2018年05月01日

年金改革ウォッチ 2018年5月号~ポイント解説:次期公的年金改革の論点と見通し

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

先月の年金部会では、次期年金制度改革までのスケジュールや、これまでの経緯を踏まえた今後の検討課題などが説明され、委員からも多数の意見が出されました。企業年金部会では、個人型確定拠出年金(iDeCo)を念頭に、金融機関が情報提供を促進するための兼務規制の見直しが了承されました。
 
○社会保障審議会 年金部会
4月4日(第1回) 議論の進め方、これまでの制度改正のレビュー
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000202224.html (配布資料)
 
○社会保障審議会  企業年金部会
4月20日(第20回) 確定給付企業年金のガバナンスと積立基準、確定拠出年金における兼務規制
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000204064.html (配布資料)
 

2 ―― ポイント解説:次期公的年金改革の論点と見通し

2 ―― ポイント解説:次期公的年金改革の論点と見通し

先月は約2年ぶりに年金部会が開かれ、次期公的年金改革に向けた議論が始まりました。本稿では、予想される論点と議論の見通し(スケジュール)を確認します。
1|予想される論点:優先課題は適用拡大。繰下げ受給の見直しや基礎年金の低下抑制策にも注目
大きな論点の1つは、短時間(パート)労働者への厚生年金の適用拡大です。この問題に対しては、週20時間以上勤務や正社員501人以上の企業など5つの条件をすべて満たした場合に限定した拡大が、2012年の法改正で決まりました(施行は2016年10月)。この改正法の附則に、2019年9月末までに再検討する規定*1があるため、これに従って議論される見通しです。

それ以外では、2013年に成立した社会保障制度改革プログラム法に規定された4つの課題(給付調整、適用拡大、年金受給、所得再分配)が議論の中心になるでしょう(適用拡大は前述)。これらは2016年の改正に向けても議論され、給付調整が部分的に改正されました。改正後の2017年に経済財政諮問会議で取りまとめられた改革工程表では、給付調整以外の3課題のみが今後の検討対象になっていますが、経済界は給付調整のさらなる見直しを要望しています。なお、高齢社会対策大綱に盛り込まれて話題になった繰下げ受給の見直しは、改革工程表に検討が明記された論点(年金受給)の中に入ります*2
 
図表1 2016年改正で積み残された主な検討課題
また、前述した社会保障制度改革プログラム法は、4つの課題に加えて「その他必要な事項」も検討する規定になっています。2016年改正に向けた議論では、基礎年金の水準低下*3を抑えるために60~64歳への適用延長などが議論されましたが、法改正には至りませんでした。このような社会保障制度改革プログラム法に明記されていない問題にどう対処するのかも、今後の注目点です。
 
 
*1 この規定には紆余曲折がありました。法案提出時には「政府は、2019年9月30日までの間に短時間労働者に対する厚生年金保険及び健康保険の適用範囲を更に拡大するための法制上の措置を講じる」という積極的な表現になっていましたが、民自公の3党合意により「政府は、短時間労働者に対する厚生年金保険及び健康保険の適用範囲について、2019年9月30日までに検討を加え、その結果に基づき、必要な措置を講ずる」と、適用拡大に慎重な表現に変更されて成立しました。2017年に閣議決定された骨太の方針では、「短時間労働者の被用者保険の更なる適用拡大について検討を行い、必要な措置を講ずる」と、法律よりも適用拡大に積極的な表現になっています。
*2 繰下げ受給については、現行制度の利用が低調なことに加え、繰下げによる割増が遺族厚生年金の額に反映されないことも論点となるでしょう。数理面からは妥当な仕組みですが、遺族となる時期の予測が難しい中で、割り増しされた老齢厚生年金の額と(割増が反映されない)遺族厚生年金の額の差は少なくないため、家計への影響が懸念されます。
*3 基礎年金の水準低下については、当連載の2014年9月号(基礎年金の問題・原因・対策)同年11月号を参照。
2|議論の見通し(スケジュール):適用拡大は来年9月までに結論。改正を織り込んだ試算にも注目
短時間労働者への厚生年金の適用拡大については、前述した法律の規定に従って、来年9月までに結論が出される見込みです。5年に1度公表される財政見通しは、その検討材料となる試算を含む形で、来年の夏頃に公表されるでしょう。適用拡大に関する議論の進展によっては、それ以外の論点は来年9月以降に持ち越される可能性もあります。なお、2016年改正の国会審議では、法案に沿って改正した場合の影響を反映した財政見通しが作成されなかったことが、審議紛糾の一因となりました。次期改正法案を国会へ提出する際には、法案の影響を反映した見通しが公表されるべきでしょう。
図表2 これまでの年金改革のスケジュール
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2018年05月01日「保険・年金フォーカス」)

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