2018年05月02日

金融市場を左右する原油相場~原油価格の見通しと市場への影響

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(4月):物価2%の達成時期を削除

(日銀)現状維持
日銀は4月26日~27日に開催された金融政策決定会合において金融政策を維持した(片岡審議委員のみ今回も反対を表明)。長短金利操作(マイナス金利▲0.1%、10年国債利回りゼロ%程度)、資産買入れ方針(長期国債買入れメド年間80兆円増、ETF買入れ年間6兆円増など)ともに変更はなかった。

会合終了後に公表された展望レポートでは、景気の総括判断を前回同様、「緩やかに拡大している」に据え置いたほか、個別項目にも変更は無かった。先行きの見通しについても、従来同様、経済が緩やかな拡大を続け、物価上昇率が2%に向けて上昇していくとのシナリオが維持されたが、前回まで「2019年度頃」とされていた2%達成時期の表記が削除された。

2017~19年度の政策委員の大勢見通し(中央値)では、実質GDP成長率がやや上方修正された。物価上昇率は概ね前回同様であり、2019年度1.8%も維持された。今回から公表された2020年度の物価についても1.8%と、2%付近が維持される見通しとなっている。ただし、物価見通しでは、中央値こそ維持されたものの、回答の分布は前回から下方シフトしている。年初からの円高等により、政策委員の中でも物価見通しが下ブレしていることがうかがわれる。

3月に就任し、今回が初の会合となった若田部副総裁の動向が注目されたが、現行金融政策に賛成したうえ、経済・物価見通しも極端なシナリオは示さなかった模様。副総裁指名前には追加緩和を提唱していたが、とりあえず、日銀内の足並みの乱れを回避し、様子見姿勢をとったとみられる。
 
会合後の総裁会見では、物価2%達成時期が削除された理由について質問が集中した。黒田総裁は、「あくまで達成される時期の見通しとして示してきたが、市場の一部に「達成時期」と捉えたうえで、その変化を政策変更に結びつける見方が根強く残っている」ため、「政策スタンスが誤解される恐れがあるため、今回から文言を削除した」と繰り返し説明。2%の目標が中長期目標化したのかとの問いに対しては、これを明確に否定し、「「出きるだけ早期に実現」という目標は変わっていない」と強調した。最も警戒している下振れリスクとしては、保護主義の影響、米国の予想以上の金融引き締めとともに、国内固有のリスクとして「デフレマインドがなくならない可能性」を挙げ、中長期の予想物価上昇率が殆ど動いていない点を指摘した。
展望レポート( 1 8年4月)政策委員の大勢見通し(中央値)/展望レポート( 1 8年4月)政策委員のリスク評価(コアCPI )
今回、2%の達成時期の表記が削除された理由としては、黒田総裁が言うとおり、過去に物価目標の達成時期後ろ倒しが一部で追加緩和観測に繋がり、市場のかく乱要因になってきた経緯があり、今後はこれを防止したかったということに加えて、(1)達成時期は既に6度も後ろ倒しされており、実質的に形骸化、「期待に働きかける効果」が見込めないこと、(2)今後もさらなる後ろ倒しが見込まれ、かえって日銀の信認低下に繋がりかねないこと、(3)最近はドル高圧力が高まっており、達成時期を削除しても(追加緩和の可能性低下と捉えられて)円買いが進む可能性が低かったことがあると推測される。これまでの極端に楽観的な「19年度2%」シナリオを曖昧化する現実路線へのシフトと言え、市場との対話が従来より円滑化される(噛み合うようになる)効果が見込まれる。
 
今後の金融政策については、物価目標の達成が見通せない状況が続くため、長期にわたり現行緩和の維持が続くと予想している。なお、現行の枠組みのなかで副作用を抑制するために日銀はいずれ小幅な金利上昇を促す調整を行うとの見立てに変更はないが、年初からの円高進行によって実施のハードルは上がった。今年度内は金利上昇を許容しないだろう。ETF買入れについても減額に踏み切りにくくなり、しばらく現状維持を続けざるを得ない。
 

3.金融市場(4月)の振り返りと当面の予想

3.金融市場(4月)の振り返りと当面の予想

(10年国債利回り)
4月の動き 月初0.0%台前半でスタートし、月末は0.0%台後半に。     
月初から、米中貿易摩擦への懸念やこれを受けた日銀オペ減額困難との見方から金利が低迷、順調な入札もあり、中旬にかけて0.0%台前半での推移が継続した。その後、日米首脳会談の無難な通過に伴うリスク選好の動きや、原油価格上昇等に伴う米金利上昇を受けて、20日に0.0%台後半へと上昇。月末には、米金利の上昇一服を受けて0.0%台半ばへとやや低下した。

当面の予想
日銀が先月末の決定会合において、2%達成時期を削除したことを受けて金融緩和の長期化観測が強まった一方、米金利が上昇したことで強弱感が拮抗し、足元も0.0%台半ばで推移している。今後も米金利の上振れが予想され、本邦長期金利の上昇圧力になるが、日銀の緩和長期化観測が上昇を抑制しそうだ。一方、日銀の2%達成時期削除もあって追加緩和観測は高まりようがなくなっているため、金利低下余地も乏しい。当面は0.0%台半ば前後での推移が予想される。
日米独長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(4月)
(ドル円レート)
4月の動き 月初106円台前半でスタートし、月末は109円台前半に。
月初、米中貿易摩擦への懸念が続くなか、低調な米経済指標もあり、3日に一旦105円台を付けたが、実需の円売りや米中貿易摩擦への懸念後退を受けてドルが買われ、6日に107円台前半を回復。その後は、シリア情勢や日米首脳会談への警戒から一時円が強含む場面もあったが、107円前後での一進一退の推移が継続。下旬には、原油価格上昇やリスク選好、良好な米経済指標公表に伴う米金利上昇を受けてドルが買われ、24日には108円台後半、さらに翌25日には109円台前半に上昇。月末も109円台前半で終了した。

当面の予想
今月に入り、ユーロドルの弱含みによってドル高の色彩が強まり、足元は109円台後半に上昇している。3月の米物価統計で物価上昇加速が示され、米国の順調な利上げ継続が意識されやすい地合いに。米経済指標も総じて堅調な内容が予想され、ドル高圧力が高い状況が当面続きそうだ。一旦110円台を目指す展開が予想される。また、3日から行われる米中の通商協議において貿易摩擦緩和の兆しが出たり、武田薬品工業によるアイルランドの製薬大手シャイアーの買収(多額の円売りを伴う)が決まったりすれば、さらなる上振れも。一方、12日の米国によるイラン核合意の継続判断は要注意。破棄となれば、リスク回避的に円高が進む可能性が高い。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
4月の動き 月初1.23ドル台前半からスタートし、月末は1.20ドル台後半に。
月初、1.23ドル台でスタートした後、米中貿易摩擦への警戒がやや緩和し、4日に1.22ドル台後半へに下落。その後、ECBの年次報告書でドラギ総裁がユーロ圏の先行きに強気の見方を示したことで、9日に1.23ドルを回復。以降はしばらく1.23ドル台での膠着した推移が続いたが、米金利上昇を受けてドル高の色彩が強まり、23日には1.22ドル台前半に。さらに、26日にはECB理事会を受けて、ECBの量的緩和縮小の議論が先送りされるとの観測からユーロ売りが入り、1.21ドル台前半に下落。ドイツの低調な経済指標を受けて月末は1.20ドル台後半で終了。

当面の予想
今月に入り、ドイツの経済指標悪化を受けてユーロがさらに売られ、足元は1.20ドル付近で推移している。最近ユーロ圏の経済指標に弱いものが増えていることもあり、ECBの量的緩和縮小決定は7月に後ずれしそうだ。しばらくは緩和縮小を手掛かりとしたユーロ買いも入りづらい。一方、既述のとおりドル高圧力が高い状況が続きそうであるため、ユーロドルは当面弱含みの展開が予想される。ユーロ圏の経済指標悪化は一時的であり、いずれユーロドルは切り返すとみているが、まだしばらく時間がかかりそうだ。
金利・為替予測表(2018年5月2日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2018年05月02日「Weekly エコノミスト・レター」)

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