2018年03月05日

インドの生命保険業界及び主要会社の状況-2016年度の決算数値を踏まえての成長性・効率性・収益性・健全性等の動向-

中村 亮一

文字サイズ

3―経営効率の状況

以下においては、LICと民間の外資系生命保険会社のうちの収入保険料で上位5社について、2016年度決算ベースの各社のPublic Disclosures資料の数値に基づいて、経営効率の状況を報告する。

1|継続率
保険契約の13月目と25月目の継続率(年換算保険料ベース)の過去5年間の推移は、以下の図表の通りである。継続率は、商品・販売チャネル等によっても、大きく異なるが、これらの合計数値として、各社の数値が示されている。なお、各社の算出ベースは必ずしも統一されているとは限らないので、会社間で水準を比較する場合には注意が必要となる。 

全体数値としては、Bajaj Allianzを除けば13月目継続率が74%~86%、25月目継続率が66%~74%の水準となっている。

各社とも、継続率の改善は大きな課題であり、監督当局であるIRDAI(Insurance Regulatory and Development Authority of India)も注視しているが、これらの全体数値を見る限りにおいては、未だ大きな改善が見られるという状況にはなっていない模様である。
継続率(13月目)年換算保険料ベース/継続率(25月目)年換算保険料ベース
2|事業費効率
事業費効率の推移は、以下の図表の通りである。基本的には、民間保険会社については、規模の拡大に伴い、事業費率が低下していくことが期待されているが、実績もほぼそれを裏付ける形になっている。また、手数料(コミッション)率についても、各種の規制の影響等により、低下してきている。
総事業費率(対保険料)/手数料(コミッション)率(対保険料)/事業費率(対保険料)
3|運用利回り
各社の運用利回りの推移を示したのが以下の図表である。これは、基本的に、契約者ファンド(ノン・リンク型・有配当)に対するものであり、LICの数値のみが、契約者ファンド平均に対する数値となっている。

これによれば、金利水準を反映して、各社とも引き続き高い運用利回りが確保されている状況にある。
運用利回り
インドの10年国債利回りの推移(%) (参考)インドにおける金利の推移
右図が、インドの10年国債の利回りの推移を示している。

先進諸国とは異なり、引き続き7%前後の利回りを確保しており、現状では低金利に悩まされているという状況ではない。

このように高位安定した金利水準を背景に各社は着実な運用収益を挙げるとともに、その成果を配当として、契約者に還元してきている。

 

4―収益性の状況

4―収益性の状況

1|会社全体の収益状況
LICと民間の5社の収益状況を比較した場合、商品や販売チャネルの違い等から、保険料との比較での収益性は大きく異なる状況となっている。なお、利益水準は、責任準備金評価のための計算基礎の設定によっても影響を受ける形になっている。

各社とも、保険料及び利益の実額をほぼ着実に進展させてきているが、対保険料利益率で見た場合、民間5社の水準は全体的には低下傾向にある。
LICと民間5社の利益(税引後)の状況
2|商品種類別の収益状況
ICICI Prudentialは、商品種類別の収益状況も開示しており、それが以下の図表の通りである。

これによると、これまでは、年金保険(リンク型)が高い収益を上げる形になっていたが、ここ数年間は、生命保険(有配当)の収益が、実額及びウェイトとも着実に高まってきている。
ICICI Prudentialの剰余(Total Surplus)の商品種類別内訳

5―健全性等の状況

5―健全性等の状況

1|責任準備金の計算基礎
インドの生命保険会社の責任準備金の計算基礎については、全社統一の計算基礎率が定められているわけではない。毎年度末決算において、それぞれの会社の状況を踏まえて決定されるため、各社毎に異なっている。ロック・フリー方式5で定められるため、契約毎に毎年の計算基礎率が変化することにもなる。以下では、代表的な計算基礎である、予定利率と予定死亡率の状況について、報告する。
 
5 責任準備金評価において用いる計算基礎について、契約時に使用したものを固定(ロック・イン)するのではなく、評価時毎にその時々に適正と考えられる計算基礎等で評価する方式
(1)予定利率
個人生命保険(有配当)契約の場合の水準について、各社の状況を見てみると、民間の5社に比較して、LICが相対的に高い予定利率を採用している。

なお、2015年度から2016年度にかけて、民間の4社が予定利率の引き下げを行っている(以下の各図表において、前年度から変更が行われた部分に網掛けを行っている)。
責任準備金計算基礎(予定利率)―個人生命保険(有配当)契約の場合―
LICの予定利率については、商品毎に異なっており、無配当商品では有配当商品よりも低い予定利率を採用しているケースもある。これは、一般的に、有配当と無配当のファンドの期待利回りや配当によるバッファー的要素を反映したもの、と説明されている。LICは2015年度に幅広い商品の予定利率を引き下げたが、2016年度は2015年度と同水準としている。
責任準備金計算基礎(予定利率)―LICの場合(個人保険商品毎)―
事業年度毎の予定利率の変化については、LICの場合、個人生命保険(有配当)では、2014年度までの5年間は同水準で推移してきたのに対して、2015年度は引き下げを行い、2016年度はこの水準を維持している。さらに、個人年金保険(有配当)では、以下のようになっている。
責任準備金計算基礎(予定利率)―LICの個人年金保険(有配当)の場合(事業年度毎)―
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【インドの生命保険業界及び主要会社の状況-2016年度の決算数値を踏まえての成長性・効率性・収益性・健全性等の動向-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

インドの生命保険業界及び主要会社の状況-2016年度の決算数値を踏まえての成長性・効率性・収益性・健全性等の動向-のレポート Topへ