2018年06月14日

どうなる、再生可能エネルギー!-エネルギー基本計画から読み解く

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也

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1――はじめに

再生可能エネルギー(以降、再エネ)とは、化石燃料のような有限な資源から生み出されるエネルギーではなく、自然界に常に存在する太陽光や風力、比較的短期間に再生可能なバイオマスといった、枯渇しない資源から生み出されるエネルギーのことだ。発電時には地球温暖化の原因となる二酸化炭素をほとんど排出しないため、環境に優しいエネルギーとして世界中から注目が集まっている。脱炭素化が国際的な潮流となる中、日本の再エネ開発はどうなっているのであろうか。ここでは、エネルギー政策の基本的な方針を示した「エネルギー基本計画」を中心に、再エネ開発の現状と課題、今後の方向性について整理を試みる。
 

2――エネルギー基本計画の改訂が迫る

2――エネルギー基本計画の改訂が迫る

1|日本のGHG排出削減目標は、2030年▲26.0%、2050年▲80%
2016年4月、2020年以降の温室効果ガス(以下、GHG1)排出削減等のための新たな国際枠組み「パリ協定」が発効した。パリ協定では「世界の平均気温上昇を工業化以前から摂氏2度以内に抑える」という「2度目標」を長期的な目標として規定している。協定に参加した各国は「2度目標」を達成するため、独自のGHG排出削減目標を国連気候変動枠組条約事務局に提出した。2015年7月、日本も「GHGを2030年度に2013年度比▲26.0%削減する」という削減目標を提出している。このGHG排出削減目標は、各国で独自に決められたものであるため、基準年や目標水準が国によって異なる。米国2は2005年を基準年として2025年までに▲26%~▲28%削減することを目標としており、EUは1990年を基準年として2030年までに▲40%削減することを目標としている。
(図表1) 主要国地域のGHG排出削減状況 主要国地域のGHG排出削減状況を見ると、2014年時点におけるEUの削減率は1990年比▲24.3%であり、EUがこの分野におけるリーダー的存在となっていることが分かる(図表1)。日本については、2013年をピークに減少が始まっており、2016年時点で2013年度比▲7.3%と削減が進んでいる(図表2)。現在の削減ペースが続けば、2030年に▲26%削減という目標も達成可能な状況だ。
(図表2) 日本のGHG排出削減状況 主要国地域に限ればGHG排出削減は進展が見られるものの、世界全体で見ると満足できるものではない。国連環境計画の調査によると、パリ協定の参加国の目標を全て積み上げたとしても、「2度目標」の達成に必要なGHG排出削減量には達していないという。そのため2050年までに、先進国全体で▲80%削減することの必要性について認識が共有されている。日本もこの水準を目標としてGHGの排出削減を進めることとなる。まもなく閣議決定される「第5次エネルギー基本計画(以下、第5次計画)」は、このような文脈の中で策定されるものである。
 
 
1 GHGは、Greenhouse Gasの略。
2 米国は2017年6月、トランプ大統領がパリ協定からの離脱を表明している。
2エネルギーミックス3は据え置き、再エネ目標は2030年22~24%程度
エネルギー基本計画は、2002年6月に成立したエネルギー政策基本法に基づいて策定される。2003年10月に最初の計画が策定されて以降、3年ごとに改定されており、2007年3月に第2次計画、2010年6月に第3次計画、2014年4月に第4次計画が策定されている。今次改定は4度目の改定となる。

第5次計画における再エネの位置づけは「長期を展望した環境負荷の低減を見据えつつ活用していく重要な低炭素の国産エネルギー源」である。注目された2030年のエネルギーミックスは、再エネ比率を第4次計画と同じく22~24%程度に据え置くことが決まった(図表3)。内訳については、水力8.8~9.2%程度、太陽光7.0%程度、バイオマス3.7~4.6%程度、風力1.7%程度、地熱1.0~1.1%程度となる。
(図表3) 2030年のエネルギーミックス
 
3 エネルギーミックスとは、将来のエネルギー需給構造の見通し(将来の電源構成)を示したもの。
 

2――再エネの普及は第2フェーズへ

2――再エネの普及は第2フェーズへ

1太陽光が再エネ拡大を牽引
再エネの普及状況については、太陽光が突出している。太陽光の設備導入量4は、2012年からの5年間で約6.6倍まで拡大した(図表4)。再エネ全体の増加率のうち約95%は太陽光の増加によるものである。また、2016年11月時点における太陽光の認定量5は、2030年のエネルギーミックスの水準も超過している。地熱や風力の認定量が6割に満たないのとは対照的な状況だ。太陽光がここまで急速に拡大してきた背景には、2つの要因が考えられる。
(図表4) 電源別設備導入量
1つ目の要因は、固定価格買取制度(通称、FIT法6)である。FIT法とは、再エネで発電された電気を一定価格で買取ることを、政府が電気事業者に義務付けた制度のことだ。再エネの開発事業者は、この制度を利用することで以前よりも正確に売上予測をすることが可能となり、プロジェクトリスクを大幅に軽減することができた。しかも、非住宅用10kWh以上の太陽光については、20年以上と言う破格の保障期間が付いていた。2012年7月に政府がFIT法を施行して以降、太陽光の普及ペースは加速している。FIT法は投資リスクを低減することで、太陽光の普及に大きく貢献してきたと言えるだろう。

2つ目の要因は、太陽光が他の再エネと比較して大規模開発しやすく、地産地消しやすいという特徴である。例えば、太陽光が広い敷地さえあれば比較的容易に開発可能であるのに対し、風力や地熱は資源に偏在性があるため、開発適地を見つけることが難しい。また、太陽光は住宅地や都心郊外などに設置することで、発電した電力をその場で消費することもできる。設備も風力のような稼動部を持たないため、設置後のメンテナンスも容易である。これらの特徴は、再エネ開発における太陽光の優位性と言えるだろう。
 
 
4 設備導入量とは、固定価格買取制度の認定を受けて設置を完了させ、実際に稼働している発電施設の容量のことである。
5 認定量とは、国が固定価格買取制度に基づいて、再エネ発電設備として認定した発電設備量のことである。
6 FIT法は、Feed-in Tariffの略。
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総合政策研究部   准主任研究員

鈴木 智也 (すずき ともや)

研究・専門分野
日本経済・金融

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