2018年05月15日

欧州大手保険グループの2017年の生保新契約動向-新たな規制・低金利環境下での商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況はどうだったのか-

中村 亮一

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(1)全体の状況
2017年の新契約価値(MCVNB:Market consistent value of new business)は、2016年に比べて33%と大幅に増加して、5.58億ユーロとなった。

新契約マージン(New Business Margin)(=新契約価値/新契約保険料現在価値(PVNBP))は、2016年に比べて0.3%ポイント上昇して、2.2%となった。また、年換算保険料に対する新契約マージンは、2016年に比べて2.4%ポイント上昇して、16.8%となった。

新契約年換算保険料は1.4%増加して27.55億ユーロとなった。
生命保険事業の新契約の状況
(2)新契約価値、年換算保険料及び保険料現在価値の地域別状況
新契約価値、年換算保険料及び保険料現在価値の地域別状況は、以下の図表の通りとなっている。

師契約価値では、北米・中南米が6割超を占めているが、年換算保険料の半分、保険料現在価値の7割近くは欧州である。
新契約価値、年換算保険料及び保険料現在価値(PVNBP)の地域別状況
(3)新契約マージンの地域別状況
新契約マージンの地域別状況は、以下の図表の通りとなっている。

新契約マージンについては、北米・中南米が5.0%、アジア・新興市場が4.8%で高く、欧州は0.9%の水準にとどまっている。2016年との比較では、欧州は若干低下したが、米国は増加しており、アジア・新興市場は前年のマイナスから大きく改善した。
新契約マージンの地域別状況
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(1)全体の状況
2017年の新契約価値は、2016年に比べて28%増加して、9.99億ドルとなった。

新契約マージン(=新契約価値/新契約年換算保険料)は、2016年に比べて3.9%ポイント増加して、23.3%となった。

新契約年換算保険料は、2016年に比べて4%増加して、48.68億ドルとなった。
生命保険事業の新契約の状況
(2)新契約マージン等の商品タイプ別状況
新契約マージン等の商品タイプ別状況は、以下の図表の通りとなっている。

新契約年換算保険料は、保障、企業年金、ユニットリンクを合わせた軽資本商品の構成比が89%(残りの11%が貯蓄・年金)となった。この水準は2016年の82%に比べてさらに上昇している。

新契約マージンでは、保障が74%と圧倒的に高くなっている。貯蓄・年金の新契約マージンは2年連続でマイナスとなっている。
年換算保険料、新契約価値及び新契約マージン(対年換算保険料)の商品タイプ別状況
(3)新契約マージン等の地域別状況
新契約マージンの地域別内訳は、以下の図表の通りとなっている。

新契約マージンについては、アジア・太平洋が85.8%と圧倒的に高い水準となっている。2016年との比較では、欧州・中東・アフリカは横ばい、北米が低下、中南米が増加、アジア・太平洋が大幅に増加となっている。
年換算保険料、新契約価値及び新契約マージン(対年換算保険料)の地域別状況

3―まとめ

3―まとめ

以上、欧州大手保険グループの2017年の生命保険事業の新契約業績について、商品タイプ別、地域別の販売動向及び新契約マージン等の収益性の状況を中心に報告してきた。
1|2017年実績のまとめ
これまで報告してきたように、各社の新契約の収益性評価のための指標は必ずしも統一されていない。ただし、各社とも、新契約マージン、新契約価値マージン、新契約利益等の名称の数値を用いて、商品タイプ別さらには地域別の数値を公表しているので、まずはこれらの数値をまとめておく。

(1)新契約マージンの商品タイプ別状況
各グループの状況の中でも報告してきたように、新契約マージンは、保障が最も高く、次がユニットリンクとなっている。これに対して、貯蓄・年金の新契約マージンは低水準となっている。
新契約マージンの商品タイプ別状況の各社比較
(2)新契約マージンの地域別状況
相対的にアジアが高く、米国も欧州に比べると高いグループが多い。欧州主要国の状況は必ずしも一律ではなく、様々であるが、スペインがやや高くなっている。
新契約マージンの地域別状況の各社比較
以上の図表をみてもわかるように、公表された数値からは、グループ各社間の比較は難しい。各社の開示内容は異なっており、特に商品タイプ別の新契約マージンについては、開示している会社は限定されている。また、地域別の新契約マージンについても、国毎ではなく欧州全体としての数値の開示にとどまっている会社も多い。加えて、これらの分析の基礎となるデータの開示のレベルもグループ毎に大きく異なっている。

基本的には、これらの数値は、各社がグループ内で、商品タイプ間や地域間の新契約の収益性等の比較を通じて、戦略的な判断を行っていくための基礎数値としてワークしている形になっている。
2|2017年実績を踏まえて
「1.はじめに」で述べたように、新たな規制・低金利環境下で、欧州大手保険グループ各社は、基本的には、伝統的な保証付の貯蓄・年金商品等から、ユニットリンク商品や保障・医療商品へのシフトを志向している。即ち、市場の動向等に収益水準が大きく左右される金融リスクの高い商品から、保険関係リスク中心の商品へのシフトを進めてきている。

低金利環境下で、高い運用利回り実績を挙げることが容易ではなくなってきている中にあって、各社とも、新契約の保証利率の引き下げや、伝統的な保証商品に比べて保証を限定した商品(満期時保証、年金総額保証等)へのシフトを図ることで、負債コストの引き下げを図ってきている。

さらには、ソルベンシーII等の新たな資本規制の導入に対応すべく、各種商品ポートフォリオを見直して、ユニットリンク商品や保証水準を低めた商品等のリスクが抑制された資本負担の少ない商品へのシフトを図ってきている。

保証金利の引き下げにより、従来の保証付商品の魅力が低下してきていることから、顧客サイドの選択肢の観点からも、ユニットリンク商品等に向かうインセンティブになっている。

各社とも、従前の投資関係損益への大きな依存から脱却していくことが求められてきており、(1)市場に左右されない保障や医療商品にシフトすることで、保険本来のリスクの引受けによる損益の位置付けを高めていくことや、(2)着実に資産の積み上げを図ることで手数料収入の確保ができる商品の拡販を目指す、運営を進めてきている。

いずれにしても、こうした運営を通じて、適正な資本水準を効率的に確保しつつ、高い収益を目指す経営を追求してきている。

各社とも、市場環境の変化や市場動向等を踏まえた上で、それぞれが置かれている状況に応じて、必要な対応策を講じていくことが求められてきており、実際にそのような方向で対応してきている。

欧州の大手保険グループの取組みについては、日本の保険会社にとっても参考になるものが多いと思われることから、今後とも、その動向については引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2018年05月15日「基礎研レポート」)

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