2018年05月15日

欧州大手保険グループの2017年の生保新契約動向-新たな規制・低金利環境下での商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況はどうだったのか-

中村 亮一

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2017年決算数値が、2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Reportの形で公表された。

前回のレポート1では、生命保険事業を中心とした地域別の事業展開の状況について報告した。

新たな規制・低金利環境下で、各社とも貯蓄・年金商品等の伝統的な利率保証付商品から、ユニットリンク型商品や保障・医療商品へのシフトを志向している。こうした状況は、グループ全体として基本的には同じ方向に向かっているが、その実態は地域毎に若干異なっている。これらは、各地域の保険市場や運用市場の状況やそれらを反映した保険商品の収益性等に関係している。

今回のレポートでは、2017年の生命保険事業の新契約業績について、商品タイプ別、地域別の販売動向及び新契約マージン等の数値を通じて、欧州大手保険グループの商品シフトの現状及び収益性の状況を報告する。  

2―欧州大手保険グループ各社の新契約業績動向等

2―欧州大手保険グループ各社の新契約業績動向等

ここでは、欧州大手保険グループ各社の生命保険事業について、新契約の年換算保険料(Annual Premium Equivalent :APE)や保険料現在価値(Present Value of New Business Premium:PVNBP)及び新契約価値(New Business Value:NBV)や新契約マージン(New Business margin)の状況等について、商品タイプ別、地域別に報告する。なお、新契約マージン等の定義については、その分母及び分子の考え方等について各社各様であるが、ここでは各社の公表数値に基づいて報告する2。また、以下の図表は、会社が公表している数値に基づいて、筆者が作成したものである。
 
2 新契約価値(NBV)について、Allianz、Generali、Aviva、Aegon、ZurichはMCEV、AXA、PrudentialはEEVベースである。なお、新契約価値の地域別状況については、前回のレポートを参照していただきたい。
1|AXA
(1) 全体の状況3
2017年の新契約価値は、2016年に比べて8%増加して、28億ユーロとなった。

新契約価値マージン(NBV margin)(=新契約価値/新契約年換算保険料)は、2016年に比べて3.4%ポイント上昇して、43.1%となった。

新契約年換算保険料は、2016年に比べて2%減少して、64.7億ユーロとなった。

また、コンバインドレシオは、保障が0.2%ポイント低下して96.9%、医療が0.3%低下して94.7%となった。
生命保険事業の新契約の状況
 
3 ここでの具体的な数値は、(2)以下の図表等も参照していただきたい(以下、同様)。
(2)新契約の年換算保険料の商品タイプ別、地域別内訳
新契約の年換算保険料の商品タイプ別、地域別内訳は、以下の図表の通りとなっている。

商品タイプ別の内訳は、グループ全体では、保障が32%、医療が13%、一般勘定貯蓄が20%、ユニットリンクが25%、ミュチュアルファンド等が10%であった。

これを地域毎にみると、構成比は異なっており、欧州ではほぼ保障、医療、一般勘定、ユニットリンクが同程度になっているが、米国ではユニットリンクが中心、日本、香港、その他アジアではユニットリンクの構成比は低くなっている。
2017年の新契約年換算保険料の商品タイプ別、地域別内訳
(3)新契約価値マージン(対年換算保険料)の商品タイプ別状況
新契約価値マージン(対年換算保険料)の商品タイプ別状況は、以下の図表の通りとなっている。

2010年から2017年にかけては、年換算保険料について、一般勘定の保障・医療の構成比が31%から45%へと14%ポイントと大きく上昇したが、一般勘定貯蓄の構成比は25%から20%へ5%ポイント低下した。ユニットリンクの構成比は年による変動がかなり大きい。

このような商品シフトを反映して、現在のような低金利下においても、販売や収益への影響を相対的に軽減できる対策を講じてきており、その結果として、全体の新契約価値マージンは2010年の22%から、2017年の43.1%へと大きく上昇している。
 
新契約価値マージン(対年換算保険料)の商品タイプ別j状況
(4) 新契約マージン及びIRR(内部収益率)の地域別状況
新契約マージン及びIRR(内部収益率)の地域別状況は、以下の図表の通りである。これによれば、日本や香港を初めとするアジアの新契約マージンが相対的に高いものとなっている。欧州ではスペイン、ベルギー、スイスが高い水準となっているが、フランスや米国の水準はグループ全体の水準を下回っている。
新契約価値マージン(対年換算保険料)及びIRR(内部収益率)の地域別状況
(参考)営業利益の商品タイプ別内訳
なお、2016年ベースで見た場合、会社全体の営業利益の商品タイプ別内訳は以下の図表の通りとなっている。保有契約の利益ベースでは「保障・医療」の構成比が5割以上とさらに高くなっている。
生命保険事業の営業利益の商品タイプ別内訳
 Allianz
(1)全体の状況
2017年の新契約価値は、2016年に比べて30%と大幅に増加して、18.82億ユーロとなった。

新契約マージン(New Business Margin)(=新契約価値/新契約保険料現在価値(PVNBP))は、2016年に比べて0.7%ポイント上昇して、3.4%となった。これは目標水準の3%を超えるものであった。

新契約保険料現在価値(PVNBP)は4.0%増加して594.69億ユーロで、その内訳は、保証付貯蓄&年金が24%(2016年は28%、以下同様)、高資本効率商品が38%(39%)、保証なしのユニットリンクが23%(18%)、保障&医療が15%(15%)、で、より高資本効率商品へのシフトが成功裏に行われたとしている。

なお、(図表にはないが)2013年と2017年の比較では、伝統的商品のシェアが52%から24%に低下し、新契約マージンは2.1%から3.4%に上昇した、と報告している。
生命保険事業の新契約の状況
(2) 新契約マージンの商品タイプ別状況
新契約マージン(対保険料現在価値)の商品タイプ別状況は、以下の図表の通りとなっている。

保険料現在価値の構成比では、保証付貯蓄・年金が低下し、ユニットリンクが上昇した。

また、2017年は2016年に比べて、ユニットリンクを除く全ての商品で新契約マージンが改善した。
新契約マージンの商品タイプ別状況
(3) 新契約マージンの地域別状況
新契約マージンの地域別状況は、以下の図表の通りとなっている。

新契約マージンは、アジア・太平洋及びトルコに加えて、スペインで高く、イタリア、フランスでは低い。

2016年に比べて、元々の水準が高いアジア・太平洋及びトルコを除く全ての地域で上昇した。
新契約マージンの地域別状況
(参考)営業利益の商品タイプ別内訳
営業利益の商品タイプ別内訳は、以下の図表の通りで、保有ベースでは引き続き、保証付貯蓄・年金の構成比が5割以上となっている。ただし、保障・医療の営業利益は着実に増加してきている。
生命保険事業の営業利益の商品タイプ別内訳
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中村 亮一

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