2018年06月15日

関係先企業の株価収益率に基づく投資戦略-商流データに基づく先行研究との比較

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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3分析結果(日次)
次に、前営業日の関係企業の株価収益率が高い順に分析対象企業を5分割(G1~G5)し、毎営業日、各Gのポートフォリオを、そのGに分類された銘柄を等しい割合で保有するよう組み換える。これを繰り返した場合の日次収益率を求めた結果、やはり先行研究と同様の傾向が確認できた。前営業日までに関係企業に関するポジティブな情報が多い企業ほど、株価収益率が高い傾向がある(図表4)だけでなく、G1ポートフォリオの価値は、初めの3営業日を除いて、常にG5ポートフォリオ価値を上回る(図表5)。G1を購入し、G5を売却することで得られる収益率(G1とG5の日次収益率の差分)は、日率4.2bpで、月率換算すれば0.83%(年率10.0%)になる。収益率の統計的有意性も極めて高い(t値は3.37、有意水準1%でも、収益率が0%ではないと判断可能)。

日次で分析した結果も、関係企業に関するネガティブ(ポジティブ)な情報に対する市場の反応は鈍く、情報が公表された後、株価は徐々に下落(上昇)するという仮説を支持する。しかし、日次で売買すると、回転率次第だがその分売買コストも嵩むため、超過収益獲得機会はあまり期待できないと思われる。
図表4:5分位ポートフォリオの日次収益率/図表5:ポートフォリオ価値の推移(日次)
では、関係企業の株価収益率がその後の超過収益獲得に役立つ期間はどれくらいあるのだろうか。そこで、前営業日の関係企業の株価収益率に代えて、2営業日前から20営業日前の関係企業の株価収益率を用いた場合、それぞれの収益率(G1とG5の日次収益率の差分)を求めた(図表6)。前営業日の関係企業の株価収益率を基準にポートフォリオを構築した場合の収益率4.2bpに対して、2営業日前の株価収益率を基準にポートフォリオを構築した場合の収益率は、2.7bpである。3営業日前を基準にした場合は1.5bpで、かろうじて統計的有意と判断できる程度である。4営業日前~8営業日前を基準にした場合は、プラスの収益率となっているものの、統計的有意とは判断できない。9営業日前を基準にした場合、収益率は1.8bpとなり、かろうじて統計的有意と判断できる水準まで回復するが、10営業日前を基準にした場合は、マイナスの収益率に転じる。15営業日前、17営業日前、20営業日前を基準にした場合の収益率も、かろうじて統計的有意と判断できる水準になるが、それ以前にマイナスの収益率に転じている。以上を踏まえれば、関係企業の株価収益率がその後の超過収益獲得に役立つ期間はせいぜい2週間ではないだろうか。
図表6:基準日別収益率(G1とG5の差分)

4――先行研究との比較(今後の課題)

4――先行研究との比較(今後の課題)

今回の分析では、株式持合の関係企業の株価収益率に基づく戦略が有効な期間はせいぜい2週間と短いということが分かった。しかし、販売先企業の株価収益率に基づく先行研究によると、同じ戦略が有効な期間は1年近くに及ぶ。この相違はどこから生じるのだろうか。そこで、先行研究と今回の分析との相違を整理し、今後の課題を明らかにする。

1企業間の関係
先行研究は、企業間の販売・仕入といった事業に直結した取引関係に着目している。これに対して、今回の分析は、日本の企業社会に残る「株式持合」関係に着目している。しかし、「株式持合」関係にある企業間には、継続的取引関係がある場合が多いことから8、関係企業の株価収益率に基づく戦略が有効な期間が大きく相違する原因は、着目する関係の違いではないと筆者は考えている。ただし、先行研究は、取引先企業のうち、販売先企業の株価収益率のみを参考にするのに対し、今回の分析では仕入先企業も含め、関係が有る企業全ての株価収益率を参考にしている(図表7)。企業間の関係に原因があるなら、商流の方向性を加味するか否かの違いであろう。
図表7:参考にする企業範囲の相違
2間接的な関係
先行研究は、直接、商品やサービスを販売している企業の株価収益率のみを参照している。これに対して、今回の分析は、株式持合関係にある企業だけでなく、直接持合関係にはないが間接的に関係する企業の株価収益率も参照している(図表7)。しかし、間接的な関係も考慮するか否かも、関係企業の株価収益率に基づく戦略が有効な期間が大きく相違する原因ではないと筆者は考えている。投資家の情報収集・集約能力には限界がある以上、関係性の乏しい企業の情報ほど、市場の反応は遅れるはずだ。仮に、先行研究より今回の分析の方が、関係企業の株価収益率がその後の株価収益率の予測に役立つ期間が長いならば、間接的な関係まで含めたことに起因したとも考えられるが、実際はその逆である。
3分析対象時期と対象市場
先行研究は、1981年から2004年の米国株式市場を対象に分析している。これに対して、今回の分析は、2013年4月から2018年3月までの国内株式市場を対象としている。関係企業の株価収益率に基づく戦略が有効な期間が大きく相違する原因が、対象市場の相違にある可能性はほぼないと思われる。というのも、販売先企業や関係企業の株価収益率がその後の株価収益率の予測に役立つ根本的要因は、投資家の情報収集・集約能力の限界にある。対象市場の相違が原因なら、米国株式市場の参加者の情報収集・集約能力が、国内株式市場の参加者に比べて相当劣っていることになる。情報収集・集約能力という点に注目すれば、むしろ分析対象時期の相違が、戦略の有効性に大きく関係した可能性が高い。情報開示制度の充実や、技術の進展に伴い、情報収集・集約能力が向上したと考えられるからだ。
 
販売先企業や関係企業の株価収益率がその後の株価収益率の予測に役立つ期間が大きく相違する原因は、商流の方向性を加味するか否かにあるかもしれない。しかし、筆者は、情報開示制度の充実や、技術の進展による情報収集・集約能力の向上こそ重要と考え、分析時期の相違に着目した更なる分析が必要と考える。
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2018年06月15日「基礎研レポート」)

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