で19.2%であるが、51店舗以上の店舗を展開している企業では47.2%に達しており、店舗数が増えるほど開店率が上昇する傾向にある(図表2)。今後の開店意向に関しても、51店舗以上の店舗を展開している企業の35.3%が「積極的」と回答しており、多店舗数運営の企業ほどネットスーパーの新規開店に積極的なようだ(図表3)。
図表-2 ネットスーパーの開店率/図表3 今後のネットスーパーの開店意向
ネットスーパーの主な利用者層として共働き・子育て世帯が挙げられる。総務省「国民生活基礎調査」によれば、18歳未満の子がいる世帯の母親のうち、「仕事あり」と回答した割合は増加傾向にあり、2017年は70.8%に達した(図表4)。仕事と家事を両立する母親が増える中で、インターネットで商品を注文し希望する時間帯に届けて欲しいというニーズは拡大していると考えられる。

また、日本政策金融公庫「平成28年度下半期消費者動向調査」によれば、「ネットスーパー・ショッピングサイト」を利用する理由として、「食料品を運んで貰える」との回答が最も多かった(図表5)。運転免許の自主返納等を行い、買物の負担が大きい高齢者が今後増える中で、食料品や日用品等の宅配ニーズはますます拡大すると思われる。

経済産業省「平成29年度電子商取引に関する市場調査」では、ネットスーパーは、「家事の簡素化・時間短縮・高齢者向け宅配ニーズといった、現在社会の変化に沿ったサービスであり、今後もニーズは継続する」と見込まれている。
図表-4 母親の就業状況/図表-5 ネットスーパーを利用する理由
消費期限の短い生鮮食料品等を取り扱うネットスーパーにおいては、配送サービス(迅速性・利便性、等)が特に重視される。インターネット通販事業者と、主に実店舗で販売を行う小売業者とは顧客獲得の観点では競合関係にあるが、配送サービスの充実等を意図して、連携・協働の動きが広がっている。

楽天は、2018年1月にウォルマートと戦略的提携をし、ウォルマートの子会社である西友と「楽天西友ネットスーパー」を2018年第3四半期までに立ち上げて運営する方針と発表した。西友「SEIYUドットコム」は「楽天西友ネットスーパー」へ移行し、楽天のネットスーパー事業「楽天マート」も今後、「楽天西友ネットスーパー」に統合する。統合にあたり、2018年内に、ネットスーパー専用の配送センターを設置し、配送件数を拡大する予定である5

ソフトバンクと同社傘下のヤフーもイオンと連携し、ネットスーパーを立ち上げる予定と報道されている。イオンの品揃えや物流網とヤフーのITノウハウを組み合わせて、食品や衣料品、日用品など幅広い品目を扱う予定としている。また、セブン&アイ・ホールディングスは、アスクルの通販サイト「ロハコ」に専用ページを設け、アスクルの配送網を活用する「IYフレッシュ」を2017年11月から東京都新宿区と文京区で開始した。セブン&アイ・ホールディングスの総合通販サイト「オムニ76」と「ロハコ」で相互送客7を実施して、顧客の獲得を目指すとしている。宅配便の現場では人手不足が深刻な問題となる中、「IYフレッシュ」の配送は、宅配便事業者に委託せず、自前(アスクルの物流子会社)で行う。

このような小売業者とインターネット通販事業者の連携・協働によって、配送の効率化と消費者の利便性が向上し、ネットスーパー市場の拡大に寄与すると思われる。
 
2 すべての商取引額(商取引市場規模)に対する電子商取引額の割合。
3 増田悦男『ネットスーパーの最近の動向と今後の展開』日本工業出版、流通ネットワーキング、2013年11月12日
4 (ネットスーパーを開店しているスーパーマーケット事業者数)÷(スーパーマーケット事業者総数)
5 ただし、直近では、ウォルマートは西友を売却し、日本での店舗運営から撤退するとの報道が出ている(2018年7月12日付、日本経済新聞)。
6 「イトーヨーカドーのネットスーパー」、「セブンイレブンのセブンミール」、「SEIBU SOGO e.デパート」等が掲載。
7 商品検索において、両サイトの商品情報が反映される仕組み。
(2) ネットスーパーの配送方法
ネットスーパーにおける配送方法は、「店舗出荷型配送」と「センター出荷型配送」に大別される(図表6)。「店舗出荷型配送」は、消費者からの注文情報が最寄りの店舗に伝えられ、店舗で荷造りを行い出荷する方法である。一方、「センター出荷型配送」は、注文情報が配送センターに伝えられ、そこから出荷する方法である。
図表-6  ネットスーパーにおける配送方法
「図表7」では、ネットスーパーにおける配送方法(「店舗出荷型配送」と「センター出荷型配送」)の特徴を、先行研究8を参考に、①初期投資額、②受注処理能力、③レスポンス(注文してから届くまでの時間)、④発送コストの4つの観点で整理した。

「店舗出荷型配送」は、実店舗のバックヤードを受注・梱包・発送業務等に活用するため、配送センターを開設するよりも、初期費用を低く抑えることができる。また、一般的に配送センターから配送するよりも、注文してから届くまでの時間が短くてすむ。

一方、「センター出荷型配送」は、ネットスーパーに関する物流業務(ピッキング、梱包等)に特化した専用の作業ライン(あるいはネットスーパー専用の配送センター)を設置することで、既存店舗の設備や人員を活用する「店舗出荷配送型」と比較して、受注処理能力(作業効率)は高い。また、作業の効率化に伴い、注文一件あたりの発送コストは、「店舗出荷型配送」よりも低く抑えられる。

ネットスーパーに参入する企業は、初期投資額を低く抑えることができるメリットを重視し、当初は「店舗出荷型配送」を選択する企業が多かった9。「店舗出荷型配送」は、実店舗のバックヤードのスペースの制約上、受注・梱包・ピッキング等に係わる専門設備の導入は困難であり、それらの作業については人手に依存せざるをえない。労働需給が極めて逼迫する中で、物流の現場では、物流施設内作業を行うパート従業員の確保が喫緊の課題となっている。人手の確保が難しい状況下において、今後「センター出荷型配送」を選択する企業が増えると思われる。

ネットスーパーの物流においては、多岐にわたる商品を迅速に入出荷することが求められることから、「センター出荷型配送」を選択する企業は、高機能な設備を有した物流施設に配送センターを設置すると考えられる。
図表-7 「店舗出荷型配送」と「センター出荷型配送」の比較
 
広垣光紀『ネットスーパーとチャネル戦略』釧路公立大学地域研究第23号、2011年
9 金弘錫『日本のネットスーパーのロジスティクス戦略に関する研究』高崎商科大学紀要第29号、2014年
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

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