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2018年06月11日
ユーロ圏経済の拡大は持続。1~3月期は特殊要因も影響し実質前年比0.4%に減速
ユーロ圏では、17年に比べて速度は落ちているものの、景気の拡大が続いている。
6月7日公表の1~3月期の実質GDP(速報値)は、暫定速報値と同じ前期比0.4%と、5四半期にわたった同0.7%から減速した。需要項目別に見ると、個人消費の伸びが10~12月期の前期比0.2%から同0.5%に加速、寄与度は同0.1%から同0.3%に回復する一方、固定資本投資の伸びは同1.3%から同0.5%、寄与度は0.3%から同0.1%に鈍化した。さらに、輸出の伸びは同2.2%から同マイナス0.4%、寄与度は1.0%からマイナス0.2%となり、外需は成長の押し下げ要因となった(図表1)。
1~3月期の減速には複数の要因が働いた。まず、記録的な寒波やイースターの日程などの特殊要因があった。17年の成長を押し上げた世界的なIT関連需要も鈍化した。さらに、欧州中央銀行(ECB)の緩和縮小観測を背景にユーロ高が進んだ(図表2)。17年末にかけて高い需要の伸びが続いた反動で、人手や設備不足という供給面での制約も強まった(図表3)。寒波は固定資本投資、需要の鈍化とユーロ高は輸出に影響したと思われる。
6月7日公表の1~3月期の実質GDP(速報値)は、暫定速報値と同じ前期比0.4%と、5四半期にわたった同0.7%から減速した。需要項目別に見ると、個人消費の伸びが10~12月期の前期比0.2%から同0.5%に加速、寄与度は同0.1%から同0.3%に回復する一方、固定資本投資の伸びは同1.3%から同0.5%、寄与度は0.3%から同0.1%に鈍化した。さらに、輸出の伸びは同2.2%から同マイナス0.4%、寄与度は1.0%からマイナス0.2%となり、外需は成長の押し下げ要因となった(図表1)。
1~3月期の減速には複数の要因が働いた。まず、記録的な寒波やイースターの日程などの特殊要因があった。17年の成長を押し上げた世界的なIT関連需要も鈍化した。さらに、欧州中央銀行(ECB)の緩和縮小観測を背景にユーロ高が進んだ(図表2)。17年末にかけて高い需要の伸びが続いた反動で、人手や設備不足という供給面での制約も強まった(図表3)。寒波は固定資本投資、需要の鈍化とユーロ高は輸出に影響したと思われる。
国別には、ドイツが10~12月期の前期比0.6%から同0.3%に、フランスが同0.7%から同0.2%と、2大国がともに大きく減速したことが響いた。他方、成長速度が緩慢なイタリアは同0.4%から同0.3%への減速で持ちこたえた。主要国で最も早いペースの拡大が続くスペインは、前期と同じ同0.7%を維持した(図表4)。8月に欧州安定メカニズム(ESM)からの支援を予定するギリシャも同0.8%と高い伸びだった。15年夏の国民投票を巡る混乱で回復が最も遅れたギリシャでも、17年入り後、ようやく回復が定着するようになった。それでも、実質GDPの水準は世界金融危機前のピークのおよそ4分の3に留まっている。
4~6月期の反発力も弱いが、17年の成長加速の押上げ効果も働き18年も2.3%の高成長
4~6月期は、1~3月期の成長を下押しした特殊要因剥落が期待されたが、これまでのところ、反動による成長加速は見られない。
実質GDPと連動性が高い総合PMIの5月確報値は54.1で1年半ぶりの低水準だった(図表5)。
17年に比べて、18年に入ってからの成長速度は、明らかに鈍化しているが、このまま低下傾向が続き、景気後退局面に入ると見る必要はないだろう。総合PMIは、50を生産の拡大と縮小と分かれ目とする指標であり、5月時点でも、前期比0.4~0.5%に相当する。欧州連合(EU)の欧州委員会が推計するユーロ圏の潜在成長率は1.5%であり、潜在成長率を僅かに上回る速度を保っている。
18年は、17年末にかけて成長が加速したことがゲタとして働くことで、年間の成長率は2.3%と引き続き2%を超えるだろう。19年は、ゲタの押上げ効果縮小もあり、年間では1.9%に減速する。
緩和的な金融環境とやや拡張的な財政政策の下で、個人消費と投資が両輪となる内需主導となる見通しだ。
見通しに対する外部の下振れリスクは増大している。米国の利上げ観測が、アルゼンチンやトルコなど幾つかの新興国で資本流出の加速をもたらしていることに加えて、トランプ政権の保護主義政策の矛先はEUにも向いており、米国−EUの貿易戦争は現実味を帯びつつある。
域内の政治リスクは、一時的に市場の緊張をもたらすことはあっても、金融システムの混乱を通じて、域内景気に急ブレーキをかけることはないと考えている。
実質GDPと連動性が高い総合PMIの5月確報値は54.1で1年半ぶりの低水準だった(図表5)。
17年に比べて、18年に入ってからの成長速度は、明らかに鈍化しているが、このまま低下傾向が続き、景気後退局面に入ると見る必要はないだろう。総合PMIは、50を生産の拡大と縮小と分かれ目とする指標であり、5月時点でも、前期比0.4~0.5%に相当する。欧州連合(EU)の欧州委員会が推計するユーロ圏の潜在成長率は1.5%であり、潜在成長率を僅かに上回る速度を保っている。
18年は、17年末にかけて成長が加速したことがゲタとして働くことで、年間の成長率は2.3%と引き続き2%を超えるだろう。19年は、ゲタの押上げ効果縮小もあり、年間では1.9%に減速する。
緩和的な金融環境とやや拡張的な財政政策の下で、個人消費と投資が両輪となる内需主導となる見通しだ。
見通しに対する外部の下振れリスクは増大している。米国の利上げ観測が、アルゼンチンやトルコなど幾つかの新興国で資本流出の加速をもたらしていることに加えて、トランプ政権の保護主義政策の矛先はEUにも向いており、米国−EUの貿易戦争は現実味を帯びつつある。
域内の政治リスクは、一時的に市場の緊張をもたらすことはあっても、金融システムの混乱を通じて、域内景気に急ブレーキをかけることはないと考えている。
個人消費は雇用所得環境の改善を伴う拡大が続く
個人消費は、今後も、雇用所得環境の改善に支えられた拡大が見込まれる。ユーロ圏の失業率は、18年4月には8.5%まで低下(図表6)、レベルや緩急の差はあるものの、ユーロ導入国のすべてで失業率は改善傾向にある。企業の採用意欲を示す欧州委員会のサーベイ調査の雇用見通しDIは、18年に入って、建設業とサービス業は改善、製造業と小売業は悪化するなど、業種ごとのバラツキが見られるようになっている。それでも4業種のすべてがプラス圏、つまり雇用増を見込む割合が多く、雇用環境は世界金融危機前以来の良好な状態にある(図表7)。失業率の低下、雇用環境の改善を背景に、一人当たり雇用者報酬の伸びも緩やかながら上向いており、インフレ率を差し引いた実質雇用者報酬の伸びもプラス圏にある(図表8)。家計サーベイの失業見通しDIがマイナスに転じるなど、家計も雇用の先行きに対する明るい見通しを描いており、消費意欲も過去10年で最も高い水準を保っている(図表9)。消費の堅調持続を示唆する材料は多い。
設備不足、高稼働率、デジタル化対応需要から固定資本投資は設備投資中心の拡大続く
設備投資を中心に固定資本投資も拡大する見通しだ。1~3月期の固定資本投資の伸びが10~12月期に比べて鈍化した原因は、全体の3割強を占める機械設備投資の減少にある(図表10)。しかし、企業収益は好調で、製造業、サービス業ともに稼働率は長期平均を上回っている(図表11)。3~4月に実施された欧州委員会の「設備投資計画調査」でも、18年の計画は、昨年10~11月調査時点の実質前年比4%増から同7%増に上方修正されている(図表12)。後述のとおり、18年から19年にかけて、ECBは緩和拡大の停止から、緩和縮小の段階に進むが、著しく緩和的な金融環境が急激に変わる訳ではない。ユーロ圏内でも、デジタル化対応の需要は底堅いと見られる。
輸出には米国の輸入制限措置拡大で基調が変わるリスクが高まっている
輸出は、1~3月期に減少したが、米国を中心に世界経済の拡大が期待されることから、天候などの特殊要因の剥落、IT関連の調整の進展とともに持ち直すと期待される。
しかし、米国の輸入制限措置の拡大で、基調が変わるリスクは高まっている。当面のユーロ圏経済にとって、圏内の政治リスク以上の脅威と考えている。
トランプ政権の保護主義政策の最大のターゲットは、2017年の米国の貿易赤字が3756.7億ドルと圧倒的に大きく、産業政策で製造業主要国の先頭に立つ目標を掲げる中国だ。しかし、EU向けの貿易赤字も1530億ドルで、ドイツ向けは646.3億ドルに上る。新たな通商協議「FFR(free, fair, reciprocal)を開始した日本(697.2億ドル)、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉が難航しているカナダ(231.6億ドル)、メキシコ(762.5億ドル)同様、トランプ大統領は不公正な関係を正すべきと考えているようだ。
米国は、6月1日から、カナダ、メキシコとともにEUへの鉄鋼・アルミニウムの追加関税の適用除外を解除した。EUは、安全保障面で、北大西洋条約機構(NATO)を通じた同盟関係にある。安全保障上の理由を名目とし、貿易不均衡の是正につながるディール(取引)を引き出す米国の一方的な要求に応じることはできなかった1。
EUは、米国の鉄鋼・アルミニウムの輸入制限措置に関するWTOの紛争解決手続2、WTOのセーフガード協定のリバランス制度に基づく対抗措置を講じる。7月1日から、米国の輸入制限から生じる想定損失額64億ユーロ相当のうち、28億ユーロ相当に関税を課す。さらに3年以内かWTOの紛争解決手続きで違反が認定された段階で、36億ユーロ相当の関税を課す方針だ。対象品目は、オレンジジュースなどの農産物のほか、ハーレダービットソンのバイクやバーボン・ウィスキー、リーバイスのジーンズなど有力議員の地盤の米国を象徴する産品が選定されている。
1 米国とEUの通商交渉に関しては「強まるトランプ政権の通商圧力-EUは何か差し出すのか?」(Weeklyエコノミスト・レター2018-04-20)もご参照下さい。
2 米国の鉄鋼・アルミニウムの輸入制限については、6月11日時点で、中国、インド、カナダ、メキシコがWTOに紛争解決手続きを申し立てている。
しかし、米国の輸入制限措置の拡大で、基調が変わるリスクは高まっている。当面のユーロ圏経済にとって、圏内の政治リスク以上の脅威と考えている。
トランプ政権の保護主義政策の最大のターゲットは、2017年の米国の貿易赤字が3756.7億ドルと圧倒的に大きく、産業政策で製造業主要国の先頭に立つ目標を掲げる中国だ。しかし、EU向けの貿易赤字も1530億ドルで、ドイツ向けは646.3億ドルに上る。新たな通商協議「FFR(free, fair, reciprocal)を開始した日本(697.2億ドル)、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉が難航しているカナダ(231.6億ドル)、メキシコ(762.5億ドル)同様、トランプ大統領は不公正な関係を正すべきと考えているようだ。
米国は、6月1日から、カナダ、メキシコとともにEUへの鉄鋼・アルミニウムの追加関税の適用除外を解除した。EUは、安全保障面で、北大西洋条約機構(NATO)を通じた同盟関係にある。安全保障上の理由を名目とし、貿易不均衡の是正につながるディール(取引)を引き出す米国の一方的な要求に応じることはできなかった1。
EUは、米国の鉄鋼・アルミニウムの輸入制限措置に関するWTOの紛争解決手続2、WTOのセーフガード協定のリバランス制度に基づく対抗措置を講じる。7月1日から、米国の輸入制限から生じる想定損失額64億ユーロ相当のうち、28億ユーロ相当に関税を課す。さらに3年以内かWTOの紛争解決手続きで違反が認定された段階で、36億ユーロ相当の関税を課す方針だ。対象品目は、オレンジジュースなどの農産物のほか、ハーレダービットソンのバイクやバーボン・ウィスキー、リーバイスのジーンズなど有力議員の地盤の米国を象徴する産品が選定されている。
1 米国とEUの通商交渉に関しては「強まるトランプ政権の通商圧力-EUは何か差し出すのか?」(Weeklyエコノミスト・レター2018-04-20)もご参照下さい。
2 米国の鉄鋼・アルミニウムの輸入制限については、6月11日時点で、中国、インド、カナダ、メキシコがWTOに紛争解決手続きを申し立てている。
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