2018年07月10日

2017年度生命保険決算の概要-低金利から始まる貯蓄性商品の減少と外債へのシフト

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――保険業績(全社)

2017年度の全社の保険業績を概観する。

生命保険協会加盟41社全社が、5月中に決算を公表した。41社合計では、新契約高は▲21.9%減少、保有契約高は▲1.8%減少となった。これらを、伝統的生保(14社)、外資系生保(16社)、損保系生保(4社)、異業種系生保等(6社)、かんぽ生命に分類し、業績を概観した。(図表-1)
【図表-1】 主要業績
「伝統的生保」(以下、大手中堅9社数値で表示)の新契約高は▲38.5%の減少(前年度は2.3%増加)となった。 2017年度は年初に予定利率の引き下げによる保険料の値上げあるいは、そもそも低金利の中で貯蓄性商品の販売停止などがあり、終身保険・個人年金などの貯蓄性商品の販売が大幅に減少した会社が多かったことによる。

保有契約高は▲4.2%と引き続き減少した(前年度は▲2.4%減少)。これに関連して新契約高とともに解約・失効の動きも気になるが、これについては開示しない会社が多くなってきたので詳細は不明だが、今のところ特段問題はないものと思われる。

また第三分野商品の増加で、従来の保険金額ベースの保有契約高に含まれない契約も増えているのであろう(今回は、詳細については省くが、保険料ベースでの保有契約高は微増)。

「外資系生保」は、新契約高が▲12.5%減少(前年度は▲0.8%減少)となったが、保有契約のほうは2.5%と(前年度は5.1%増加)引き続き増加した。

「損保系生保」は、新契約が▲9.6%減少(前年度は12.6%増加)で、保有契約は2.9%増加(前年度は5.7%増加)となった。

「異業種系生保等」は新契約が▲2.4%減少(前年度 5.0%増加)、保有契約は4.7%増加(前年度は6.4%増加)となった。

基礎利益は、6.6%増加(前年度は1.7%増加)した。ただし2016年度に、再保険収支・準備金積増しの影響により大幅に増加し、2017年度は反動で大きく減少している会社がいくつかある。41社のうちでは27社で基礎利益は増加している。
【図表-2】新契約年換算保険料(2017年度) 次に、新契約年換算保険料の状況を見たものが図表-2である(保険のニーズが死亡保障のみならず、医療や年金分野にも拡大しているところから、保険契約高のみでは保険業績を把握しづらくなってきた。この指標は、これらを反映する目的で、年払いに換算した保険料の額で新契約の規模を表示したものである。)。40社(かんぽ生命を除く。)合計で、個人保険は対前年▲3.0%減少した(前年度は▲0.6%減少)。

また個人年金は、▲51.3%減少(前年度は7.5%増加)となった。低金利下で貯蓄型の保険の販売を停止する会社があったり、保険料の値上げにより貯蓄効果の魅力がなくなったりしたことによるものと考えられる。

伝統的生保では、新契約高が保障金額ベースでは減少となる一方で年換算保険料ベースでは増加している。これが年換算保険料という指標の効能であり、特に第三分野の状況をみるのに便利である。第三分野については、引き続き進展しており、3.0%の増加(前年度は9.1%増加)となった。
 

2――大手中堅9社の収支状況

2――大手中堅9社の収支状況

以下で、特に収支上のシェアが大きい大手中堅9社合計の収支状況をみていくことにする。
1基礎利益は増加
2017年度までの資産運用環境は図表-3の通りである。

国内の株価については、日経平均株価18,909円で始まったあと、海外の政治情勢などで不安定な時期も経て、2018年1月には24000円を超えるなど、年度を通しては好調で、年度末にかけては若干下がったが21,454円と13.5%の上昇となった。
【図表-3】運用環境 国内金利については、引き続きゼロに近いところで推移し、2017年度末は0.04%となった。

為替については、対米ドルでは、年度末にかけて円高・ドル安が進み、106.24円となった。対ユーロでは政治リスクとの関連で時期によって上下したが、年度末には130.52円と、年間通してみると結局は円安の方向に進んだ。
【図表-4】有価証券含み益(大手中堅9社計) こうした状況を反映して、図表-4に示した通り、国内大手中堅9社で見ると、国内株式の含み益が1.5兆円増加したものの、国内債券の含み益が▲0.1兆円減少し、外国証券含み益も▲0.6兆円減少した。有価証券合計では0.9兆円増加した。
【図表-5】基礎利益の状況(大手中堅9社計) そうした中、2017年度の基礎利益は23,332億円、対前年度8.1%増加となった。(図表-5)  (基礎利益とは、生命保険会社の基本的な収益力を表わす利益指標で、銀行の業務純益に相当する。保険契約から生みだされる収支や、資産運用損益のうちの利息・配当金等、比較的安定的なものだけを含めており、有価証券の売却損益等は含まない。) 逆ざやについては、2013年度に9社合計で利差益に転じた後、拡大し続けていたが、ほぼゼロ金利の状況が長引いている影響もあり、2016年度はいったん減少に転じた。しかし、2017年度は再び増加して、逆ざや解消後最高水準となった。危険差益・費差益は、引き続き減少しており、これは保有契約の減少に伴うものと考えられる。
【図表-6】3利源の状況(開示7社計) 3利源を公表している7社だけの合計金額を見たものが図表-6である。危険差益は、▲4.5%減少(前年度は▲0.0%減少)と引き続き減少し苦しい状況にある。先に述べた保有契約の減少による影響がそのまま現れたものと考えられる。一方で危険差益のうち、保有契約高に表れない第三分野商品の利益は、現時点では増加基調にあると推測される(そうした内訳は開示されないので、推測にすぎないが)。

一方、費差益については、55.2%(前年度は▲26.0%減少)と大きく増加した。費差益とは、簡単に言えば、収入保険料のうち事業費を賄うための付加保険料と、実際の事業費支出の差である。金額の大きさで見ると、近年は危険差に比べて小さくなってしまったものの、それだけに年度により大きく増減する傾向が見られる。事業費そのものは、ほぼ横ばいで、会社によっては費差損にもなっているような状況では、付加保険料収入のちょっとした変動などで費差益が大きく動いているとも考えられるが、今のところこれ以上詳細な分析は困難である。
【図表-7】利差益の状況(大手中堅9社計) 2利差益は逆ざや解消以降最高水準
利差益について、さらに詳しく分析してみた。(図表-7 、8)

用語の混乱を避けるため、「基礎利回り」-「平均予定利率」、を計算し、それがプラスのとき「利差益」、マイナスのとき「逆ざや」と呼んでいたものである。(あるいはこれに責任準備金を乗じた金額のこともそう呼ぶ。)
【図表-8】利差益(逆ざや)状況の推移(9社計) 「基礎利回り」とは、基礎利益のうち資産運用損益にかかわる部分であり、これが契約者に保証している利率(予定利率)を下回る状態を逆ざやと言っていたのであった。 

2008年度を底として、2012年度まで逆ざやであったものが、2013年度から利差益に回復し、2017年度は6,150億円と回復後最高水準となった(一部の会社はまだ逆ざやであるが、それも減少傾向にある。)。

「平均予定利率」は、保有している保険契約の負債コストを表すことになるが、過去に契約した高予定利率の契約が減少していくことにより、毎年緩やかな低下を続けている。現在の新規契約の予定利率は、1%未満であるものが主流であることから、今後もしばらく低下傾向は続くだろう。

一方、「基礎利回り」は、0.07ポイント上昇した。主要な構成要素である利息配当金収入合計は多くの会社で増加した。運用資産の中でも中心となる国内債券に関しては、超低水準の金利が続いているので、保有債券の年限などにもよるが、利回りは低下傾向にあると思われる。今後も利息収入にじわじわと悪影響をもたらすことになるだろう。そうした状況に対し、外貨建債券などへのシフトもすすんでおり、利息減少を補って余りあるものとなっている。

なお、ヘッジ付外債については「利息収入は基礎利益としてカウントする一方、ヘッジコストはキャピタル損益に含める」のが一般的な計上ルールとなっていることから、基礎利益だけが大きくみえる表示となっているので、注意が必要ではある。
また、次年度の利差益ひいては基礎利益については、何社かは今後減少傾向にあると予想しているようであり、将来にむけて決して楽観はできないようである。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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