2018年05月11日

米長期金利の動向-長期金利は一時14年初以来の3%台に上昇。利上げ継続、債務残高増加から一段の上昇へ

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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(図表7)市場性国債残高(種類別) (米国債需給):米国債供給増、FRBのバランスシート縮小などを受けて米国債需給は悪化
米国における「公共が保有する債務」(Debt Held by the Public)のうち、市場で取引されている市場性国債残高は、金融危機直後の08年度末の5.2兆ドルから18年4月末時点で14.8兆ドルに大幅に増加した(図表7)。

このうち、償還期間が2~10年の中期債が2.6兆ドルから9.0兆ドルに増加したほか、償還期間10年超の長期債が0.6兆ドルから2.0兆ドルに増加した。この結果、市場性国債残高に対する中期債と長期債を合計したシェアは08年度末の61.5%から74.3%に増加しており、中長期国債には相対的に供給圧力が高まっていることが分かる。

一方、トランプ政権発足以降、17年12月に成立した税制改革法に基づく減税や、18年2月に超党派で決定した拡張的な財政政策によって、今後財政赤字および債務残高が大幅に増加する懸念が強まっている。
(図表8)財政収支見通し(CBO) 議会予算局(CBO)によれば、現在の予算関連法に基づく減税や拡張的な財政政策を前提にしたベースライン予想では、財政赤字は17年度実績の▲0.7兆ドル(GDP比▲3.7%)から28年度には▲1.5兆ドル(同▲5.1%)まで増加することが見込まれている(図表8)。

もっとも、ベースライン予想が前提とする税制改革法や超党派予算法には、財政規律を維持するために、減税や歳出増加の一部が時限措置となっており、これらの時限措置は政治的に将来延長される可能性が高いとみられている。このため、将来の財政赤字はベースライン予想を上回る可能性が高い。実際、CBOはベースラインとは別に、これら時限措置が延長された場合を代替シナリオとして試算しており、同シナリオでは財政赤字が28年度には▲2.1兆ドル(同▲7.1%)と、ベースラインを大幅に上回る財政赤字を見込んでいる。
(図表9)債務残高見通し(CBO) 次に、これら財政状況を踏まえた債務残高は、17年度実績の14.7兆ドル(GDP比76.5%)からベースライン予想では、28年度に28.7兆ドル(同96.2%)への増加が見込まれている(図表9)。

さらに、代替シナリオでは28年度に31.2兆ドル(同104.8%)まで増加する見込みである。
金融危機後の債務残高増加に対して、共和党議員は債務残高を減少させる必要性を訴えていたため、17年に共和党政権が誕生したことで、政権発足当初は債務残高が減少するとの期待があった。しかしながら、共和党政権下で減税を実現したこともあり、債務残高の増加スピードは寧ろ加速する状況となっている。

さらに、トランプ大統領は明確な財源を示さないまま、インフラ投資を増加させる方針を示していることから、それらの政策動向次第では一段の債務残高の増加が避けられない状況だ。
次に、中長期債の買い手として重要な役割を担っている中国および、FRBの残高保有状況を確認しよう。中国による国債保有残高は、13年末の1.3兆ドルをピークに頭打ちとなっているほか、海外保有残高に占めるシェアも11年の20%台後半をピークに10%後半まで低下している(図表10)。

今後も基軸通貨としての米ドルの地位や、米国債の流動性を考慮すれば、中国が米国債を一定程度保有することは予想されるものの、通商政策をはじめ米中関係が良好とは言えないため、中国が米国債保有シェアを増加させる可能性は低いだろう。
(図表10)中国による米国債保有残高/(図表11)システム公開市場操作残高および市場シェア
次に、FRBについて確認する。FRBは、金融危機後の量的緩和政策で国債保有残高を大幅に拡大させたが、17年9月のバランスシート縮小開始に伴い保有残高を減少させてきている。実際、14年末には量的緩和政策に関連するシステム公開市場操作(SOMA)勘定で国債を2.5兆ドル保有し、市場性国債残高に占めるシェアも2割弱となっていたが、ニューヨーク連銀の試算では20年末にかけて1.8兆ドル弱まで低下するとしており、当研究所の試算4では市場性国債に占めるシェアも10%程度に低下する見込みだ(図表11)。

このため、債務残高の増加に伴い国債供給は大幅な増加が見込まれる一方、中国やFRBなどの国債需要は減退することが見込まれることから、今後国債需給は悪化する可能性が高いとみられる。
 
4 CBOのベースライン予想に基づき債務残高の増加分が全て市場性国債で調達されたと仮定。
 

3.長期金利見通し

3.長期金利見通し

これまでみたことを踏まえて、当研究所は、当研究所は長期金利予想を18年末に3.3%、19年末に3.6%と、予測期間である19年末にかけて緩やかな上昇基調の持続を見込んでいる(図表12)。
(図表12)米国金利見通し 短期金利期待要因は、今後の政策金利引き上げ継続を相当程度長期金利に織り込んでいるとみられるものの、18年末にむけては政策金利の上方修正に伴い、小幅ながら押上げ余地が残っていると判断している。

期間プレミアム要因については、足元では長期金利に対する押上げが非常に限定的に留まっているものの、国債需給の悪化から期間プレミアムの押上げ幅が拡大する可能性が高いと判断している。

一方、インフレ加速に伴い政策金利が想定より引き上げられる場合や、債務残高の増加に伴う財政懸念が顕在化する場合には期間プレミアムの上昇を通じて、長期金利が予想対比で上振れしよう。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2018年05月11日「Weekly エコノミスト・レター」)

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