2018年03月30日

仮想通貨と経済~ビットコインを中心として~

櫨(はじ) 浩一

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2|送金手数料の社会的コスト
送金手数料の安さは、中央にシステムを管理する特定機関が無いことと並んで、仮想通貨の特徴として、しばしば取り上げられる点である。ビットコインも、誕生当初は送金手数料が安いことが大きな利点とされていた。個人間で送金するために銀行を利用すると手数料が必要で、例えば米国では送金者が銀行に手数料を支払うだけでなく、受取る側でも手数料を徴収されることが多く、少額であることが多い個人間の送金では手数料が大きな問題だった。この問題への対処として、米国ではPayPalのようなクレジットカードを利用した送金方法が生まれ利用が拡大している。

日本では銀行の国内送金手数料は、200円~800円程度とそれほど大きな問題ではないが、海外への送金は2000円~5000円程度と、かなりの負担であることは確かだ。ビットコインの送金については「手数料が無料か格安、仲介する組織が存在しないので、基本的には手数料を払う必要がありません」という説明が現在でも見られる(注8)。

ビットコインを例にとって仮想通貨を送金する仕組みを見てみると、保有していないビットコインが送金されたり、所有者以外の人が送金したりするなどの不正取引を除外するために、多くのマイナーと呼ばれる人達が不正な取引でないことを承認する作業を行っている。この作業への報酬は早いもの勝ちで、最も早く作業を完了したマイナーには新規に発行されるビットコインと送金者が支払う送金手数料のビットコインが支払われる。ビットコインの場合には、送金承認作業をする際に送金や支払の正当性検証には直接関係のない複雑な数学問題の答えを見つける作業をおこなうために膨大な計算を行う必要がある。このために、大規模なマイナーは多数のコンピューターを保有し、大量の電力を消費している。

Bitcoin日本語情報サイト(JPBITCOIN.COM)は、「かつてはビットコインの送金は多くても数十円程度で済みましたが、最近は利用者の増加等によるネットワークの混雑により、手数料が急騰している状況です」(注9)としているように、平均では送金手数料が高額になっている。

ビットコインの送金を支えている承認作業には、コンピューターへの設備投資や電力料金というコストが発生するにも関わらず、送金手数料が極めて低額であった理由は、取引の承認作業を行うマイナーは、送金者が支払う手数料だけでなく競争に勝てば新規のビットコインの支給を受けることができることが大きな要因だった。ビットコインでは、利用者が増えて取引が増えたため、処理に遅れが出るようになった。マイナーは送金の承認作業をする際になるべく手数料の高いものを選ぶことが可能なので、急いで送金したい人達は高い送金手数料を提示するようになり、平均的な送金手数料が高騰するようになった。(注:高額な手数料を支払わない送金も一定量は処理しなくてはならないように設計されているようだ)
 
本題からややはずれてしまうが、仮想通貨交換業者の利用者が購入した仮想通貨をそのまま交換業者に預けていたことは、交換業者で多額の不正送金が起こった背景となっているが、これには送金コストの問題もあるのではないかと考えられる。交換業者にある口座から外部のアカウントに送金するコストは、ビットフライヤーでは0.0004BTC、コインチェックは0.001BTCとなっている(2018年3月現在)(注7、10)。仮想通貨の価格が高騰して1ビットコインが200万円を超える水準に上昇した時点では、非常に割高になった。その後、仮想通貨の価格が大きく低下したので、1ビットコインは100万円程度とすると、コインチェックで約1000円、ビットフライヤーで約400円に低下しているが、それでもネット銀行で円を送金する手数料と比べて安いとはいえず、むしろ割高な水準だ。
 
ビットコインは送金の承認作業を行うマイナーがいなくなってしまうと、システムが機能しなくなるので、マイナーが十分な利益をあげ続けられるようにしなくてはならない。しかしビットコインでは発行量の上限が2100万ビットコインと設定されていることために、発行が上限に達した後は、送金承認作業で大量の計算を行うマイナーの受け取る収入は送金手数料だけとなり、システムを維持できるのかという疑問が残る。従来型の送金システムとの比較では、ビットコインのシステムではマイナーは、送金承認作業をする際に課せられている大量の計算のための費用を、純粋に送金に要するコストの上に負担している形になるので、送金手数料が割高となる恐れが大きい。利用者が銀行を使って国際送金を行なう場合にSWIFT(国際銀行間通信協会)が利用されているが、現時点ではこの費用は非常に高く、かつ送金には時間がかかっている。現在国際送金の仕組みの改善の議論が進んでおり、また、PayPalなどのような割安の送金サービスも次々に生まれているので、国際送金においても仮想通貨の送金コストの低さは武器ではなくなる可能性がある。

ビットコインの発行上限を取り払って、現在のように送金の承認作業を行うマイナーが新規発行のビットコインを手に入れ続ける仕組みに変えることは不可能ではないが、その場合にはビットコインの供給量ははるかに多くなるので、発行量に上限がある場合よりもビットコインの価格は低くなるはずだ。ビットコインとは違う手法で大量の電力消費無しに送金の承認作業を行なう仮想通貨もあり、仮想通貨間の競争で送金手数料の差が原因でビットコインが生き残れないという可能性もある。
 
仮想通貨の発行益を送金業務の費用に充てるという方法は、社会全体ではコストの削減になっていないと考えられる。これは、円やドルなどの既存通貨では、中央銀行の発行益が政府の財政収入となっているが、仮想通貨の利用が拡大することで中央銀行は通貨発行益を失うことになるからだ。例えば日銀の国庫納付金は2018年度予算では5430億円あり、仮想通貨の発行が増加することで日銀からの国庫納付金が減少するはずだ。さらに最終的に、日本の経済活動が全て仮想通貨によって決済されるようになれば、円への需要はゼロになってしまう。日銀からの国庫納付金がゼロになるだけでなく、日銀は今までに発行した通貨を回収するか、消費者や企業が保有している既存通貨の価値がゼロになるという形で、既存通貨発行者である政府・中央銀行から仮想通貨の運営者に通貨発行益が移転された格好になると考えられる。
 

むすび

むすび

仮想通貨は社会的に注目される存在となったが、技術的にもまだ様々な課題を抱えているとされている(注3)。現在の購入者は、将来の価格上昇を期待した投機的な目的がほとんどで、本来の利用方法である、取引や送金に使われているわけではない。このため仮想通貨の価格は非常に不安定である。

仮想通貨の発行・送金という中心的なシステムの周辺で、仮想通貨の交換業を行なっている事業者が様々な問題を起こしてきたため、仮想通貨交換業者の規制の強化が求められている。しかしこれ以外にも、仮想通貨自体の持続可能性や、実際に広く利用されるようになった場合の経済的問題など多くの問題を検討していく必要があるだろう。


参考文献・出典
注1:Nakamoto, Satoshi, ”Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System” (2008)
注2:赤羽喜治・愛敬真生編著「ブロックチェーン:仕組みと理論」リックテレコム、2016年
注3:松尾真一郎他著「ブロックチェーン技術の未解決問題」日経BP社、2018年
注4:https://coinmarketcap.com/all/views/all/
注5:https://www.blockchain.com/
注6:Burniske, Chris and Tatar, Jack, “Cryptoassets: The Innovative Investor's Guide to Bitcoin and Beyond”, McGraw-Hill Education ( 2017)
注7:Coincheck Web :https://coincheck.com/ja/
注8:bitFlyer Web :https://bitflyer.jp/BitcoinWhyUse#bwu01
注9:JPBITCOIN.COM:(2018年3月30日閲覧)
注10:bitFlyer Web: https://bitflyer.jp/ja/
 
 

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櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

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(2018年03月30日「基礎研レポート」)

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