2018年05月17日

2018・2019年度経済見通し(18年5月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.2018年1-3月期は年率▲0.6%と9四半期ぶりのマイナス成長

2018年1-3月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比▲0.2%(前期比年率▲0.6%)と9四半期ぶりのマイナス成長となった。

外需は前期比・寄与度0.1%(年率0.3%)と成長率を若干押し上げたが、民間消費(前期比▲0.0%)、住宅投資(前期比▲2.1%)、設備投資(前期比▲0.1%)の民間最終需要がいずれも減少したことに加え、民間在庫変動が前期比・寄与度▲0.1%(年率▲0.6%)と成長率を押し下げたことから、国内民間需要が6四半期ぶりに減少した。
企業部門主導の成長が続く 2018年1-3月期はマイナス成長となったが、2017年度の実質GDP成長率は1.5%となり、2016年度の1.2%から伸びを高めた。需要項目別には、海外経済の拡大、企業収益の改善を背景に輸出(2016年度:前年比3.6%→2017年度:同6.2%)、設備投資(2016年度:前年比1.2%→2017年度:同3.0%)の企業部門が前年度から伸びが加速した。一方、民間消費は前年比0.8%と2016年度の同0.3%からは伸びを高めたものの、引き続きGDP成長率を下回り、住宅投資は前年比▲0.3%(2016年度は同6.2%)と3年ぶりの減少となるなど、家計部門は低調な推移が続いた。
(IT関連中心に在庫調整圧力が高まる)
2018年1-3月期は実質GDPだけでなく、景気との連動性が高い鉱工業生産も前期比▲1.3%と8四半期ぶりの減産となった。1-3月期の生産活動の停滞は大雪の影響で一部の工場が操業停止となった影響もあるため、過度に悲観する必要はないが、これまで景気の牽引役となってきたIT関連財を中心に在庫調整圧力が高まりつつある点には注意が必要だ。

在庫循環図を確認すると、2017年4-6月期に「意図せざる在庫減少局面」から「在庫積み増し局面」に移行した後、3四半期続けて同一局面に位置したが、2018年1-3月期は景気のピークアウトを示唆する45度線を越えて「在庫積み上がり局面」に移行した。出荷指数が10-12月期の前年比3.1%から同1.5%へと伸びが鈍化する一方、在庫指数が10-12月期の前年比.1.9%から同3.9%へと伸びを高め、出荷指数の伸びを上回った。

在庫水準自体はそれほど高くないことから、現時点ではこのまま鉱工業全体が在庫調整局面入りするとはみていないが、IT関連財はすでに在庫調整局面入りしたと考えられる。

IT関連財の出荷・在庫バランス(出荷・前年比-在庫・前年比)は、出荷が前年比▲3.4%(10-12月期:同2.7%)と5四半期ぶりに低下する一方、在庫が10-12月期の前年比9.3%から同15.2%へとさらに伸びを高めたため、10-12月期の▲6.6%ポイントから1-3月期には▲18.6%ポイントへと悪化幅が拡大した。足もとのIT関連財の弱さは世界的なスマートフォンの販売不振による一時的な要因が大きく、データセンターや車載向けなどIT関連需要の拡大が裾野の広がりを伴ったものとなっていることを踏まえれば、在庫調整は短期間で終了することが見込まれる。

輸出が底堅さを維持していること、鉱工業全体では在庫調整圧力が限定的にとどまっていることなどから、現時点では4-6月期には増産に転じるとみているが、IT関連財の調整が長期化すれば、生産の足踏み状態が長引く恐れがあるだろう。
在庫循環図(鉱工業全体)/悪化するIT関連財の出荷・在庫バランス
(雇用者報酬の高い伸びをどうみるか)
2018年1-3月期の名目雇用者報酬は前年比3.2%と1997年4-6月期(前年比3.6%)以来、約20年ぶりの高い伸びとなったが、雇用者報酬の推計に用いられる基礎統計(「毎月勤労統計」(厚生労働省)、「労働力調査」(総務省統計局))の問題によって過大となっている可能性がある。
雇用者報酬の推移 「毎月勤労統計」の現金給与総額(一人当たり)は2017年10-12月期の前年比0.7%から2018年1-3月期には同1.4%へと伸びを高めたが、「毎月勤労統計」は2018年1月より、事業所規模30人以上の抽出方法が従来の2~3年に一度行う総入替え方式から毎年1月調査時に行う部分入替え方式に変更された。この際、総入替え方式の時に行っていた過去に遡った改訂が行われないことになったため、前年12月と当年1月の間には断層が生じやすくなっている。
現金給与総額の推移 参考資料として公表されている共通事業所(「前年同月分」及び「当月分」ともに集計対象となった調査対象事業所)による現金給与総額の伸びは1~3月期の平均で公表値よりも▲0.7%低くなっており、2018年1月以降の賃金の伸び(公表値)が過大となっている可能性があることを示唆している。
雇用形態別・雇用者数の推移 また、「労働力調査」の雇用者数の伸びも2017年10-12月期の前年比1.0%から2018年1-3月期には同2.0%へと急加速したが、その内訳を雇用形態別にみると、このところ正規雇用(正規の職員・従業員)の増加幅を下回っていた非正規雇用(非正規の職員・従業員)の急増が目立つ形となっている。「労働力調査(詳細集計)」によれば、役員を除く雇用者数の増加幅は10-12月期の前年差80万人増から1-3月期には同138万人増へと急拡大したが、このうち非正規雇用が100万人増(10-12月期は11万人増)となっており、正規雇用は38万人増(10-12月期は69万人増)にとどまっている。さらに、非正規雇用の内訳をみると、外国人留学生を含む学生アルバイトが前年差34万人増と1-3月期の雇用増全体の約4分の1を占めている。
賃金水準が相対的に低い非正規雇用、特に学生アルバイトの増加は、一人当たりの平均賃金の押し下げ要因となるはずだが、毎月勤労統計のパートタイム比率は前年からほぼ横ばいとなっており、毎月勤労統計の賃金には、労働力調査で見られた雇用の非正規化に伴う一人当たり賃金の低下圧力は反映されていない。GDP統計の雇用者報酬(賃金・俸給部分)は、主として雇用者数を「労働力調査」、一人当たり賃金を「毎月勤労統計」を用いて推計するため、両統計の動きが基本的にそのまま反映されることになる。雇用者報酬は個人消費の動向をみるうえで重要な指標であるが、2018年1-3月期は過大推計となっている可能性がある。雇用者報酬の高い伸びをもって先行きの個人消費を楽観的にみることは避けるべきだろう。
(高齢無職世帯の消費割合が高まる)
足もとの雇用者報酬が過大推計の可能性があるとはいえ、雇用所得環境が着実に改善していることは確かである。しかし、個人消費の動向を考える上では労働市場改善の影響を直接受けない年金生活者の所得環境を押さえておくことが重要だ。近年、高齢者の継続雇用が進んでいるが、それでも高齢化の急速な進展に伴い高齢無職世帯の割合は大きく高まっている。
高齢無職世帯の割合が高まる 総務省統計局の「家計調査」によれば、総世帯の集計が始まった2002年と直近の2017年を比較すると、総世帯に占める勤労者世帯の割合は55.6%から47.5%へと低下する一方、世帯主が60歳以上の高齢無職世帯の割合は24.6%から37.0%へと上昇している。また、世帯割合にそれぞれに消費額を掛け合わせることによって、総消費額に占める割合を求めると、勤労者世帯の消費割合が61.0%から52.9%へと低下する一方、60歳以上の高齢無職世帯の消費割合は19.7%から30.6%へと上昇している。高齢無職世帯の消費水準は勤労者世帯の約4分の3(2017年実績)であるため、その割合が増えれば世帯当たりの消費水準は低下する。
勤労者世帯と高齢無職世帯の実質可処分所得 また、高齢無職世帯の所得環境は勤労者世帯に比べて厳しくなっている。年金額改定は名目手取り賃金変動率、物価変動率、マクロ経済スライドによる「スライド調整率」によって決まるが、2013年度から2015年度まで特例水準の解消が実施されたこと、2015年度にマクロ経済スライドが実施されたことなどから、勤労者世帯よりも実質可処分所得の落ち込みが大きくなっている。勤労者世帯は物価上昇によるマイナスを勤め先収入の増加がある程度カバーしているが、高齢無職世帯は物価上昇と公的年金給付の減少がともに実質可処分所得を大きく押し下げている。

2018年度の年金額は前年度から据え置きとなったが、物価上昇率が2017年度よりも高まる可能性が高いため、年金生活者にとっての実質的な手取り額はさらに減少することになる。

賃上げによって所得の増加が見込める勤労者世帯と異なり、労働市場改善の恩恵を受けずに物価上昇によるマイナスの影響だけを受ける年金生活者の消費割合が高まっていることが、引き続き家計全体の消費を抑制する要因となるだろう。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

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