2018年04月09日

マイナス金利政策による投資家の運用資産の保有割合の変化

金融研究部 金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任 福本 勇樹

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1――マイナス金利政策導入後の日銀当座預金残高の推移

2016年1月末に日本銀行によりマイナス金利政策が導入されてから2年が経過した。マイナス金利政策では、民間金融機関が日本銀行に保有する日銀当座預金残高は3つの階層に分解され、マイナス金利(-0.1%)はそのうちの「政策金利残高」のみに適用され、その他の2つの階層である「基礎残高」には+0.1%、「マクロ加算残高」には0%が適用される(図表1)。
図表1:マイナス金利政策における日銀当座預金残高の3つの階層と適用金利
マイナス金利政策は、日本銀行の国債買入などによって日銀当座預金残高が変動することが想定される中で、民間金融機関のコスト負担増加の回避や短期金融市場の安定などを目的として、政策金利残高を一定の幅に抑制しつつ、マクロ加算残高の上限をコントロールする仕組みになっている。マイナス金利政策導入後も日本銀行によって国債買入が行われていたこともあって、日銀当座預金の残高は増加していたが、2017年後半より350兆円の水準周辺を横ばいに推移している1(図表2)。
図表2:日銀当座預金の各階層の残高と日本銀行の国債の保有残高の推移(兆円)
マクロ加算残高の上限は、2017年9月以降130~135兆円の範囲内で設定されており、その拡大は緩やかになっている。2018年2月末時点で、マクロ加算残高は約118兆円、マクロ加算残高の上限は約134兆円となっており、民間金融機関にマクロ加算残高の枠に余裕のあるところが存在する状況にある。

政策金利残高は、2016年3月に約30兆円にまで達したが、2018年2月末時点で約23兆円となっている。その多くの割合を外国銀行(約1.6兆円)、信託銀行(約7.6兆円)、その他の準備預金制度適用先3(約11.8兆円)と準備預金制度非適用先4(約1.8兆円)が占めており、都市銀行や地方銀行の政策金利残高はほぼゼロで推移している。
 
1 マイナス金利政策において3つの階層が適用される金融機関(補完当座預金制度適用先)に関する合計値。
2 短期国債と長期国債の保有額に関する総和を示している。
3 その他の準備預金制度適用先には、ゆうちょ銀行や大手信用金庫が含まれる。
4 準備預金制度非適用先には、短資会社や証券会社が含まれる。
 

2――マイナス金利政策導入によって生じた短期金融市場の変化

2――マイナス金利政策導入によって生じた短期金融市場の変化

日本の短期金融市場では、マイナス金利政策導入前の翌日物金利は0.1%前後を推移していたが、導入後は-0.1%と0.0%の間を推移するようになっており、マイナス金利の状況が常態化している(図表3)。

先ほど、マイナス金利政策下においてマクロ加算残高に余裕のある民間金融機関が存在することを指摘した。このようなマイナス金利の環境下では、マクロ加算残高の枠に余裕のある民間金融機関は、短期金融市場にてマイナス金利で資金調達を行い、適用金利が0%であるマクロ加算残高で運用すれば、リターンを得ることができる。一方で、マイナス金利で運用する資産運用サイドの存在が問題となるが、国債の償還資金が流入することなどにより、政策金利残高に適用される-0.1%のコスト負担を避けたい民間金融機関が存在し、運用利回りが-0.1%以上であればマイナス金利であっても、短期金融市場での資産運用ニーズが生じるため、これらの双方の取引ニーズは合致することになる。
図表3:日本の短期金融市場の翌日物金利と短期国債利回り(6ヶ月)の推移
マイナス金利政策の導入によって、短期金融市場から得られるリターンが低下しているが、2017年の短期金融市場の取引残高は2016年と比べて増加している5。2017年中盤までマクロ加算残高の上限が拡大傾向にあったこともあり、マクロ加算残高を用いた取引に対する民間金融機関のインセンティブも高まっていたと言える。それゆえ、日本の短期金融市場は、マイナス金利政策におけるマクロ加算残高と政策金利残高に適用される金利の影響を強く受けるような状況下にある。イールドカーブ・コントロール導入後は日本銀行が日本国債の買入を減額しているとの指摘もあるが、今後も日本銀行がマイナス金利政策の下でマクロ加算残高の上限をうまくコントロールしていくことで、短期金融市場の翌日物金利はマイナスが常態化した環境が継続していくものと予測される。

また、短期国債利回り(6ヶ月)は、日本銀行の買入の影響もあって、マイナス金利政策導入後は-0.1%よりも低い利回りで取引されることもあったが、直近は翌日物金利と同様の水準で推移するようになっている。短期金利は翌日物金利と同様にマクロ加算残高のコントロールの影響を受けており、将来のマイナス金利政策解除の市場期待に関する時間軸を織り込んで推移していくものと考えられる。
 
5 「わが国短期金融市場の動向-東京短期金融市場サーベイ(17/8月)の結果-」(日本銀行、2017年10月)
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金融研究部   金融調査室長・年金総合リサーチセンター兼任

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

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金融・決済・価格評価

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