2018年06月05日

年金改革ウォッチ 2018年6月号~ポイント解説:高齢者雇用の見通しと課題

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

資金運用部会では、GPIFの業務方法書の変更が了承されました。以前に年金部会で了承されたものの具体化でしたが、専門の委員から実務上の留意点などが寄せられました。経済前提に関する専門委員会では、同委員会が用いる当面10年間の経済見通しや労働力率の見通しについて、最新の見通しや推計方法などが確認されました。
 
○社会保障審議会  資金運用部会
5月9日(第7回) GPIFの業務方法書の変更
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000205486.html (配布資料)
 
○社会保障審議会 年金部会 年金財政における経済前提に関する専門委員会
5月18日(第5回) ヒアリング(中長期の経済財政試算、労働力需給推計、金融政策と経済の関係)
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000207188.html (配布資料)
 

2 ―― ポイント解説:高齢者雇用の見通しと課題

2 ―― ポイント解説:高齢者雇用の見通しと課題

経済前提に関する専門委員会では、高齢者雇用の見通しが話題の1つになりました。本稿では、高齢者雇用*1の現状や過去の見通し、年金財政への影響を確認します。
 
 
*1 幅の都合で、以下では男性だけを取り上げます。女性は、未婚率などの要素を考える必要があるため複雑です。
1|現状と見通し:前回見通しの進展ケースに沿う形で、高齢者の労働力率が上昇中
今後、どれくらいの人がどのように働くのかは、年金財政の見通しを作る上で重要な前提になります。加入者や受給者の人数を見積もるために必要なだけではなく、将来の賃金上昇率や運用利回りの前提を作る際の経済モデルにも利用されます。
図表1 労働力率の推移と過去の見通し(前提) 雇用の見通しと言えば、子育て期の女性が話題の中心になりがちですが、高齢者も重要な話題の1つです。高齢者のうち働く意思を持つ人の割合(労働力率)の推移を見ると、長期的には公的年金制度の成熟などを背景に低下してきましたが、2000年代の半ばから上昇に転じています。

前回(2014年)に公表された年金財政の見通しでは、労働参加が進展するシナリオと横ばいのシナリオの2通りの前提が使われましたが、その後は進展するケース、いわば成長戦略の目標値に沿う形で、労働力率が上昇しています。高年齢者雇用安定法の影響を受ける60代前半だけでなく、60代後半でも上昇しています。

次回(2019年)の年金財政の見通しに使う前提は、専門機関でこれから検討されます*2。政府の新たな成長戦略のもと、どこまで伸びる見通しになるかが注目されます。
 
 
*2 独立行政法人労働政策研究・研修機構が行います。過去の推計は同機構のホームページで公開されています。

2|年金財政への影響:人数に加え、働き方も重要
年金財政への影響を考える際には、働き方もポイントとなります。例えば、働く人数が増えても労働時間が短ければ、経済成長への貢献は少なくなります。そのため、経済モデルでは総労働時間を考慮しています*3

加えて、どの程度の人が厚生年金の対象になるかや賃金の水準もポイントです。現在の仕組みでは、60歳以降に働いても、厚生年金の対象にならなければ年金財政への影響はありません。厚生年金の対象になれば年金財政に影響しますが*4、その程度は賃金の水準に依存します。

短時間労働者への厚生年金の適用が進められる中で*5、今後の高齢者の働き方がどのように見通されるかにも注目が必要です。
図表2 就業状態や雇用形態の推移
 
*3 専門委員会では、高齢者の時間あたりの生産性は低い可能性があり、考慮すべき、という意見が出されました。
*4 拙稿「最近の雇用情勢と公的年金財政への影響」『年金ストラテジー』,Vol.255 (2017年9月号)を参照。
*5 2016年10月と2017年4月に拡大され、加えて2019年9月までに、さらなる拡大について検討することになっています。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

(2018年06月05日「保険・年金フォーカス」)

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