2018年06月25日

シェアリング志向が強いのは誰?-安く買いたい若者だけでなく、堅実な公務員、合理的な高年収男性でも強い

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~経済指標はふるわないが、シェア市場の拡大と多様化で消費者の暮らしは充実?

図表1 シェアリングエコノミー(共有経済)国内市場規模推移と予測 経済指標で見ると個人消費は力強さに欠けるが1、消費者の暮らしは意外と充実しているのではないだろうか。成熟した消費社会では、安価で高品質な商品やサービスがあふれ、お金をあまり出さなくても、ひと昔前よりもハイレベルな消費生活を送ることができる。
その最たるものがシェアリングサービスだ。シェアリング市場は拡大が続く(図表1)。当初は、カーシェアなどの「モノ」の共有という印象が強かったが、現在では「スペース」や「ヒト」、「スキル」、「お金」にまで広がっている(図表2)。また、「個人が使っていないモノをシェアする」という考え方が広まることで、事業者は、サイトやアプリなどを介して、シェアしたい個人をマッチングすることに徹し、実際の売買はシェアしたい個人の間で行う個人間売買の勢いも増している2

シェアリング志向が強い消費者とは、どのような層なのか。本稿では、生活者1万人を対象とした調査データを用いて、その特徴を見ていきたい。
図表2 シェアリングサービスの事例
 
1 例えば総務省「家計調査」の二人以上世帯の消費水準指数(2015年=100)は2015年10月以降、100を下回る月が続く。
2 フリマアプリの代表格「メルカリ」は2013年6月のサービス開始から現在までにダウンロード数は国内で7,000万超、出品数は100万点超(株式会社メルカリHPより)。
 

2――消費者の持つ主な志向~生活者1万人調査より20~70歳代男女の消費志向は7つに要約

2――消費者の持つ主な志向~生活者1万人調査より20~70歳代男女の消費志向は7つに要約

そもそも消費者は、モノやサービスを購入する際、どのような志向を持っているのだろうか。まず、全体像を把握した上で、シェアリング志向に関わる部分に注目したい。

ニッセイ基礎研究所が実施した調査3では、消費行動に関わる27の項目をあげ、それぞれどの程度あてはまるか、「とてもあてはまる」「あてはまる」「まぁあてはまる」「どちらともいえない」「あまりあてはまらない」「あてはまらない」「まったくあてはまらない」の7段階の選択肢を用意した。得られたデータに対して消費志向についての要因分析を行ったところ、20~70歳代の男女の消費志向は、「価値観・ライフスタイル重視」志向や「安価重視」志向、「中古・シェア」志向、「衝動買い」志向、「堅実・慎重」志向、「電子決済」志向、「情報収集」志向の7つに要約されることが分かった。これらは各要因を構成する主な変数から命名しているが、詳細は付表1を参照頂きたい。

本稿では、この中で特に「中古・シェア」志向について見ていく。「中古・シェア」志向を構成する主な変数には、「中古品でも、気にしないで買う方だ」、「ネットを通じて個人からものを買うことに抵抗はない方だ」、「ものは買うより、できるだけレンタルやシェアで済ませたい」のほか、「買い物はできるだけインターネットで済ませたい」などがある。これらより、ネットオークションやフリマアプリを介した中古品などの個人間売買やシェアリングサービスの利用に積極的であり、そもそも買い物はできるだけネットで済ませたい、という考えが強い様子が読み取れる。
 
3 「家計消費と生活不安に関する調査」、調査対象:全国の20~70歳代の一般個人、調査手法:ネットリサーチ、実施時期:2017年4月、調査機関:株式会社マクロミル、有効回答数10,305(男性5,153、女性5,152)
 

3――「中古・シェア」志向が強いのは誰?

3――「中古・シェア」志向が強いのは誰?

1性年代別に見た違い~中古や個人間売買への抵抗が弱く、できるだけネットがいい男性や若者で強い
「中古・シェア」志向について性別や年代による違いを見ると、いずれの年代でも女性より男性の方が強く、男女とも若いほど強くなっている(図表3)。
図表3 性年代別に見た「中古・シェア」志向の強さ なお、このほか、前述の消費志向のうち、女性より男性で強いものには「電子決済志向」が、若いほど強い傾向があるものには「安価重視」志向や「衝動買い」志向、「情報収集志向」がある。ただし、男性では「安価重視」志向は30歳代で、「情報収集志向」は40歳代で最も強くなっている。

「中古・シェア」志向は、なぜ男性や若者で強いのだろうか。「中古・シェア」志向を構成する主な変数について、性年代別に、あてはまる割合(「まぁあてはまる」以上の選択割合)を見ると、いずれの変数においても、女性より男性の方があてはまる割合は高く、特に「中古品でも気にしない(略記、他も同様)」(男性が+9.5%pt)や「できるだけネット」(+6.8%pt)、「ネットの個人間売買に抵抗はない」(+5.3%pt)で差がひらいている4

年代別には、いずれも若いほどあてはまる割合は高いが、20歳代と70歳代の差は「ネットの個人間売買に抵抗はない」(20歳代が+18.7%pt)、「できるだけネット」(+16.3%pt)、「中古品でも気にしない」・「できるだけレンタルやシェア」(いずれも+12.8%pt)の順に大きい5

つまり、男性は女性ほど中古品を気にしない。また、男性や若者は店舗よりネットでの購入を好む傾向があり、ネットでの個人間売買への抵抗が弱い。さらに、若者は安価なものを求めて情報収集をしている。これらが男性や若者で「中古・シェア」志向が強い背景にある。なお、実際のネットオークションやフリマアプリの利用率を見ても、女性より男性の方が高く、高年齢層では低い傾向がある6。ただし、20歳代で最も高いわけではなく、ネットオークションは30~40歳代、フリマアプリは30歳代の方が高い。
 
4 「中古品でも気にしない」は男性41.4%、女性31.9%、「できるだけネット」は男性30.5%、女性23.7%、「ネットの個人間売買に抵抗ない」は男性38.7%、女性33.4%、「できるだけレンタルやシェア」は男性13.3%、女性11.2%。
5 「ネットの個人間売買に抵抗ない」は20歳代38.9%、70歳代20.2%、「できるだけネット」は20歳代31.8%、70歳代15.5%、「中古品でも気にしない」は20歳代41.7%、70歳代28.9%、「できるだけレンタルやシェア」は20歳代17.5%、70歳代4.7%。
6 過去3ヶ月のネットオークションの利用率は男性55.2%、女性38.4%、20歳代44.8%、30歳代51.0%、40歳代52.3%、50歳代50.4%、60歳代36.0%、70歳代33.3%、フリマアプリの利用率は男性44.0%、女性36.8%、20歳代44.5%、30歳代47.5%、40歳代36.1%、50歳代41.9%、60歳代23.6%、70歳代14.7%。
2職業別に見た違い~中古でも良い学生や公務員で強く、専業主婦は弱い
「中古・シェア」志向を職業別に見ると、男女とも「学生」で最も強く、次いで「公務員」が強い(図表4)。3位は、男性は「民間正規」、女性は「自営業・自由業」である。
図表4 職業別に見た「中古・シェア」志向の強さ 「中古・シェア」志向が強い層について、志向を構成する主な変数があてはまる割合を見ると、「学生」は「できるだけネット」や「中古品でも気にしない」が、「公務員」は「中古品でも気にしない」が、「民間正規」は「ネットの個人間売買に抵抗はない」や「できるだけネット」が高い7

さらに、他の消費志向の特徴を見ると、「学生」は「情報収集」志向が、「公務員」は「堅実・慎重」志向や「電子決済」志向が、男性の「民間正規」は「電子決済」志向が強い傾向がある8

これらを見ると、「学生」と「公務員」では「中古品でも気にしない」背景は異なるようだ。「学生」はネット購買を好み、ネットの口コミなど多くの情報を見た上で中古品でも気にしない。一方で「公務員」は、堅実・慎重な消費態度から中古品でも気にしないという様子が窺える。また、男性の「民間正規」では、男性全体と同様、ネット購買を好み、ネットの個人間売買に抵抗が弱い。男性全体の過半数を「民間正規」が占めているため、男性全体に「民間正規」の特徴が色濃く現れたようだ。
図表5 年代別に見た女性全体と専業主婦の「中古・シェア」志向の強さ 女性では「無職・専業主婦」で「中古・シェア」志向が目立って弱い。これは「中古・シェア」志向の弱まる高年齢層が多い(50代以上が半数)影響もあるが、専業主婦では、年代によらず、女性全体と比べて「中古・シェア」志向が弱い傾向もある(図表5)。

一方で、実際のフリマアプリの出品状況や購入者とのやりとりを見ると、例えばメルカリでは、主婦が子どもの着なくなった洋服やおもちゃといった家庭の不用品を売買する状況なども散見される。このギャップは何だろうか。

これまでと同様に、主な変数があてはまる割合を見ると、「無職・専業主婦」では女性全体と比べて、唯一「できるだけレンタルやシェア」(+2.2%pt)がやや高い9。その他はいずれも女性全体を下回り、特に「ネットの個人間売買に抵抗はない」(▲5.7%pt)では差がひらく10。なお、他の消費志向については、「無職・専業主婦」では女性全体より「電子決済」志向が弱い11ものの、その他は際立った特徴はない。

つまり、専業主婦では家計の節約意識などからか、できるだけレンタルやシェアを利用する意識がやや高いものの、ネットの個人間売買には抵抗が強い。裏を返すと、ネットの個人間売買における信頼性や安全性が担保されるのであれば、レンタルやシェアを積極的に利用する層とも言える。専業主婦に利用が広がるフリマアプリは、信頼性や安全性を上手く訴求できた結果なのかもしれない。
 
 
7 いずれも全体と比べて、あてはまる割合が5%以上高いもの。
8 男性全体が0.110に対して、「民間正規」は0.276。
9 「できるだけレンタルやシェア」は女性全体11.6%、無職・専業主婦13.8%。
10「ネットの個人間売買に抵抗はない」は女性全体40.6%、無職・専業主婦34.9%
11 女性全体が-0.110に対して、「民間正規」は-0.236。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

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